44 死神の凄み
奇人官吏がいよいよ動きだします!
「絳様!」
絳は獄舎の院子にいた。院子の日陰に咲き残る梔子を眺め、項垂れていた絳が靑靑の声に振りかえる。
「靑靑、なぜ、ここに」
「絳様、大変なことが。宮廷の門に中都督の邸で働く女官たちが押しかけて、胡 琉璃は殺されたのだと訴えています」
絳が眼を見張る。睛眸の底でぐらりと火が燃えた。
「衛官は女官たちの話も聞かず、追いかえそうとしています。絳様、どうか彼女たちの証言を取りついで、真実をあきらかにしてください!」
懸命に訴える靑靑をみて、絳は眉の端をあげた。
「ああ、そうか。あなたは宦官となるまでは胡姓、でしたね。よくある姓だとおもっていましたが」
「そうです。胡 琉璃は僕の姐です」
靑靑は濡れた石畳に膝をつき、頭をさげた。
「どうか姐の無念を晴らしてください! 姐を苦しめ、あげくに命を奪った男に報いを受けさせてください!」
絳が息をのむ。
靑靑の眼からはとめどなく涙がこぼれた。
悔しかった。哀しかった。ただ、ただ、腹だたしかった。
権力をもった武官の罪を公表して糾弾することがどれほど難しいか、靑靑だって理解してはいる。それでも。
「あなたの想いはわかりました」
靑靑の胸で吹き荒れる激情を、確かに預かったとばかりに絳は彼の震える背に触れる。
「あとは私に任せなさい。罪人はかならず、裁きます。たとえそれがどんな身分も、いかなるものであろうと。罪の重さに違いはないのですから」
罪を罪として扱い、平等に裁く。
宮廷ではそんなあたりまえのことがとてつもなく難しかった。
進むさきが嵐になると知って振りかえらずに進んでいく絳の背は頼もしい。それでいて、不穏なものを感じるのはなぜだろうか。
さながら、罪人の頚を落とさんとする死神のような。
奇妙な凄みが漂っている。
だが、絶望する靑靑にとって、その凄みほど心強いものはなかった。
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