33 怒りの屍
都にある武官の邸では、朝から盛大な祭りが催されていた。
院子では妓女が舞を披露し、葬礼相声という漫才師が賑やかに弁舌を振るっている。食卓には御馳走がならび、日も高いうちから黄酒が振る舞われていた。軒から提げられた垂れ幕は、白。
祭り――いや、これは葬礼だった。
中都督である牟勇明の妻が昨日、逝去したのだ。
斉においては、大勢の人が葬礼に参列するほどに家の権威があがると考えられる。よって牟も催物を執りおこない、見境なく参列者を寄せていた。騒ぎを聴きつけたものがのべつ幕なしに群がって、邸の敷地に収まりきらずに塀の外側にまであふれるほどだ。牟勇明はたいそう満足げで、妻の死を嘆いている様子はまったくといっていいほどになかった。
「旦那様、そろそろ開棺となります」
「ふむ」
妻の遺言書に書かれていたとおり、屍の修復は後宮の死化粧師に依頼した。
かねてから、後宮の死化粧師は優秀だという噂は聴いていた。準備でばたついていたため、後宮から帰ってきた柩はまだ確かめていなかったが、支障はないだろう。
牟勇明は咳払いをして声を張りあげ、祭文を読む。
続けてこう、うながした。
「最愛の妻。胡 琉璃。彼女を妻に娶ったことは私の最大の幸福であった。お集まりくださった皆様がたも妻の冥福をお祈りください」
哀歌が奏でられ、それにあわせて哭女という演者が大声をたてて号泣を始める。参列者の同情を誘うためだ。
柩が、ひらかれた。
花を捧げようと柩を覗いた参列者たちが、絶叫した。
腰を抜かすもの、列にならんでいたものを突きとばして逃げだすもの、なにがあったのかと身を乗りだすものと、あたりはいっきに桶をかえしたような喧騒につつまれた。
「な、なんだ、いったい」
後れて柩を覗きこんだ牟勇明が絶句する。
琉璃の死に顔は鬼のような憤怒を漲らせていた。
眼を見張り、眉をはねあげ、歯が剥きだしになるほどに口をあけている。今にも柩からよみがえり、喉もとを喰い破らんばかりの鬼気せまるさまだ。
「祟りだ!」
「呪われちまうぞ!」
怨嗟に満ちたその表情をみた参列者たちは恐慌をきたして、逃げだす。胡の親族は震撼してへなへなと崩れ、気絶するものまでいた。妓女も演者も漫才師まで先を争って、邸の院子から飛びだしていった。
「どうなっているんだ、これは!」
祭りのような賑わいは一瞬にして、静まりかえった。面子を潰された牟だけが恐怖をも凌ぐ屈辱感に打ち震え、喚きたてる。
「死化粧師の仕業か!? 許さぬぞ! 俺に恥をかかせよって」
牟家の女官たちは青ざめながら、互いに視線をかわす。震える拳を握り締めて、彼女たちは一様にうつむいた。
お読みいただき、御礼申しあげます。
途中に登場した「哭女」とは実際に中国の葬式にはかかせない演者で、哀しみのあまり泣くことができない遺族のために号泣したり魔が近寄らないために大声をたてるという素敵な職業です。いつか、この「哭女」を題材とした小説も書きたいものですね。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。





