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3  屍愛づる妖妃

連載初日から日間推理〔文芸〕ランキング1位!

皆様応援いただき、ありがとうございます! とても嬉しかったので、ちょっと早めの更新になりました!


いよいよにヒロインの登場です。

この度はヒロインとヒーローの視点を移動しつつ物語が進んでいきますので、引き続き、お楽しみいただければ幸いです。

「屍をよみがえらせる妃、でしたか。なるほど……」


 噂とは頼りにならぬものだ。

 だが、嘘からでた実のように真実が隠れていることもある。


 ふらふらになっている靑靑ショウショウを連れて、コウろうかを進む。

 ふいに声が聴こえた。


「ふふふ、……だよ。きみは青みがかった肌をしているからね、やわらかいうす紅があうだろうね。……髪は、そうだな、……しようね」


 細部は聴きとれないが、鈴を振るような姑娘むすめの声だ。ずいぶんと嬉しそうに語らっている。微かだが、艶めいた響きを帯びていた。絳は呼びかけることもわすれて、声のする房室へやを覗きこむ。


 ひとりの姑娘むすめが、すわっていた。

 絳は一瞬だけ、姑娘が咲き誇る蓮のなかにいるのかとおもった。だが、違った。床一帯に拡がるくんのすそに紫の蓮の意匠が施されている。白絹のどうぎしたばきを身につけているから、よけいにその紫が眼を惹きつけた。

 もっとも、夢想家でもない絳が、刹那とはいえど幻想をみたのは、姑娘そのものが漂わせている妖艶なふんいきにあてられたせいでもあった。


 だが、幼い。

 推測するに十五歳ほどか。こうがいを挿していないので、十四ということも考えられた。

 透きとおるような肌に紫を帯びた瞳。唇は真紅に潤んでいて、雪に落ちた紅椿べにつばきを彷彿させる。絹糸けんしを想わせる髪が毛氈しきものに垂れ、拡がっていた。

 娘は緩やかに身をかがめ、傍に横たえられたものに唇を寄せる。愛しいひとと睦みあうように。


 だが、彼女が接吻くちづけを落としていたのは男ではなく、まして命あるものでもなく、裂けた腹から腸を剥きだしにした女官のしたいだった。


「ひっ、あっ、うわああっ」


 悲鳴をあげ、今後こそ靑靑ショウショウが転がるように逃げだす。絳がとめるまでもなかった。姑娘が眉根を寄せながら、こちらに視線をむける。


「ああ、まったくもって、騒々しいね」


 姑娘むすめがあからさまにため息をついた。


「これだから、生きているにんげんはやかましくてきらいなんだよ。死人の凍りついたような静謐さを、ちょっとくらいは見習ったらどうかな」


 男のような奇妙な喋りかただ。


「……大変失礼いたしました」


 コウは瞬時に気を取りなおして、慇懃に頭をさげる。


「私はコウ刑部後宮丞けいぶこうきゅうじょうです」


「後宮丞か。……聴きなれない官職だね」


「今期より新たに設けられた官職で、後宮の事件、事故を管轄しております。あなたさまはスイ紫蓮シレン妃とお見受けいたしますが」


「いかにも僕が綏紫蓮だよ」


 スイ紫蓮シレン――彼女は妖妃ようひと噂されていることをのぞいても、訳アリの妃だ。ほんとうならば、妃にはなれない産まれでありながら、後宮におかれている。永遠に御渡りがないにもかかわらず、新たな皇帝の妃という階位を賜っているのは彼女にしか務まらない役職があるためだ。


「〈後宮の死化粧妃しげしょうひ〉であるあなたに依頼があり、参りました」


「いいよ。しかばねの声ならば、僕は聴きいれよう」


 姑娘むすめがうっそりと唇を綻ばせて、微笑んだ。

楽しんでいただけているでしょうか?

続きは5日20時から21時に投稿させていただきます。

「続きが気になる」とおもっていただけたら、ぜひとも「ブクマ」をぽちりと押して皆様の書架に加えていただければ、喜びの舞を踊ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 僕っ子! 死体を愛おしむ僕っ子な妃とは、予想外でインパクトがあって素敵ですね。若い娘らしからぬ喋り方も好きです。 これからの死化粧妃としての活躍が楽しみです。
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