110妖妃と奇人官吏、再会する
はじめは紫蓮視点です。
✦以降は絳視点になります。
「宮廷で人死にが続きすぎちゃいないか」
荷車を押しながら、後宮の宦官たちが喋っている。
「やっぱり先帝の祟りだよ」
「いや、先帝が祟られていたんだろ」
「どっちでも変わらんだろう。皇太妃様まで死んで、あんな幼い皇帝陛下だけでこれから斉はどうなっていくんだか」
「皇帝陛下が御成人なさるまでは、宰相が摂政することにきまったとか。ほら、皇帝陛下の親族には摂政なんかできる御方はいないからな」
「それにしても重いな。ま、あとは奴婢が取りにくるだろう」
宦官たちの声がしなくなってから、紫蓮は屍をつつんだ藁から頭を覗かせ、荷車から降りた。
「やれやれだよ」
うまく後宮から抜けだすことができた。
宮廷は後宮とくらべて、飾りたてるように燈火がたかれているわけではないので、暗がりに紛れるのもかんたんだ。あとは絳を捜すだけだが――いるとすれば官舎か、刑部省の尚書室か。宮廷にきたことなどないので、紫蓮はどちらに進んでいいのかもわからずにため息をついた。
まずは官舎を捜してみるか。
提燈をさげた衛官がきた。紫蓮は繁みに身を隠しながら探索をはじめた。
✦
また今晩も眠れないか。
紫蓮と逢えなくなってから、絳の不眠は酷くなるばかりだった。まもなく鶏鳴(午前一時)の鐘が鳴る。
絳はすでに眠るのを諦めて、几にむかって文書を読んでいた。
靑靑いわく、紫蓮は毒菫を喜んでくれたという。
聡明な彼女のことだ。あれが毒物で、先帝の死の真実を解きあかす手掛かりになることも察してくれたはずだ。
「紫蓮……」
彼女のことを想うだけで胸が締めつけられる。
愛しい。だが、想えば想うほどに切なさがこみあげた。
彼女は一緒だとおもっていた。死に惹かれ、怨嗟をかかえて終わりをもとめ続けている亡霊の身だと。だが、彼女は絳の想像をはるかに越えるほど浄らかで、強かった。
「は、……私なんかでは彼女を連れては、いけないか」
ひとり、ぽつりとつぶやいたその時、窓にこつんとなにかがあたった。
燈火に惹かれた夏の虫だろうか。僅かに警戒しながら、窓の外を覗きこんだ絳は想わず眼を見張り、現実を疑った。
房飾りのついた袖が、揺れる。
「紫蓮、なぜ」
ここにいるはずのない姑娘が、そこにいる。
絳は慌てて官舎の窓をあけ、飛びおりていった。
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ようやく紫蓮と絳が再会を果たしました。
ここから推理と謎解きが始まります。しかしながらふたりの関係にも大きな変化が!?
続きは2月3日に投稿させていただきます。





