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英雄から第二王子の婚約者に転生した悪役令嬢はとにかくトレーニングがしたい。  作者: くびのほきょう


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9/11

009 裏庭の東屋や音楽用自習室 (アビー)

「アビー、入学おめでとう。制服とても似合ってるね。入学生の中で一番可愛い」


イヴァンとお祖父様の3人で入学式の講堂へ向かって歩いていると講堂の前で第二王子殿下に声をかけられました。3年前のお見合いの時、見た目が気に入らずにだんまりだった疑惑のある第二王子殿下に可愛いと言われても正直信じられませんが、相手は王族、素直にお礼を言っておきましょう。


「ありがとうございます」


今日は魔力を持つ者が15歳から3年間入学を義務付けられてる魔法学園の入学式です。養子に入り従兄弟から義弟になったイヴァンも一緒に本日入学です。


男子生徒は魔力の属性ごとに決まった色のネクタイを、女子生徒はリボンを着ける校則があり、私のリボンの色は無属性の黒色、イヴァンのネクタイの色は砂属性のオレンジ色です。馬車を降りてから講堂前まで沢山の生徒とすれ違いましたが、黒いネクタイや黒いリボンの生徒はまだ見てません。同じ無属性の生徒と身体強化のためのトレーニングのノウハウを分かち合うチャンスです。諦めず探して行きたいと思います。


1歳上で2年生になったライオネル第二王子殿下はイヴァンと同じオレンジ色のネクタイを着けております。ライオネル殿下は砂・雷・水の三属性のうち咄嗟の攻撃は雷属性が出るので雷属性の黄色いネクタイかと思っておりましたので意外に思っていると、横からお祖父様が殿下に挨拶いたします。


「第二王子殿下、お初にお目にかかります。前ラバース辺境伯イーサン・ラバースです。本日は我が孫アビーとイヴァンの入学式の参観に参りました」


お祖父様は普段、前辺境伯として領地で暮らしております。私とイヴァンの入学式の日、お父様とお母様が夫婦で参加しないといけない外交の予定と重なり悔しがっていたところに、お祖父様がならば自分が参観すると言いわざわざ領地から出て来たのです。その外交の仕事ですが、お祖父様が先方と日程を決めたはずだとお父様はお怒りです。


実はビフだった事を思い出した3年前から私とお祖父様との仲は微妙です。


お祖父様はビフの可愛い愛妹サニーの夫ですが、学生の頃、サニーの婚約者時代にビフの妻ララを口説いていた過去があるのです。当時のイーサンはサニーと仲の良いララには拒絶され、サニーには問い詰められて無視され、イーサンはサニーに謝り倒し何とか仲直りしました。ビフはサニーが許しても、サニーを傷つけたイーサンを許しておりませんでした。


そして、サニーは今世の私が3歳の頃に風邪を拗らせて亡くなってるのです。今世の私の大好きなお祖母様で前世の可愛い妹サニー、ビフが無属性とわかり両親から捨て置かれた後も「ビフお兄様」と呼んで甘えてくれた可愛いサニーにはまだまだ長生きして欲しかったのです。


サニーの死はイーサンが悪い訳ではありません。それは分かっているけれどどうしても割り切れないものがあるのです。


お父様経由で私がビフの生まれ変わりだと知ったお祖父様は、トレーニングでも前以上にベタベタとしてくるようになり、正直しつこくてうざいのです。それと、ビフだと思い出す前にお祖父様に教えてもらったトレーニングは全てビフのノウハウでした。ただのパクリですし、ビフはイーサンに教えた覚えはありません!


ビフ時代のイーサンはビフに対しても普通の親戚付き合いをするだけで、騎士団員の後輩達のように慕ってはきませんでした。その事を指摘したところ「サニーのことが大好きなビフ様には昔ララにちょっかいを出したせいで嫌われてしまっていたけど、私は実は陰でビフ様にすごい憧れていたし、いつもサニーやナックから色んなビフ様情報をこっそり仕入れていたんだ。いつもアラスター殿下とどちらの方がビフ様にふさわしいか争っていた位なんだよ?」と言われました。ナックとはビフの弟でサニーの兄です。


私はお祖父様が嫌いになった訳ではありません。嫌いではありませんが、ララを口説いてサニーを悲しませたお前を忘れてないからな!と距離を取ろうとしているのです。それすら「ビフ様と同じ塩対応!アニーちゃんの反抗期はお祖父様がもらった!」と喜んでるのです。始末に負えません。


ビフ様の隠れファンだったことが本人にバレてしかもまたビフ様に会えたことで嬉しすぎて開き直っているだけだから許して上げて、とお父様に頼まれましたが心底嫌です。


そんな、私のお祖父様の気持ちを知らないはずの第二王子殿下ですが、満面の笑顔でお祖父様とイヴァンを突き放すような返事を言いました。


「アビーの婚約者のライオネルだ。入学式まで時間があるからアビーに校内を案内しよう。イーサン卿はイヴァンと共に講堂へ行っているとよい」


私は別にどちらでも構いません。どう返事しようかと考えているうちに第二王子殿下とお祖父様が目の前で言い争いを始めました。


「殿下、校内の案内でしたら本日入学のイヴァンと私も是非一緒に連れて行ってください。40年ぶりに学園の中を見たいですな。アビーちゃんは訓練所が見たい?」

「アビーが訓練所を見たいことなど確認するまでもなく当たり前だろう。40年前から校舎は特に変わりない。お前は孫息子に裏庭の東屋や音楽用自習室でも案内してやれば良かろう」

「それはそれは、裏庭の東屋や音楽用自習室とはどういう意味ですかな?殿下も利用しているので?アビーの祖父としては聞き捨てなりませんが」

「お前と私は違うのだ。一緒にしないでもらおうか。お前とイヴァンの顔は瓜二つだからお前と同じように利用するのだろうと思ったまでだ。使途はお前から教えてやれば良い。それにアビーの祖父と言うが、随分と嫌われているようだが?サニーに嫉妬して欲しいからと拗らせて女遊びしていた結果ビフ様に嫌われていたような男は孫が出来る歳になってもまだ客観視が出来ないようだな!はっ!ざまぁ!」


「っ!……なぜそのことを。それにこの感じ、まさか……」


裏庭の東屋や音楽用自習室ねぇ、40年前のビフの学生時代は男女の密会場所として男子生徒の間で密かに有名な場所でした。イーサンが常連だったとは。サニーの気持ちを考えると腹が立ちます。益々お祖父様を軽蔑します。


「アビーちゃん!裏庭の東屋のことは若気の至りであって、その、あっお祖父様をそんな目で見ないで!」


うろたえているお祖父様を尻目にイヴァンが殿下に裏庭の東屋や音楽用自習室の意味を聞いてます。


「裏庭の東屋や音楽用自習室って?…いや、なんとなく意味はわかったし多分間違えてなさそう。ってかお祖父様の女遊びって孫世代の殿下が知っている位酷かったんだ」

「あぁ最近祖父上に聞いたのだ。祖父上とイーサン殿は1学年違いで学園に通っていたらしいのでな」

「ますますアビーに嫌われてるお祖父様涙目だし。先王情報、えぐ。」

「泣いとらん!アビーちゃん!誤解だから!」


イーサンが学生時代に女遊びが酷かったことは誤解ではないし、そろそろ周りの目が気になるのでやめてほしいです。私はお祖父様を無視し、もう講堂に入りたいと講堂を見つめます。


「校舎の案内はいつでも良いし、もう講堂に入って座ろうか」


第二王子殿下はそう言ってこちらへ手のひらを差し出してきたため、第二王子殿下のエスコートで講堂に入りました。


入学式は入学生、保護者、上級生入り乱れて椅子に座ってよいようです。私は先に椅子に座ったイヴァンの隣に座りました。第二王子殿下より先に座って良いのかと少し疑問を持ちましたが、イヴァンが先に座っていたので大丈夫でしょう。この3年でイヴァンやスパーキーを含めて第二王子殿下とは大分打ち解けた気がします。トレーニング後の同じ水を飲む仲間ですからね。


イヴァンとは反対側の私の隣を第二王子殿下とお祖父様とで争っておりますが放っておきましょう。


「年寄りは遠慮していただきたいな。私はアビーの婚約者なのだから隣に座るのは私だ」

「年長者は尊重するものですよ。ここは祖父の私が隣に座るべきでしょう」

「どちらでも良いから早く座ってほしい」


イヴァンがそう呟いた時、後ろから声がかかりました。


「アビー殿、入学おめでとう」


シゲティです。スパーキーは2学年上なのでスパーキーの保護者としてシゲティがここにいる必要はありません。


「もしかして、アビーの入学式だから来られたのですか?」


イヴァンの問いかけにシゲティは頷いて肯定しました。シゲティは前世の息子です。自分の息子に入学式の参観をしてもらっているという今の状況が面白いです。私はシゲティに隣に座るようにと隣の椅子を叩きました。


「あぁ!アビーちゃんの激レア笑顔!」

「可愛い!って、あぁぁ、騎士団長にアビーの隣に取られた!」


私の隣に座ったシゲティを見た殿下がイヴァンに命令し席を譲らせました。左からイヴァン、第二王子殿下、私、シゲティ、お祖父様の順で落ち着きました。


第二王子殿下とお祖父様のやりとりの幼稚さに周りの目が気になっていたのですが、実は私たちが入室した後すぐに第一王子殿下が婚約者ではない令嬢をエスコートして入室され、皆がそちらを注目していたためにこちらは目立たなくなっておりました。正直助かりました。


第一王子殿下の婚約者イゼベル・マルコス公爵令嬢ですが、実は素行に問題ありとして第一王子殿下の次の婚約者の目処が立ち次第婚約解消することに決まったのです。私は第二王子殿下の婚約者としてその情報を教えられました。もちろん、ラバース家の者にも誰にも漏らしていませんが、貴族の間では近々婚約解消するのでは、と既に噂になってるようです。


一つ年上のイゼベル様は学園に入学して1年が経ってます。この1年を見た学園の生徒は、イゼベル様と第一王子殿下の不仲に気づき、イゼベル様の様々な行動が次期王妃になるものとして相応しくないのではと論難し、家族へ第一王子殿下とその婚約者の動向についてを報告していました。そのせいで学園の外にまでイゼベル様の婚約者失格な行動の話が広がって行ったようです。


私が王宮の騎士団訓練所で訓練するシゲティと遭遇しビフの記憶を思い出すきっかけになったイゼベル様ですが、その時に非常識なほど地味な装いにびっくりしたことを思い出します。


イゼベル様の非常識な行動はその地味すぎる装いのことだけではなく、夜会やお茶会を頻繁に病欠すること、お茶会や夜会にまで非常識なほどの地味な格好で参加すること、イゼベル様の使用人が王宮の品を窃盗した事件のこと、使用人や周りの令嬢に甘く舐められていて集団で群れているだけで統率を取れていないこと、何かにつけて第一王子殿下に「第二王子殿下の方が優れていても仕方ないから気にするな」と発言をすること、イゼベル様の担当している分より量も多く難しい執務をイゼベル様より先に終わらせている第一王子殿下のことを自分に執務を押し付けて遊んでいると周りに愚痴っていること、まるで第一王子殿下に愛人がいるかのような発言を公ですること、第二王子殿下に横恋慕しているのがバレバレで学園や王宮で第二王子殿下の行く先々に現れること、等々問題行動が多すぎて取り返せないところまで評価が落ちてしまったようです。


本来なら幼少期から王族の婚約者として努力していたイゼベル様の今後を慮り、せめて先に婚約者を解消してから第一王子殿下の婚約者を定めるべきですが、なぜか自信満々に第一王子殿下を扱き下ろすイゼベル様に王妃様の怒りが収まらず、王妃様の怒りと第一王子殿下への申し訳なさでマルコス家も納得の上で第一王子殿下の評判優先で事を進めているようです。


先ほど第一王子殿下がエスコートして注目されていた令嬢は婚約者候補の1人、光属性の子爵令嬢でしょう。リボンの色は光属性の白色、ララと同じピンク色の目にミルクティー色の髪だと聞いていたので間違いありません。つぶらな瞳にふわふわの髪の毛、小柄なところ、あれだけ皆の注目を浴びているのに気にしているように見えない大物感、全てがララを思い出させます。

ララは王族以来初の二属性で、しかも珍しい光属性持ちでした。同じ光属性持ちで髪と目の色まで同じとなるとララの実家、キーラー子爵家と遠縁なのかもしれません。後で貴族名鑑を確認しましょう。


それにしても第二王子殿下とお祖父様は今も横で小声で小競り合いをしております。2人とも実は仲が良いのでは?2人の小競り合いを見ているとなぜかアラスター殿下とイーサンのことを思い出します。彼らは同い年で、7つ年上のビフと会うときはいつもビフの前でお互いの足を踏みながら小声で小競り合いをしていたものです。


そんなこんなで入学式が始まりました。

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