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英雄から第二王子の婚約者に転生した悪役令嬢はとにかくトレーニングがしたい。  作者: くびのほきょう


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8/11

008 恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2 (イゼベル)

「すみません。迷子になってしまったのですが、入学式の講堂ってどこですか?」


つぶらなピンク色の瞳に涙をため、ミルクティー色の髪の毛をふわふわと揺らした小柄で可愛いらしい令嬢が、金髪碧眼イケメンに声を掛けてます。2人のこの出会いを確認したいがために、30分以上も前から木の陰へ隠れてた私の苦労が報われます。


「君は入学生かな?私も今から講堂へ行く所だから案内しようか」


そう言って金髪碧眼イケメンは手の平を差し出してます。婚約者がいる身で出会って1秒の令嬢をエスコートしようとする男、控えめに言って最低です。そして出会って1秒の男の手を取りエスコートされる貴族女は間違いなく尻軽です。


ゲームのシナリオでは相手が第一王子だと気付いていなかったとなってましたが、金髪碧眼が王族の代名詞になっているこの国で貴族令嬢が王子に気付かないなんてありえるのかと疑問です。そう、何を隠そうあそこにいる最低金髪碧眼イケメンはこの国の第一王子テオドール・リルケ、尻軽ピンク目令嬢は乙女ゲームのヒロインなのです。


今日はヒロインの入学式の日、乙女ゲームのスタートです。テオドールとヒロインは2人で入学式の講堂へと歩いて行きました。ヒロインより2学年上のテオドールは上級生代表として入学式で挨拶があるのです。第一王子のテオドールにエスコートされて講堂に入ったことで周囲の注目を集めたヒロインは、テオドールの婚約者とその取り巻きの令嬢からやっかみを受けることでシナリオが進んでいくのです。


まぁ、テオドールの婚約者イゼベルは今ここにいる私なので、講堂にいない私がテオドールにエスコートされて講堂に入るヒロインを見て嫉妬するシーンはもう再現できないのですけどね。ゲーム上の悪役令嬢イゼベルは2年生なので入学式に参加する必要は無いのにテオドールの挨拶を見るために取り巻きを引き連れて参加するのです。私が今講堂にいないのは計算のうちです。これでシナリオから逸れてくれたら良いのですが……。


基本的に公爵令嬢の私は一人歩きをすることはありません。しかし、私は未来の破滅を防ぐために情報を集める必要があるのです。情報を制するものが戦いを制す、前世どころか今世でも耳にする常識です。乙女ゲームのオープニングムービーで見たテオドールとヒロインの出会いのシーンを確認するために、取り巻き達を躱して1人でここに来てます。第一王子だってあのように1人でうろうろ出来ているのだし、私も一人歩きくらいさせて欲しいものです。


親から言われて私に阿るために常に行動を共にしている取り巻き達は、まさか公爵令嬢の私がトイレの小窓から出て行ってしまったとは夢にも思ってもいないはずです。トイレの前で長時間待たせてしまっているのはかわいそうですが、私の未来の破滅と比べたら瑣末な出来事です。それに、そのまま入学式を見に行かずにトイレの前で私を待っているままなら取り巻きの彼女たちもテオドールとヒロインが一緒に講堂に入ってくるシーンを見て嫉妬する事も起きません。


ヒロインとテオドールは前世でプレイした乙女ゲーム「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2」のオープニングの通りに出会いました。ヒロインは珍しい光属性の男爵令嬢というベッタベタなキャラクター設定です。持ち前の天真爛漫さと珍しい光属性で、学園を襲う様々な困難を攻略対象と共に乗り越えていく、ノベル形式の乙女ゲームです。攻略対象は第一王子、第二王子、宰相子息、魔法師団長子息、辺境伯子息、騎士団長子息の5人です。もはやお約束に近いベタさです。


「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2」というタイトルから想像できる通り、シリーズの2作目です。シリーズ1作目「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園」は私の祖父世代が舞台で、もれなく私の祖父も攻略対象でした。


シリーズ1作目のヒロインは、子爵家の庶子なのに王国始まって以来の王族以外の魔力二属性というキャラクターで、攻略対象は第一王子、第二王子、宰相の息子、辺境伯子息、魔法学教師、英雄の6人。私の祖父は魔法学教師です。その中の英雄ルートでハッピーエンドを迎えた世界の話が「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2」です。


前世を思い出した後に確認したところ、英雄ビフ・バフィントンと結婚した女性はララという史上初の王族以外の二属性の元子爵令嬢でした。シリーズ1作目ヒロインのデフォルトネームはララだったので間違いなくゲームの通りです。ここは1作目のヒロインが英雄ルートでハッピーエンドを迎えた世界で間違いなさそうです。


2作目ヒロインのデフォルトネームはリリー。先ほどテオドールに色目を使っていたピンク目令嬢の名前はリリー・サロメのはずです。


物腰柔らかでいつも笑顔を絶やさない所謂優男キャラの第一王子テオドールは、その笑顔の裏で自分より優れた弟の第二王子ライオネルに酷い劣等感を抱いてます。優男キャラによくある実は腹黒という設定も無く、ライオネルを陥れたりすることもせずに、かわいい弟に劣等感を感じている自分にウジウジと自己嫌悪を覚えてるだけのつまらないキャラクター設定でした。幼い頃からの婚約者イゼベルは気が強く派手好きな我儘で全く好きになれず、学園で出会った婚約者と真逆な控えめで健気な癒し系のヒロインに惹かれてしまう、といった糞みたいなシナリオです。


前世のOL時代は本命では無いものの第一王子ルートも楽しんでプレイしておりましたが、実際に現実として生きると第一王子テオドールの不誠実さに腹が立ちます。


テオドールが全く好きになれないと明言していた気が強くて派手好きで我儘な婚約者イゼベルに転生してしまった私。やるせない。前世の私の推しは第二王子ライオネルだったので、どうせならライ様の婚約者のアビーに転生したかったです。いや、魔力無属性は嫌なのでアビーじゃなくヒロインに転生したかったです。


代々魔法師団長を務めることが多い公爵家に生まれた私は、幼くして第一王子テオドールの婚約者に決まり、7歳で初めてテオドールの顔を見たことで日本という国でOLをしていた前世を思い出しました。テオドールとの顔合わせ中、TPOも考えることなく勝手に頭の中へ流れ込んでくる30年分の記憶に耐えながらカーテシーををしていた私を誰かに褒めて欲しい。この世界は前世で入れ込んだ乙女ゲーム「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園」シリーズの舞台で、私は2作目の「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2」の悪役令嬢に転生していることに気づいた時はすでに婚約後だったという事実!絶望です。


1作目の「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園」の3人いた悪役令嬢達はゲーム終了後、お咎め等なにもなくヒロインが攻略しなかった攻略対象と結婚します。現在の呼び方だと王太后マルヴィータ、前公爵夫人ケイトリン、前辺境伯夫人サニーですね。マルヴィータとサニーは既に鬼籍に入ってるものの、3人全員、結婚し跡取りを産み高位貴族の夫人を勤め貴族人生を全うしました。


なのに!「恋愛⭐︎絶対☆魔法学園2」の悪役令嬢イゼベル・マルコスとアビー・ラバースはヒロインが誰のルートでどんなエンドを迎えたとしても婚約者との婚約は無くなり悲惨なその後を匂わせられてるのです。バッドエンドを迎えて攻略失敗したとしてもです!そんな匂わせいらない!


私は第一王子テオドールと魔法師団長子息でイゼベルの弟ネイト・マルコスの悪役令嬢です。


ゲームのイゼベルは、気が強く派手好きで我儘、気に入らない令嬢がいると取り巻きを使ってその令嬢を追い詰める事から周囲からは恐れられ、不機嫌な時は侍女に当たり散らすことで使用人から忌避され、弟が可愛がっていたウサギをマフラーにし弟から疎まれ、見目麗しい婚約者をアクセサリーのように連れまわし婚約者から嫌われます。


両親を除く周囲の殆どから嫌われてますが、外面だけは美しいことで学園入学前の夜会で外国の公爵に一目惚れされます。イゼベルはほとんどのルートの終盤でその公爵と結婚させられるのですが、実は公爵は酷いサディストでイゼベルの前に既に何人もの夫人が亡くなっているのです。それを、テオドールは「優しいヒロインには教えられないよね」と苦笑いで従者に話すシーンがあるのですが、思い出すとはらわたが煮えくりかえりそうです。


そう、テオドールは幼い頃から将来王妃になるために努力している婚約者を、気が強いというだけで気に入らず珍しい光属性というだけでヒロインになびき、たとえそのヒロインが振り向かなくても結局は長年の婚約者を捨てる男なのです。ライ様がテオドールより遥かに素晴らしいという当たり前のことをウジウジと悩み、癒してくれる人を求めているというケツの穴の小ささも気に入りません。


7歳の私はサディスト公爵と結婚しないことはもちろん、テオドールの有責で婚約破棄することを決意し、これまで頑張ってきました。


先ほどのヒロインとの出会い、ヒロイン側の尻軽さも気に入りません。前世のWeb小説でよく読んだ“ヒロイン逆ざまぁ”の必要があるようです。決意を増やした私は次の作戦を練るため、取り巻き令嬢の元へ向かいました。

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