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英雄から第二王子の婚約者に転生した悪役令嬢はとにかくトレーニングがしたい。  作者: くびのほきょう


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003 地味変装令嬢 (アビー)

「ごきげんよう。私はイゼベル・マルコスですわ。あなたは?」


お見合いをしていた応接室から馬車留めへ向かい歩いていたところへ、両の手の指ほどの侍女と護衛を引き連れ対面から歩いてきたご令嬢に声をかけられました。マルコス家は公爵家でご令嬢はたしか第一王子殿下の婚約者様です。


今まで辺境の領地を出たことがなかった私が初めて遭遇する貴族のご令嬢としてはレベルが高すぎます。さすが王城。まぁ先ほどの第二王子殿下に比べたら、話しかけてくれる分だけ難易度は下でしょうか。


イゼベル様は艶々の美しい銀の髪を髪飾りも着けずにお下げにし、小さなお顔の半分以上を分厚いメガネで覆い、黒に近い紺色の簡素なドレスに一切の装飾物を着けてない、正直、貴族令嬢としては非常識な出で立ちです。


これでおどおどと自信なさそうにでもされてたら公爵家で冷遇されているのではと心配になりますが、装いは地味でも髪や肌は艶々すべすべで最上級の手入れがされているのが分かりますし、お声掛け頂いた言葉や侍女と護衛を引き連れている姿は上位貴族として正しく居丈高なご様子です。


家庭教師から貴族名鑑を勉強した際、第一王子殿下の婚約者で公爵令嬢という肩書きから縦巻きロールで腰に手を当てて高笑いをしてる令嬢を想像しておりました。実際のイゼベル様は見かけは予想を外し地味な装いなのに、中身は予想通り腰に手を当てて高笑いしていそうといったとてもチグハグな印象です。


一体どんな理由があって地味な変装をしているのでしょうか。田舎でトレーニングばかりしていた私には想像もできない事情があるのでしょうか。


とはいえ、非常識な地味変装令嬢でも相手は公爵令嬢。辺境伯令嬢の私からの挨拶ですので片足を引きカーテシーをしながら名乗ります。


「アビー・ラバースと申します」


イゼベル様は大きなメガネでも隠しきれてない整ったお顔をしかめ、私をまじまじと見定めてます。とても分厚いレンズなのにアーモンド型の綺麗な黒い瞳が隠せておりません。レンズに度が入ってないようです。何のためにメガネをかけているのかと益々謎が深まります。


「楽にしてちょうだい。……アビーさんと呼ばせていただくわ。私のことはイゼベルと呼んでくださいな。こんな可愛いらしいご令嬢とお話ししていたなんてライ様が羨ましいわ」


イゼベル様は第二王子殿下に愛称呼びを許されているようです。将来的な義弟とはいえあの殿下と親しくしているとは、すごい。無言の裏で関心していた私にイゼベル様は尚もお声をかけてくれます。


「アビーさんは武に長けたラバース辺境伯のご令嬢だもの、王宮の騎士団は気になるかしら?」


騎士団。正直お見合い相手の第二王子殿下よりもずっと気になります。今の騎士団長シゲティ・バフィントンはかの英雄ビフ・バフィントンの息子なのです。無属性の英雄、いえ無属性でなくても強さに憧れるもの達の英雄ビフ・バフィントン。その息子です。もちろん会いたい。どんなトレーニングをしているか見たい。そして手合わせをしていただきたい。


実は私はビフ・バフィントンの妹の孫なので騎士団長とは遠縁なのです。父と騎士団長は従兄弟として幼い頃から親しくしているのですが、私はこれまで辺境の領地を出なかったために王都で仕事に追われる騎士団長とはまだ会ったことがないのです。


多忙なお父様と騎士団長とで予定をすり合わせて、近々会える機会を待っておりました。しかし、お見合いのために領地から王都に来て3日、タウンハウスの庭でのトレーニングに限界を感じ不満が溜まっておりました。そのため、騎士団長にはお会い出来ないままですがお見合いが終わったらすぐに領地に帰ろうと密かに決めていたのです。


私のそんな思いを知ってか知らずか、イゼベル様は尚もお声をかけてくれます。


「ライ様とのお見合いも終わったのでしょう?私、今から騎士団訓練所の近くまで行く予定があるの。アビーさんがよければ訓練所まで案内してあげるわ」


まじですか!思わず私は首を縦に振りました。一瞬、お父様お母様に確認せずに騎士団の訓練所を見学しても大丈夫かと不安になりましたが、非常識な地味変装をしていたとしてもイゼベル様は公爵家のご令嬢です。第一王子殿下の婚約者で公爵家のご令嬢からの提案に問題はないはず、とまったく根拠のない言い訳だと気付く心を無視して騎士団の訓練所を見学をしに行くことにしました。


「それにしてもこの子全然喋らないわ。ライ様の悪役令嬢って無口キャラだったかしら?」


イゼベル様の独り言が聞こえてきますが、意味不明で要領を得ません。地味に変装していることといい不思議な方です。


イゼベル様とその侍女と護衛の方々と一緒に騎士団の訓練所まで歩いてますが、この集団は端から見ると地味に変装しているイゼベル様ではなくて、お見合いのために着飾っている私が引き連れているように見えてるのではないでしょうか。次回窮屈なドレスを着ないといけない時は『マルコス公爵のご令嬢はこれより地味な格好で王宮を歩いていた』とお母様を言いくるめて余計な装飾を外そうと思います。


今日はいつもより特別に豪華なドレスだから破けたり汚れたりしたらお母様に怒られてしまいます。騎士団の訓練は参加せず見学だけにしないといけないのが残念、と呑気な事を考えながら歩いていたこの時の私は、まさか騎士団の訓練所で前世の息子のゆるい訓練を見てブチ切れ、英雄だった前世を思い出すとは思ってもいませんでした。

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