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英雄から第二王子の婚約者に転生した悪役令嬢はとにかくトレーニングがしたい。  作者: くびのほきょう


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002 無属性の英雄 (ライオネル)

「アビー・ラバース嬢はお気に召さなかった、という報告でよろしいですか?」


国王である父の従者ジミーが確認してきた。コイツは先ほどの令嬢と1時間も二人きりにさせた戦犯だ。二人きりはまだいい。1時間もかける必要がどこにあった。この台詞から影から見ていたことがわかる。見ていたなら早めに切り上げて欲しかった。1時間あれば昨日から読んでいる魔法科学の本が1章は読めたはずだ、もったいない。


「気に召すも召さないもない。私はラバース嬢が婚約者で問題ない。ラバース家から婚約の要望があったら婚約するし、なかったら次の令嬢と見合いをする」


見合い中、話をすることはなかったが彼女が気に入らなかったわけでは無い。まぁ気に入ったわけでもないが。わざわざ無駄な会話をしたいと思えなかっただけだ。


王族として政略結婚には納得している。婚約者など婚家に問題が無ければ誰がなっても私の生活に変わりはない。


「かしこまりました。そのように報告いたします」


そう言ってジミーは報告をするために応接室から退出していった。


見合いに毎回1時間もかかるのならば今回のラバース嬢で決めてしまったほうがよかったかと一瞬考えたが、やはりこちらから望んだという形にしたくない。先方が希望したら婚約する、それで良い。


そもそもこの私と婚約したくない貴族令嬢などありえないから、婚約者はラバース嬢で決まりだろう。


見合いの前に確認した報告書によるとラバーズ嬢の魔力は無属性らしい。彼女がお見合いの一番目にされたことから、最近問題に上がるようになった無属性への差別を撤廃するためのプロパガンダとして第二王子の婚約者にしたいという大臣達の思想が透けて見えるが、私は婚約者が無属性でも問題はないから良いとしよう。


魔力の有無は生まれた時に、魔力の属性は7歳の時に検査が義務付けられている。古くから“魔法の素となる魔力は一人一つの属性を帯び、魔力の属性は火・水・氷・雷・岩・砂・風・光の8種でそれらに優劣はない”というのが常識だったが、約100年前からごく稀に魔力に属性を帯びない無属性が出てくるようになった。実際100年以上前の文献に無属性の記載は一切無い。ここ100年の間に魔力属性の常識は“魔力属性は火・水・氷・雷・岩・砂・風・光・無の9種類で無属性は他の8種に劣る”という内容へ変わってしまった。


我が国の貴族には魔石への魔力注入の義務がある。魔道具を動かすエネルギー源である魔石を作る魔力を持つという優位性が貴族特権の根拠となっているのだ。そのためどんなに優秀な平民も魔力がなければ爵位を持つことは出来ないし、貴族の子供も魔力を持たなかった場合は生まれた時点で貴族籍を抜かれて平民の養子に出されてしまう。貴族になるには魔力の有無が絶対なのだ。


そんな中、無属性の魔力は魔法として放出することが出来ず自身の肉体を強化することしか出来ず、貴族の義務である魔石への魔力注入が出来ない。無属性から生まれた子供は魔力を持って生まれ魔力に属性を帯びることがわかり、政略結婚の駒としての使い道から無属性の者も貴族として認められたが、“貴族擬き”と言われ差別は免れなかった。家族の中でいない者として扱われるか使用人のような扱いになることがほとんどだったらしい。


突然生まれる無属性の者たちには共通点がなく、属性持ち同士の夫婦の間になぜ無属性が生まれるのか原因は一切わからなかった。無作為に訪れる災いとして恐れられ、自分の子供に無属性が生まれるかもしれない不安に駆られた貴族によって人体実験や解剖などの犠牲になった無属性もいたらしい。そんな犠牲者を出した研究をもってしても無属性の原因については未だわかっていない。


そんな中、信じられないことに、ここ40年程は無属性への差別が無かった。それは40年前に活躍した無属性の英雄のおかげである。


彼の名前はビフ・バフィントン。今の騎士団長シゲティ・バフィントンは彼の息子だ。60年前、公爵家の長男に生まれたビフは跡取りとして期待され育ったが7歳の属性検査で無属性だと判明した後は手のひらを返すように捨て置かれもちろん後継者からも外された。それでも腐らず独学でトレーニングを続けて肉体強化を極めたビフは、魔法攻撃が出来ないハンデを物ともせず、物理攻撃のみで騎士として身を立てた。


40年前のある日、突如王都の空に災害級の魔獣が出現した。王城の塔と変わらぬ大きさの竜、一つの身体に三つの頭が付いていて、一つ目の頭が吐く息は竜巻になり二つ目の頭が吐く息は炎を纏い三つ目の頭が吐く息は砂嵐に変わる、その一息で市井の集落を更地にする攻撃力を持っていた。そして当時の騎士団長や魔法師団長や三属性持ちで神童と言われた第二王子など国が誇る精鋭達が放つ全力の魔法攻撃でも三つ頭竜の身体に傷を付けることはできなかった。


皆が絶望し諦め始めたその時、若干二十歳のビフだけが一人諦めず、極めた肉体ひとつで三つ頭竜の懐へ飛び込んで行ったのだ。精鋭達の魔法攻撃では傷つけることも叶わなかった三つ頭竜の身体をビフの物理攻撃で切り裂いた。ビフのおかげで物理攻撃だけは効くとわかり、ビフを中心とした騎士達による物理攻撃で三つ頭竜は討伐された。


親に捨て置かれ、周囲からは“貴族擬き”と蔑まれ、同僚の騎士達には魔法攻撃が出来ないことを馬鹿にされていたビフ。そんな人達ですら見放さずに全ての人を守ってくれた。王都のすべての民が英雄と称えて感謝し、それまでの無属性差別を心から後悔した。三つ頭竜の襲撃の日以降、ビフと同じ無属性の者への認識も変わったのだ。



そんな英雄のおかげで無くなった無属性差別も彼が亡くなって25年も経つと効果が薄くなるらしい。最近目につくようになった無属性差別への対策として私のお見合い一番手にアビー・ラバース嬢を選んだのだろう。


一人一つの魔力属性の中、王族だけは複数の属性を持つ。祖先が複数の属性を持っていた事で王族たる所以となったと言われているのだ。


ほとんどの王族が二属性を持つ中、極稀に三属性を帯びる者が出る。私はそんな貴重な三属性の王族だ。王族の中でも珍しい三属性持ち、幼い頃から一を聞いて十を知る神童と言われ、魔法や剣の腕にも優れ、見た目も整っている。自分で言うのも何だがこんな私を婚約者に選ばない貴族令嬢などいないだろう。


ラバース嬢が婚約したいと希望したら婚約する、つまり私の婚約者はラバース嬢に決まったも同然だ。そんな結論を出した私は自室に帰って読みかけの魔法科学の本を読もうと応接室を出て行った。

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