番外編3
ちょっと意味がわからない。。。
ふと気がついたように、アキリアは執務机に並べられているリルフェ入りの瓶を手に取った。不思議そうに見比べるとザイに疑問を投げかけた。
「これって誰がどうやって選んで並べてるんだ?」
アキリアの言葉に、ザイは不思議そうな顔をした。
「今更?」
「日に日に知らないのが増えてくなぁとは思ってたけど」
ザイが呆れたように答える。
「妃殿下だぞ。お前が好きなお菓子だからって、色々選んで、侍女殿がだいたい週一で運んでくる」
それを聞いてアキリアが呆然とする。
「何で教えてくれないんだよ!!」
「は?むしろ知ってると思ってたぞ」
「リメラリエはそう言うの絶対自分からは言ってくれないんだ!」
1人執務机で絶望しているが、別に絶望するほとの話でもない。
「普通にお礼を言えばいいのでは?」
「いや、そんなの許されないだろ」
「ちょっとお前の基準はわからん」
盛大にため息を吐かれて腹ただしい。態度が悪いので妃殿下に訴えればいいだろうか。
「何かリメラリエに」
「贈り物より、出かけたりする方が喜ぶんじゃないか?いつも、お金の無駄遣いはいけません!って怒られてるだろ」
「声真似はやめろ」
真剣に悩み始めたアキリアは完全に仕事の手が止まってしまった。こうなると碌に進まなくなることは目に見えていた。
「妃殿下は今日は騎士団の訓練の見学だろ?すぐにどうこうできないんだから、ひとまず仕事を」
「最近、騎士団の見学多くないか?」
「……、そう言われるとそうかもな」
「まさか、気に入ったやつがいる……」
「いや、ないだろ」
そのツッコミも虚しく、アキリアは椅子から立ち上がると後ろの窓に手をかける。そして、飛び越えた。
「あのバカ。どこに窓から出て行く王太子がいるんだよ!」
そう言いながらザイも後を追いかけるしかなく、自分も窓から出た。
騎士団の訓練場が見える騎士宿舎の屋根の上にアキリアとザイは来た。そこから丁度リメラリエと侍女の姿が見えたのだ。訓練場には腰ほどの高さの柵があり、リメラリエはその外にある椅子に座り見ている感じだった。
「ってか、妃殿下は、本読んでないか?見学してないよな?」
リメラリエは椅子に座って本を読んでいる。マリーはその少し後ろに控えて立っている。さらにその後ろにイクトの姿が見えた。丁度場所的には木陰がある過ごしやすそうな場所だ。
「気になる騎士がいるとかではないのか」
明らかに本に夢中で騎士の訓練など一つも見ていない。それはそれでどうなんだ。ホッとしているアキリアに対してザイは、後ろに控える侍女の様子が気になった。こっちは逆にガン見しすぎだ。自分の主人じゃなく、明らかに訓練中の騎士を見ている。なんならちょっと頬が赤い。普段見ない様子に驚く。
「一体誰を……」
彼女の視線を追ってみるとそこには騎士団長、もとい自分の父親がいた。
(親父のこと見てるのか?!)
あまりの衝撃に頭をフライパンで殴られた気分になり、体が前に傾く。ザイとマリーは先日お見合いをしたが、まだそのお見合いから1週間も経っていない。
「おい、どうした?」
アキリアに腕を掴まれなんとか体勢を維持する。
「っ、いや、ダメだろ」
と口に出したらそのまま駆け出していた。
「ザイ?!」
自分を完全に置き去りにし、職務放棄して行く近衛騎士をアキリアはわけがわからんと言う顔で眺めていた。
突然すごい勢いでアキリアの近衛騎士が飛んできた。正しく、飛んできたという表現が合う。そして、リメラリエの後ろに控えていたマリーに向かってこう言った。
「親父を選ぶぐらいなら俺にしておけ!」
その場にいた全員(と言っても3人)が固まった。ついでに、リメラリエの手から本が落ちた。
何故かザイの息は切れており、焦ってやってきた感がある。マリーがリメラリエを見たが、リメラリエも首を横に振る。イクトはいつも通り無表情だったが、興味深そうに見ていた。
「……、ちょっと意味がわかりません」
マリーが本気で困ったように言葉を返す。
「親父のことを見つめてただろ。確かにもう独身だが、結婚するなら俺の方がましだろ!」
そこまで言ったところで、マリーが吹き出した。あまりに堪えられなかったのか、彼女には珍しく声を上げて笑う。
椅子に座っていたリメラリエも、状況がなんとなくわかり笑う。落とした本を拾おうと手を伸ばしたら、別の手がひょいと拾い上げる。
「どうぞ」
本を拾い上げたのはアキリアだった。アキリアはにこりと微笑むとリメラリエに本を手渡した。先程窓から飛び出して行った人と同じであることが不思議だ。
「ありがとうございます」
リメラリエが本を受け取るとアキリアが隣の椅子に座る。
「これ、何が起きてるかわかります?」
ちらりと視線をザイとマリーに向けたアキリアの質問にリメラリエが笑う。
「ちょっとした誤解です」
「誤解?」
「見てたらわかりますよ」
ふふと楽しそうに笑うリメラリエを見て可愛いなと言う感想しか出てこないアキリアは、ザイのことは正直あまり興味が引かれなかったが、リメラリエが指をさして見てと言うので仕方なく見ることにした。
そんな王太子と王太子妃の言葉は、全くザイには届いていないようだ。少しマリーがため息をついたようだった。
「確かに騎士団長のことは見てました」
正直に白状したマリーにザイがやっぱりと言う顔をする。
「ただ、殿下が妃殿下を見るような意味で見ていたわけではありません」
マリーの言葉にザイが眉を寄せる。逆にマリーは目を逸らした。
「……、騎士団長の筋肉が素晴らしいと思って見ていただけです」
「は?」
くすくす笑うリメラリエに、思わず騎士団長の姿を見るアキリア。ついでにザイと騎士団長を見比べて、なるほどねと言う顔をする。
「騎士団長の筋肉が好みなんです。ダメですか?」
なんならマリーもやけっぱちな言い方だ。文句を言われる必要はないと言う顔だ。それはそうだろう。何故かわからないがイクトは納得顔で無言で頷いている。
「見るのが好きなんです。別に騎士団長とどうにかなりたいわけじゃありません」
その言葉にザイはカッと赤くなり、そして青ざめ、項垂れた。
「すまない」
意外とすぐに謝ったザイをマリーは不思議そうに見つめた。そして疑問に思っていたことを口にした。
「まだ、大公家からお断りの連絡がないと聞いています。何故ですか」
てっきり翌日にはお断りの連絡が来ると思ったのに来なかったのだ。実家からはどうしていいのか何度も連絡が来ていたが、マリーも困っていた。
「それは」
「それは?」
迷ったような顔をしたあとザイが口を開く。
「マリー殿。結婚しないか?」
「嫌です」
「早くないか断るの?!」
「別に私でなくていいですよね?」
「でも結婚しろと何度も言われるのめんどくさくないか?」
「めんどくさいです」
「一緒にいてもお互い職場と同じと考えれば、苦にならなくないか?」
「職場と同じでいいんですか」
「お互い自分の主人のことだけ考えればいい。なんならお互いの主人の予定も合わせやすい。親からは煩わしい干渉も受けない」
マリーが少し悩んだ様子を見せたので、ザイは畳み掛けた。
「うちに入れば、仕事はずっと続けていいし、うちの家のことは、弟の嫁さんが好んでやってるから気にしなくていい」
傾いている様子のマリーだが、まだ足りないらしい。
「うちの騎士たちも見放題」
若干目が見開いた気がした。しかし、少し目を細めてザイを見る。
「……ザイ卿、もう少し筋肉つかないんです?」
「わかった、俺も鍛錬する」
いや、ちょっと意味わからないとリメラリエとアキリアが心の中でツッコミを入れるが届かない。
「わかりました。ザイ卿が私で良いのであればお受けします」
「えぇえええ、いいの?!それでいいの?!」
思わずリメラリエが割って入った。
「何が問題ありました?」
首を傾げるマリーに「えー」と言う顔をリメラリエがする。
「家のことは特にやる必要がなく、仕事を続けてよく、職場と同じような対応でよく、親の干渉もなくなり、ニルドール家の騎士たちも見放題で、ザイ卿の筋肉もさらに良くなる、完璧では?」
「いや、完璧では、ない、と思う」
が、自信なくなったよと言う顔のリメラリエにアキリアは困ったように笑う。
「本人たちが良ければいい気がしますけど」
「いいのかな、いいのかな?」
混乱するリメラリエをアキリアがポンポンと肩を叩く。
「なるようになるでしょう」
あとで執務室に戻ったアキリアはザイに聞いてみた。
「何で結婚したいと思ったんだ?」
「お互い断る前提だったから」
「あ、建前はいいから、不純な方」
「何で不純な方がある前提なんだよ」
「ザイだしな」
溜息を大きくついたザイがガシガシと前髪を掻く。
「所作が綺麗だったから」
それを聞いたアキリアは、ふうんとつまらなさそうな返事をした。
「まぁ、騎士団長に取られたくなかったみたいだし?」
「それは忘れてくれ!!!」
頭を抱えるザイを見てアキリアはしばらくこれで乗り切れそうだと思ったところで、ハッとした。
「せっかくリメラリエに会ったのに、出かける予定を約束するのを忘れた」
同じように頭を抱えたアキリアにザイが冷たい目で見る。
「寝室で聞けばいい話だろ」
そう言うとアキリアが真剣な表情でザイを見返した。
「そんなことを寝室で話していたら、勿体ないだろ」
「いや、それぐらいの時間いいだろ。俺はよっぽど妃殿下の方が心配だよ」
最早早く終わらせるしかないと判断し、ガリガリとリルフェを噛み砕きつつ、中断していた仕事を全力で終わらせることにしたアキリアだった。
なんか番外編は分けて読んでもいいように書いてたはずなんですが、うっかり2からの続きっぽくなってしまいましたごめんなさい。




