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番外編2

周辺の人のお話です。

 アキリアはガリガリとリルフェを噛み砕いて食べることが多い。リルフェとは砂糖菓子のことで、子供が喜んで食べるタイプのお菓子だ。いつからかこれが癖になっていて、執務中に無意識で食べていることもある。

「殿下、食べ過ぎでは?」

 ザイが声をかけると、アキリアは瓶から手を離した。

「無意識に手を伸ばしていた」

「なんかイライラしてるのか?」

「いや、……。昨日までリメラリエが口を聞いてくれなかったのは堪えたけど」

「それはお前の自業自得だろ」

 アキリアは目を逸らす。リメラリエが可愛いすぎて自分はしっかり楽しんだのだが、流石にリメラリエがとてもお怒りだった。

「もう一回行きたい」

「お前は反省しろ?」

 ザイが呆れたような目で見られ、冗談だと返す。いや、若干本気だが。

「そういえば、お前に見合いの話が来てるって聞いたけど」

「あぁ」

「見合いするのか?」

 確かあまり見合いを受けてはいなかった気がするが、どうするのだろうか?

「今回は一応受けるぞ。親父がうるさいからな」

 ザイがなかなか結婚しないことを団長は気にしているようだった。アキリアも一緒に結婚していなかったため、あまり何も言われていなかったが、アキリアがあまりにあっさり結婚してしまったため、焦っているらしい。

「相手は誰なんだ?」

「知らない」

「知らないのか?」

「どうせ断るなら一緒だろ?」

「断るのか?」

「断るだろ」

 そうかとだけアキリアは言った。自分がどうこう言える立場ではない。ザイが何故結婚をしようとしないかはわからない。もしかしたら自分に合わせてくれていたのかもしれないと思っていたが、そうではないのかもしれない。



 お見合いの日は、一日休暇を貰っていた。ザイは適当に騎士の正装だけすると、父親に指定された場所へ向かう。

 指定された店に行くと、仲人の叔母と、茶色の髪の女性が座っている後ろ姿が見えた。

(こう言う時って、先に着いてないとダメなやつだったかも)

 そんなことを考えながら席に向かう。

「遅くなり申し訳ありませ、ん?」

 ザイは座っている女性を見て、驚く。あまりにもよく見知った女性だった。

「マリー殿?」

 いつもは髪を全て結い上げているが、今日は下ろしているためかなり印象は違うが、毎日のように顔を合わせるのでさすがにわかる。

 マリーの方は当然と驚いた様子もなかった。釣書を見てさえいればわかる話だ。


「職場ではよく顔を合わせるでしょう?案外近い方がいいかもしれないと思って整えてみたの」

 仲人である叔母はそう言ってにこにこと笑っている。そして、しかもわりとあっさりと席を立つ。

「こちらはマリールーナ=クラファト嬢です。クラファト子爵家のご令嬢です。まぁ、知り合いですし、私はいない方がよろしいでしょう?あとはお二人でどうぞ〜」

 ほほほと笑いながら去っていった叔母に、今はもう少し残っていてほしい気分だった。

 

 気まずい。とても気まずい。

 釣書を読んでいないこともバレてる。最早取り繕いようがない。そりゃあ、王太子妃になったリメラリエ嬢に引き続き侍女としてついて来られるぐらいなんだからそれなりの身分と家なのは知っていたが、まさか見合い相手にだとは思わないだろう!

 どうしようかと思っていると、前から小さく笑う声が聞こえた。

「そんな顔しないでください。別に怒ったりしませんし、逆に安心しました」

「え?」

「ザイ卿は、断るつもりでしょう?」

 返事ができないでいるとマリーは笑う。

「いいんです。私も特に結婚したいと思ってるわけではないので。ただ、大公家からのお誘いを断るわけにもいかず」

 たしかに子爵家が大公家の誘いを断るなどありえない。むしろ、その組み合わせの見合いをよくやろうと思ったなというレベルだ。あまりに結婚しないザイに、叔母も新しい手を使った気がする。

 お互い様ですという感じでマリーは言った。逆に申し訳ない気分になる。わかっていれば、親父に言ってお見合い自体やめることができたのに。

「申し訳ない。時間を無駄にさせてしまった」

「いえ」

 マリーは何でもないことのように首を横に振ると、お茶を飲み立ち上がる。

「では、これで失礼しますね」

 いつもの仕事の終わりと変わらない所作で頭を下げると、帰ろうとする。どうせ断るのだからこれでいいはずなのに、ザイは何故かマリーを引き止めた。自分も立ち上がり、腕を取った。

「ザイ卿?」

 驚いた様子のマリーが振り返る。

「あまり早く出ると、店の連中が叔母に話をするかもしれない。ここは叔母が懇意にしている店だから」

 自然と言い訳がでる自分に驚きつつ、至って平静を装う。その言葉にマリーはなるほどともう一度椅子に腰を下ろした。その様子に何故かわからないがほっとした。

「どうせならなんでも好きなもの頼んで。俺もそうするから。味は保証する」

 そう言って店員を呼ぶ。


 正直引き止めた理由もよくわからなかったが、ザイは腹を括った。食べよう。

 騎士服の正装を身につけていたが、食事をするには向いていないため、上着を脱いでしまう。自分の好きなものをどんどん注文する。

「マリー殿は?」

 ふとメニュー表から目を上げるとマリーと目が合う。見られていたことに気づき首を傾げる。

「何か?」

「いえ。私は甘い物を頼んでもいいでしょうか?」

「あぁ、好きなものを頼んでくれ」

 マリーがメニュー表から甘いケーキなどを頼む。多分かなりの量の食事が運ばれてくるに違いない。

そんな待ち時間の間に、ザイはアキリアとリメラリエの警備のために調べた情報を思い出していた。

 

 確かマリー殿は妃殿下より、2つほど年上だった気がする。ずっと侍女をしているはずなので、本人の言うように結婚をする気はないのかもしれない。または、主人である妃殿下が結婚しなかったため、結婚できなかったということもあるかもしれない。


「私が結婚しないのは、妃殿下のせいではありません」

 一瞬心を読まれたのかと思った。ザイがマリーを見ると、にこりと微笑まれた。

「20歳頃に結婚する予定があったんです。でも、酷い裏切られ方をして、もういいやって思ったんです。それからは特に結婚したいと思うこともなかったので、そのまま来ただけです」

 何でもないことのように穏やかな笑顔でそう言った。その過去の出来事については、ずいぶん昔に吹っ切れているということなのだろうか。

 なんと返していいかわからなかった。

「ザイ卿も、お見合い相手の釣書ぐらい見られた方がよろしいですよ?時間が勿体ないですよ。私みたいな女性もいますから」

 その時丁度頼んだ料理やデザートが一気に運ばれてきた。一気にテーブルは華やかな色に変わる。温かな湯気が立ち、見るからに美味しそうだったが、先ほどのマリーの言葉が気になった。


「俺が頼んだやつもよかったら食べてくれ」

「ありがとうございます」

 そう言った2人は黙ったまま食事に手をつけた。


 ザイはマリーの様子を盗み見た。綺麗な所作で自らのお皿に料理を取り分け、食べる時には長いさらさらと流れる髪を耳にかけ、小さな口が開く。

 あくまで悟られないように自分自身も適当に料理を取り食べながら相手の様子を見る。逆にマリーは全くザイのことが気にならないのか、見向きもしない。先程目があったことすら、勘違いだったのかと思うほど。


 全ての料理を食べ終え、お茶を飲み一息つく。

「とても美味しかったです」

「それはよかった」

 お茶も飲み終わってしまうと、もうあとは帰るだけだ。ザイの中で何かもやもやとした感情があったが、答えは食べている最中にも出てくることはなかった。

 お互いのカップが空になると、ザイは自分から席を立ち、マリーの椅子を引く。少し驚いたようだったが、ありがとうございますと返される。


 2人揃って店を出ると、マリーが「ではこれで失礼します」と頭を下げた。

「この店は、妃殿下は気にいると思うか?」

 唐突な質問にもすぐに微笑み答えてくれる。

「はい。妃殿下が好きそうなケーキがたくさんありましたので」

「そうか」

 特に意味のない質問だった。もやもやしたまま帰るのもいやだなと思ったが、これ以上の言葉は出てきそうにない。

「今度、またどこかで食事をしないか?」

 もやもやが解決する手段は何か考えてその言葉を出したが、マリーは心底不思議な表情に見えた。しかし、何か思い当たったような表情に変わる。

「妃殿下の好きなお店を探されているのですか?それでしたら承知致しました」

 仕事のように返され、何でそうなる?と思ったが、丁度いいかと思う。

「あぁ、よろしく頼む」


 

 と言う話をアキリアにすると、ふうんと興味なさそうな顔をされた。

「お前、冷たくない?」

「いや、リメラリエが最終的にダシにされてるのが、なんか腹が立つ」

「そこかよ」

 こいつはホントに妃殿下のこと好きすぎる。こんな風になるなんて、誰が思う?

「まぁ、最終的にリメラリエが良ければなんでもいい」

「もう少し主体性を持て!」

「リメラリエの侍女だから、よく考えて行動してくれればそれでいい。リメラリエが泣いたら許さないぞ」

 もうこいつには話をしない。




「ねぇ、マリー。昨日のお見合いどうだったの?」

 主人であるリメラリエの問いに、何のことだと首を傾げる。

「え?昨日お見合いあるからって早く帰ったよね?」

「そうでしたね。まぁ、お相手がザイ卿だったので」

「え!ザイ卿がお相手だったの?!どうだった?!」

 わくわく!と言う顔で聞いてくるリメラリエに首を振る。

「私もザイ卿も断る前提で来てましたので」

「え?断ったの?」

「はい。食事だけしましたけど。ニルドール家からそのうちお断りの連絡が来るはずです」

 マリー側の家から断ると言うのはあり得ない。

「マリーはザイ卿のこと好きじゃないの?」

「そうですね。別にザイ卿のことは好きじゃないですが」

「が?」

 続きがあるのかとどきどきした期待の眼差しを向けるリメラリエに、マリーが残念な答えを返す。

「ザイ卿の筋肉は好きかもしれません」

「へ?」

 訳がわからずリメラリエが思わず変な声を出してしまう。

「ど、どう言うこと?」

「上着を脱がれた時の感じで意外にしっかりしたお身体だったので」

「……、あ、そう言えばマリーは筋肉マニアか」

「まにあ?」

「筋肉好き」

「語弊がありそうなのでやめて下さい」

「大体あってるでしょ。騎士団の関連とか見学に行くと、誤魔化してるけどちょっと顔が緩んでるよね」

 そう言うとマリーが自分の頬に手を当てた。

「気をつけます」

「いや、別にいいんだけどさ。今度もう少し騎士団の見学増やしてもらうね」

「それは普通に嬉しいのでぜひ」

「やっぱり好きじゃん」

くだらない話を書くのはとても好きです。

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