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本編的には終わりです。

「あ、思いついたかも」

 そんなことを口にしながらリメラリエは目を覚ました。


 リメラリエが魔力消費と体力をエネルギーとして使った代償として長い眠りから覚めると、自室がとんでもないことになっていた。

「いくらなんでも多すぎる」

 リメラリエの部屋は花で埋め尽くされていた。おそらく見舞いの品なのだろうとは思うが、色とりどりの花が部屋中に飾られていた。なんなら、まだ届いたばかりだろうと思わせる花束もあった。

「お嬢様」

 リメラリエが目を覚ますとすぐにマリーが側にやってきた。ホッとした表情をしたことからもまた長いこと眠ってしまったのだろう。

「どれぐらい寝てたの?」

「5日です」

「はは」

 今回は特に死の境界面すら見ることはなかった。リメラリエとしては普通に眠っていたのとなんら変わらないが、5日は長い。

 マリーが手渡してくれたコップを受け取り水を飲むと、なんとなくすっきりして頭が動き出す。

「花、多すぎじゃない?」

「全部、アキリア殿下ですよ」

 そう聞いてリメラリエは目を細める。アキリアは加減を知らないのだろうか?それとも、高位貴族的には普通なのだろうか。

「こちらの花束は今日お持ちになったものですよ」

 テーブルに置かれた花束はまだ包まれたままだった。ピンクのガーベラのような花をメインにして、かすみ草のような白い小さな花が周りを囲む。

「その花束が一番好きかも」

 そう言うとマリーは頷いてすぐに飾りましょうと動いてくれた。

「アキリア殿下は毎日朝一番にお見えになってましたよ」

 その言葉にリメラリエは固まる。

 

 え?本人が持ってきてたの?!てっきり城からの使者とかかと思ってたのに。


「花束を毎日持って来られるので、いっぱいになりました。これでも一回の量を減らしてほしいとお願いしたんですよ」

「そ、そう」

「目が覚めたら連絡がほしいとのことでしたので、伝言をお伝えしますね」

 頷いくとマリーが部屋を出ていった。


 体を起こすと背中がとてもいたかったが、たぶん眠りすぎたせいだなと思う。寝台から足を下ろして、伸びをすると身体がようやくほぐれた気がする。

 寝室を出るとお湯を張る音がしたので、きっとマリーが入れてくれたんだなと思い、リメラリエは着せられていた夜着をパサリと脱ぎ、床に落とす。ペラペラの薄い下着姿で近くにある髪紐を手に取る。

 するとコンコンとノックする音がした。マリーが戻ってきたのだと思い、扉を見もせずに返事をする。手に取った髪紐で長い髪を一括りにし、マリーにお風呂へ入ることを伝えようと、カチャリと開く扉を見ると、そこにはアキリアがいた。アキリアも面食らった様に固まったのち、真っ赤な顔になり後ろに下がると、不審に思ったマリーがアキリアの後ろから出てきた。

 

 自分の格好を思い出したリメラリエは、声にならない声をあげてしゃがみ込むと、マリーが駆け込んで来た。

「なんて格好してるんですかお嬢様!」

 マリーが慌ててショールをかけて、浴室の方へ連れて行く。

「だってマリーだと思って!なんでアキリアさま?!早くない?!」

「殿下の移動時間短縮のために、屋敷に魔道具が置かれているんですよ」

 移動の魔道具といえば、リヴァランから帰ってくるときに使った樹脂みたいなやつかと思い出しはしたものの、まさかそれが屋敷にあるとは思わない。

「うう」

「お嬢様のお風呂好きを忘れてた私もダメでした。申し訳ありません」

 マリーが申し訳無さそうに謝る。リメラリエは恥ずかしさに穴に入りたくなった。最近よく入りたくなるなぁと思いながら、開き直る。

「もうこうなったらゆっくりお風呂入っていいかな?!」

「良いのではないですか?なんならお引き取り頂きましょうか」

「それは失礼なような」

「待たせても失礼では?」

「確かに」

 リメラリエはアキリアの対応については、マリーにまかせ自分は予定通りにお風呂に入ることにした。



 リメラリエがお風呂から上がり、しっかりと服を整えて出て行くと、そこにはまだアキリアがいた。ソファに腰掛けていたアキリアはリメラリエが出てきたのを見て立ち上がるとすぐに頭を下げる。

「先程は申し訳ありません」

 めちゃ真剣に謝られてしまった。半分くらいリメラリエが悪いのだ。こっちが申し訳なくなる。

「いえ、私こそあんな格好で……、ごめんなさい。忘れてください」

 穴があったら……!

 その状態で気まずく固まっている2人を見かねたマリーが座ることを勧める様にお茶を出してくれる。それにつられたようにリメラリエもアキリアと向かい合う形で座った。

 

 お互い平常心を装い話す。

「目が覚めたようで安心しました」

「また長いこと眠ってしまって申し訳ありません。その間にお花をたくさん頂いたようで、ありがとうございます」

「いえ、それぐらいしかできなくて……」

 それっぽい話を続けてみるが、リメラリエの方が耐えきれなくなり声を上げる。

「アキリア様、さっきの絶対忘れてくださいね?!」

「いや、それはちょっと……」

「そこは嘘でも忘れるって言うところでは?!」

「嘘でよければ」

「いや、ダメ!忘れてくださいぃい」

 絶望するリメラリエと対照的に、アキリアは申し訳ないと思いつつ、やっぱり美味しい思いをしたのかもと言うなんとも言えない中途半端な表情をしている。

 そんな中、リメラリエが突然名案が閃いたと言う顔をしてアキリアを見る。

「私だけだからおかしいことになるんですよ。アキリア様もちょっと脱いでください」

「はい?」

 アキリアが流石に目を瞬かせて驚きの顔をする。近くに立っているマリーは何言ってるんですかお嬢様と言う顔を無言でしている。

「私が見られたのですから、アキリア様を見返せばきっと平等です」

 力強く「さぁ!」と言ってくるリメラリエに、アキリアは首を傾げる。

「本当に見たいです?リメラリエ嬢がそう言うなら構いませんが」

 アキリアが特に気にせず上着を脱ぐ。いや、何やってるの殿下?!と言う無言のマリーの声を汲み取ってくれる人がいない。

 シャツのボタンに一つずつ外して行こうとする骨張った長い指。見えてくる首筋と鎖骨は、予想以上の破壊力で、リメラリエの方が根を上げた。

「やっぱりダメ!アキリア様は脱いじゃダメ!!!」

 真っ赤になったのはリメラリエの方で、全く意味がない。この人たち頭大丈夫かなと言うマリーの無言の表情は置いておく。


「なんか、疲れちゃいました……」

「すみません。目を覚ましたばかりなのに」

「あ、いえ、流石に自分のせいな気がします」

 溜息をついたリメラリエに、アキリアが少し笑う。

「せっかくなので、リメラリエ嬢が眠っていた間のことを少しお話しします」


 そう言って話始めた内容はリメラリエには驚きの内容だった。そんなに簡単に王妃が身分を剥奪されるなど思ってもいなかった。しかも、ミリアルトも自ら望んだとは言え、臣籍降下だ。

「そうでしたか」

 リメラリエにはなんと返していいか分からなかった。あの魔力の陣が発動していたら、どうなっていたかわからないことを考えると、当然だとも思うが、その処分が妥当なのかもわからなかった。

 話しているアキリアもとても喜んでいると言うよりは、悲しそうな、虚しいようなそんな表情に見えた。

「そんなこともあったので、また私は少し忙しくなっていて、なかなかこちらに来ることができません」

 なるほど。だから転移の魔道具を置いて少しでも時間短縮ができるようにしてあったのかと納得する。

「でも、目が覚めたら伝えたいことがあったので」

 そう真剣な瞳で見つめられて戸惑う。何が悪い知らせだろうか。うるさく鳴る心臓をなんとか無視してアキリアを見る。


「リメラリエ嬢、私と結婚してください」


 アキリアの強い視線に囚われ動けない。口も上手く動きそうにない。それでも、リメラリエはなんとか声を出そうと口を開く。

「は、い……」

 小さな掠れたような声だったが、リメラリエは迷わなかった。不安は常に付き纏うかもしれないが、自分はアキリアの隣にいたいのだと、自覚していた。明らかにまだ困難や乗り越えなければならないものが沢山ある気がしたが、それでも、その返事しかなかった。

 アキリアにもその声が聞こえたのか、とても嬉しそうに、少年のような破顔した笑みを見せる。

「よかった」

心底ホッとしたような声にリメラリエが笑う。

「リヴァランの時は、ずるいことをしたので、心配だったんです」

「ずるいこと?」

 アキリアの言葉の意味が分からず首を捻る。

「最初から結婚と言ったら、首を縦に振ってくれないと思って、意識的に"婚約"と言ったんです」

 リヴァランから逃れた時のアキリアは確かに「私と婚約してください」と言った。あまりリメラリエはそこを深く考えていなかった気がするが、婚約なら後から破棄もできるとどこか頭の片隅で思っていたかもしれない。

「私はまんまとアキリア様の作戦に引っかかったと言うわけですね」

「申し訳ないです」

 謝ったアキリアにリメラリエは笑う。

「いえ、でもそうじゃなければ、私はまた大事なものに気づかなかったかもしれません」

 それぐらい強引に引っ張って貰わなければ、リメラリエは動かなかったかもしれない。きっと丁度よかったのだ。

 

「アキリア様」

リメラリエの呼びかけにアキリアが彼女を見る。リメラリエも嬉しそうに微笑んだ。

「好きです」

 恥ずかしそうにしながらもそう言って笑ったリメラリエに、アキリアはこれまでにないぐらい真っ赤になり顔を左手で隠し、視線をリメラリエから外す。

「不意打ち、過ぎます」

 耳まで赤くなったアキリアに感動したリメラリエは、彼の表情を見ようと覗き込む。

「やめて下さい」

「この表情は私の脳内に焼き付けます」

「なんでですか!」

 さっきの仕返しだとばかりにじっと見つめるリメラリエに、アキリアは赤くなる以外何もできなかった。ちなみに、マリーは疲れたのか静かに部屋を出ていった。

 

 少し落ち着いたところでアキリアが咳払いをする。ようやく表情は落ち着いた。

「結婚式は、半年後です」

「え、もう決まってるんですか?」

「決めました。正直もう婚約期間なんていらないのですが、そう言うわけにもいかず」

 アキリアは不満そうだったが、色々と決まり事などがあるのかもしれない。リメラリエもまだ王太子妃教育が終わってないため、婚約期間は必要だと思った。

「色々と決めなければならないことも出てくると思うので、困ったら言ってください」

「わかりました」

 素直に頷いたリメラリエはふと思い出し、向かい合っていた席からアキリアの横へ移動する。

「どうしました?」

「起きた時に思いついたんです」

 話が読めずアキリアが首を傾げる。

「反対ならたぶん大丈夫だと思うんです」

「反対?」

 アキリアが聞き返すとリメラリエは、アキリアの両肩を両手でぐっと押した。押されたアキリアは構えてなかったため、そのまま背中がソファに倒れる。同時に両肩を押していたリメラリエも倒れてきた。

 蜂蜜色の髪のカーテンができ、目の前でいつもより深くリメラリエの素肌の胸元が見えてしまい、アキリアは思わず視線を横にずらすが、耳まで熱い。

「あ、やっぱり大丈夫みたいです」

 笑顔でそう言って来たリメラリエは、最初こそ腕を伸ばしていたため、アキリアと多少距離が間にあったが、すぐに腕の力が尽きたのかそのままアキリアの胸に落ちる。

 アキリアはドレス越しとは言えその柔らかさを感じてしまい、慌ててリメラリエごと起き上がる。


(反対ならって、リメラリエ嬢が押し倒す側だなんて普通思わない……)

 若干の混乱をしながら、アキリアはリメラリエの肩に触れて真剣な顔でリメラリエに注意をする。

「私が良いと言うまで、この体勢は絶対にやってはいけません」

「え、あ、ごめんなさい」

 ダメだったのかと思い謝るリメラリエに、アキリアは片手を自分の顔にやり、表情を隠す。

「すぐにでも貴方を抱きたくなるので、ダメです」

 その言葉に、リメラリエは一瞬固まったのち全身真っ赤になって俯いた。部屋にマリーがいなかったことにアキリアはこっそりと安堵した。


 赤くなったリメラリエを優しく眺めつつ、決めたはずの残り半年と言う婚約期間をいかにして短くするかについて、アキリアは頭をフル回転させて考え始めた。

少しだけエピローグを書いて完結としたいと思います。

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