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 それから二週間ほどリメラリエは仕事と王太子妃教育に忙殺されていた。しかし、その間に屋敷に帰る度に贈り物が届けられ、屋敷の一部屋は送られてきた贈り物でいっぱいになった。

 

 五分の一ほどは全く知らない相手からだった。王太子の婚約者に躍り出たことでつながりを持とうとお祝いの品を送ってくる者たちだ。こちらについては、リメラリエの両親が適当に仕分けし、返礼についてもお任せ状態だ。

 問題は残りの部屋を埋め尽くすほどの贈り物だ。色とりどりの箱やリボン、その形も様々で大小も差がある。

 リメラリエは二週間で溜まったその贈り物を前に、頬に手をやり首を傾げる。

「これ、本当に全部アキリア様が?」

 リメラリエの問いに侍女のマリーが答える。

「はい。全て殿下からのお品であることを確認済みです」

 マリーは落ち着いた声でそう言った。マリーはファクトランの屋敷の中でも古株のリメラリエより少し年上の女性だ。

「これ、どうしたらいいの?」

「まずは開けてみるのがよろしいかと」

「そうよね」

 自分でも当たり前のことを聞いた気がしていた。マリーがお手伝いしますと言ってくれたので、遠慮なくお願いした。


 中からは、様々なものが出てきた。ドレスが数着とそれに合わせた髪飾り、ネックレス、イヤリング、靴、帽子、手袋など小物まであり、なんだか服飾店になった気分だ。

 どれも明らかに高価な品とわかるものばかりで、圧倒される。どれもセンスが良く、現世のファッションに疎いリメラリエでもうっとりするようなものばかりで驚く。リメラリエの趣味をよくわかっているとも言えるが、アキリアは意外とお金遣いが荒いのかな?などと疑問に思って口にすると、マリーは「王太子殿下ですよ。他の貴族と同じレベルの贈り物をされるわけにはいかないのでは?」と冷静な答えが返ってきた。確かにそれはあるかもしれない。

 その中にひとつだけ異質なものがあった。茶色の紙袋に入れられたもので、簡単にテープで止められているだけのもの。自分で手に取り開けてみる。すると中には一冊の本が書かれていた。

 魔力の大樹と言うタイトルの本で、リメラリエが読んだことのない本だった。固い表紙を捲ると、さっそく魔樹の森について書かれた内容で、気分が上がる。

「これもアキリア様が?」

「はい。そのようです」

 ドレスや装飾品もとても嬉しいが、この本がリメラリエは何より嬉しかった。


 ドレス類の片付けはマリーにお願いして、リメラリエは本を抱えて寝台に向かう。読んだことのない魔樹の森に関わる本でテンションが上がる。

 のんびり寝ころがりながらページを捲る。魔樹の森に関するものはどんなものでも楽しい。あの光景を目の当たりにしたら、その感情は強くなった。

 が、ハッとして慌てて起き上がる。


「マリー、お礼はどうしたらいいの?」

「まずはお手紙を送られるのがよろしいかと」

「そうね」

 リメラリエは起き上がって、机に向かう。ペンを握ったところで、一文字も書けずに固まる。

「え、手紙って何書いたらいいの?!」

 マリーを振り返ったら呆れた顔を向けられた。そう、この侍女は案外手厳しい。

「今丁度王太子妃教育で、手紙の書き方なども復習されたところなのでは?」

「あぁ、確かに丁度復習してたわ。あれでいいのね」

 習ったことのおさらいになって丁度いいなと思いながら、ガチガチの定型文でさらさらと書き始める。書くことが決まっていれば迷うことはない。

(だいたい覚えてるなぁ。私偉い!)

 鼻歌でも歌いそうな雰囲気で書き切ると、最後だけ定型文と違うことを書いて締めくくる。封蝋をしてマリーに渡す。

「アキリア様にお願い」

「畏まりました」



***



 王太子の執務室には相変わらずザイしか入れないようにしていた。理由は色々あるが、侍女を入れるようになると面倒くさいことが起こる可能性が一気に上がるからだ。10年間も騎士として生活していたこともあり、侍女の必要性をあまり感じない。これを侍女長に言ったら驚愕の顔をしていた。申し訳ない。

 

 2週間経つとかなり書類の量が減った気がした。と言っても、仕事をこなすとその分新しい仕事も入ってくるため、執務机の書類は高さが半分ぐらいになっただけだった。

 椅子に座りながらぼんやりと窓の外を眺めると騎士団とは違う景色だなと改めて思う。騎士団に入って初めて気づくこともたくさんあるが、戻ってきて感じることもたくさんある。

 

 ここ数日城内で動きがあるのはわかっていた。穏やかに終われないものかと思いながら、上手く行く方法が思いつかない。

 溜息をつくと丁度ザイが戻ってきた。


「どうした、そんな溜息ついて」

「いや、どうしたものかと思って」

「あぁ、まぁ、諦めも肝心だぞ」

 ザイはあっさりとそう言って、何かを手渡してくる。それは緑の封蝋がされたもので、慌てて手を伸ばすと、あっさりザイに手渡され拍子抜けする。

「そんないつもいつもやらないぞ」

「いつもやらないでくれ」

 受け取った手紙をあけるとやはりリメラリエからの手紙だった。さっと途中まで読んだところで、不安になりザイを見上げる。

「完全な定型文なんだけど、どうしたらいい?」

「やっぱり、両思いはお前の勘違いなんじゃ?」

「俺もそう思う……」

 先日の出来事がすでに幻のように思えてくる。むしろ、自分のみた都合の良い夢では?と思いつつ、手紙を最後まで見る。

 すると最後の最後に定型文から外れた文章が現れる。


"王太子殿下なので、形式的に贈り物をする必要があるのだと思いますが、お金使いすぎです。でも、嬉しかったです。ありがとうございます。"


「……、贈り物をしてお金の使いすぎですって注意されたのは初めてだ」

「そんなこと書いてあったのか?!やっぱり変わり者だねぇ」

 ザイが横で可笑そうに声を上げて笑う。

「あれだけ努力したはずなのに、なんで贈り物が形だけだと思われるんだろか……」

「執務の合間を縫って、自分で選んだのに悲しいな!」

 ザイはむしろ嬉しそうだ。

「……、努力が足りないらしい」

「努力する方向間違ってんじゃね?」

 

 やっぱり一筋縄じゃいかないなぁと思いながら、嬉しいと書いてあったのだから、多少は喜んで貰えたのだろうと思うことにする。

「会わないと不安になる」

 真剣にそう言ったらザイに冷たい目を向けられた。

「そんなこと言ってないでさっさと終わらせてこいよ。ファクトラン嬢に降りかかる危険は取り除いてから会うんじゃなかったのかよ」

 それはその通りだった。先日のようなリメラリエが悲しくなるようなことは二度と起きて欲しくないと思っている。そのためには、不穏な動きをしている者たちの排除は必要だ。

「繰り返したくないから、自分自身が強くなることを望んだんだろ」

 ザイの言葉に頷く。それが自分が臣籍降下し、ニルドールに入った理由だった。

 雷鳴が頭の中で鳴り響き、反響する幻聴を振り払う。


 アキリアとミリアルトは髪色が全く違うことからも異母兄弟であることがわかる。アキリアの銀髪は母親譲りのもので、ミリアルトの金髪もまた別の母親譲りのものだった。それぞれの色はそれぞれの母親を示していた。

 アキリアの母親は15年ほど前に亡くなっており、当時第二妃であったミリアルトの母親が現在王妃となっている。

 当然のことながら、王妃はアキリアの王位継承権の復帰を反対していた。しかし、結局は王の一言でそれは認められ、そしてそれは、ミリアルトの王位継承権第一位を奪い取った。

 王である父は、ミリアルトの王としての資質を不安視しているようだった。アキリアが王太子として戻ることによりその資質を確かめられればと考えているようで、アキリア自体も王に良いように使われていると言えば使われている。しかし、アキリアの望みも叶えさせてもらっているので、それはそれでいいと考えている。当然アキリアに王位が来るとは限らないと言われており、それ自体も向いている者がなるべきだとは考えている。ただ、この地位にいる限りは王位を目指すべきだし、国を良くするためのことを考えるべきだと思っている。

 正直アキリアにはミリアルトのことは全然わかっていなかった。アキリアが臣籍降下を望んだ時、ミリアルトは10歳だった。母親の違いからほとんど交流がなく、ミリアルト自身の人となりが不明だった。そして今も、どうすべきか迷っている。


「わかってる、わかってるんだ」

 もう一度窓の外を見ると、青空を白い鳥が羽ばたいていく姿が見えた。

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