別れ9
何をする訳でも無く、ただ布団を被りベッドに沈んでいた。
こんな日が三日続いた。
四日目。
今日で二月も終わるという日。
ベッドからのそりと下りて床を踏んだ。
ひんやりとした足の感覚。
畳みというのはこうも冷たいものか。
俺は適当に選んで着た、思い切りださい服装で大学へ行った。
久しぶりの大学で、仲間から俺の他にも季夜が死んだショックで休んでいる者がいると聞いた。
大学には来たものの講義は頭に入らず、仲間の話しも頭に入らず。
自分は何のために此処にいるのかと思う。
此処を直ぐにでも抜け出したい気持ちに駆られた。
全ての講義が終わる頃、俺は急いで大学を出た。
大学を出ると息が詰まる様だったのが少しはましになる。
思いっきり空気を肺に入れた。
冷たい空気がカッカした脳の熱を冷ます。
俺は駅まで向かうと来た電車にそのまま乗り、どうでも良い所で降りた。
アパートに戻っても、きっとまたベッドに沈むだけだ。
駅から出ると、此処が季夜と最後に遊びに来た街である事に気が付いた。
二人で遊んだ思い出の場所。
二人で、ぐだぐだと過ごして占い何か行って。
此処で電車を降りるなんて意図していなかった。
偶然にもほどがある。
俺は途方に暮れた。
何処に行こうか何て考えずに俺は歩き出す。
季夜と行った場所は自然と避けた。
街行く人は皆楽しそうで幸せそうで。
それを見る俺は落ち込んでいった。
俺だって幸せだった。
馬鹿みたいに笑っていられた。
季夜が死ぬなんて事が無ければ、きっと、ずっと。
他人の笑顔を見て俺は思う。
今日笑えない俺は明日、笑えるのだろうか、と。
雨が降り出したのは交差点で信号待ちをしている時だった。
ぽつぽつと降り出した雨は直ぐに、ざーざーと音を立て始めた。
一人、また一人と傘を広げ始める。
俺は傘何て持っていなかった。
何せ天気予報何か見ちゃいない。
俺は信号を渡る事を諦め、直ぐ近くのカフェに駆け込んだ。
何処にでもあるチェーン店。
季夜と入ったことは無かったが。
カフェに入ると店員の、「いらっしゃいませ!」の明るい声。
俺は入り口で立ち止まる。
しかし、後から入って来た客が迷惑そうな顔で俺の後ろにいるので受付カウンターで適当にコーヒーを注文して代金を払うと注文したコーヒーを受け取り席に着いた。
革張りの椅子の座り心地が意外に良かった。
俺はため息を吐き、コーヒーに目を落とす。
コーヒーからは白い湯気が細く立ち上る。
俺の視線はコーヒーから窓へと移った。
大きな窓からは流れる様に色とりどりの傘が通り過ぎるのが見える。
そんな景色を、ぼうっと見ていた。
頭の中は空っぽで、ただ外の景色を見ているだけだ。
ああ、コーヒーがあった。
そう思って白い陶器のコーヒーカップを両手で包む。
手の感触に温かさは無かった。
コーヒーはすっかり冷めていた。
カフェには俺と同じく雨に濡れた客がどんどん入って来た。