別れ7
その下らない話で季夜と笑い合って。
季夜は不思議だ。
季夜がいるだけで俺は明日という日を楽しみに出来る。
俺の足取りが軽くなる。
明日。
また明日。
温かい一日がやって来る。
今日の続きが待っている。
風が吹く。
「ううっ、寒っ」
俺は震える。
家に帰ってシャワーを浴びて、早く寝よう。
明日の大学の講義は午前からだ。
スマートフォンが震えた。
俺はスマートフォンの画面を覗く。
季夜からのチャットだ。
ビーサン片方無くした。
裸足で歩いてる。
との事だった。
「何やってんだよ」
可笑しくて笑いが込み上げてくる。
明日も、またこんな感じで俺は季夜を笑うんだろう。
明日。
また明日に。
明日が来て、また次の明日が来て。
一年何か、きっとあっという間だ。
俺は、季夜は、一年後、どうしているだろうか。
風が吹いた。
裸足の季夜の事を思う。
裸足で街中を歩くとはどんな感じか。
明日、季夜に訊いてみよう。
気が付けば俺の住むアパートはすぐ目の前にあった。
俺は速足で自分の住み家に入る。
玄関扉を閉めて、もたもたと靴を脱ぐ。
手に持ったスマートフォンに目を向ければチャットの通知を知らせている。
季夜からで、月が綺麗だ、とか書いてあった。
ふっ、と笑みが零れる。
さて、このメッセージの返信をどうしようか。
それから一週間後。
季夜が死んだ。
季夜の通夜の帰り。
俺は、ふらふらと危ない足取りで、一人で歩いていた。
まだ季夜が死んだ事が信じられなくて、ぼうっとして、おかしな気分だった。
交通事故。
季夜の乗った自転車が、信号無視の車に衝突されて季夜は転倒し、頭を強く打って死んだ。
突然告げられた季夜の死に、俺も大学の仲間も戸惑った。
季夜の葬儀が行われるのは季夜の地元でだった。
俺は大学の仲間と新幹線に乗り、季夜の通夜に出向いた。
季夜の実家は嘘みたいな田舎だった。
電車を乗り継いで下りた駅の目の前に大きな山が……。
山は、もう少し待てば緑に包まれるだろう。
息を吸うと、何とも清々しい匂いが鼻から入って来る。
柔らかく、落ち着く匂いだった。
何処かで嗅いだ事のある匂いだ、と思ったら、季夜から香る匂いだと気が付いた。
ああっ、と俺はため息を付く。