三角形な奇妙な日常27
橋の上から目を凝らして見てもポチの姿は確認できない。
あの屈強な乙女川の面子の前に再び出る勇気が湧かない俺は橋の上からポチに呼び掛けようとしていたのだが。
仕方ない、と俺は腹をくくって河川敷に下りる。
河川敷には煌々とドラム缶から燃える火の辺りに乙女川の男達がドラム缶を輪にして集まっていた。
果たしてそこにポチはいた。
猫のカプリーヌも一緒だ。
カプリーヌは蓋を開けた缶に入ったままの猫缶を食べていた。
ポチと男達は白いプラスチックの椀の器に入った何かを食べている。
椀からは白い湯気が零れていた。
そこかしこから笑い声が上がっている。
しかし、その笑い声も男達が俺の姿を目に止めると止んだ。
男達は揃いも揃って俺に睨みを利かせた。
体にじっとりと嫌な汗を掻く俺。
また怒鳴られるのか、と恐怖におののく。
そんな中、人波を掻き分けてポチが俺の側へと寄って来た。
「お前、どうしたんだ。そんなに汗を掻いて」と目を、ぱちぱちさせながらポチが俺に訊ねる。
俺は恐怖にビビって冷汗掻いたとは言えず「お前を探して走って来たからだ」と答えた。
しかし、そう言った後で後悔をする。
ポチを探すために懸命になっていた事が何となく恥ずかしい事、の様に感じたからだ。
恥ずかしさで下を向いた俺。
恥ずかしさを紛らわす為に「何で部屋からいなくなったんだ」と多少声を荒げてポチに言うと、男達が、「ああん? ポチに向かってその態度は何だ!」と俺に詰め寄って来た。
「いや、その……」
慌てた俺は何て言ったらいいのかと口ごもる。
じりじりと俺に接近する男達。
男達の眼光に俺は地獄の底にいる様な気分になる。
「みんな、止めて」
ポチの鶴の一声で男達の動きが止まった。
ポチが俺の顔を見ながら話しだす。
「いや、お前が帰って来るまで暇だし、お腹も空いたから昼からずっと此処にいたんだ。お前、合鍵を置いてってくれたし。でも、心配掛けたならすまない」
「べ、別に心配なんかしてない」
俺の台詞に再び男達が、「何だとぉ!」と息を撒く。
恐怖の再来に俺の顔は青かったに違いない。
「みんな、落ち着いて!」
その一言で男達は大人しくなる。
何とか無事で済んだみたいだ。
ほっとした俺は小さくため息を漏らした。
そんな時、わははっ、と笑い声が響いた。
笑い声の主はカンさんだった。
「俺達は随分と兄ちゃんを怯えさせちまってる様だな」とカンさん。
「いえ……そんな事無いです」と言ったもののカンさんの言う通りだった。
「お前も食べていくか?」
カンさんがそうって手に持った椀を俺の方に向ける。
椀の中を見ると豚汁らしきものがあった。
大きな具が入っていて、七味唐辛子が降りかかったそれは実に美味そうだった。
だが、屈強で最強の男達に囲まれて食事なんかしたら俺のか弱い胃は直ぐに痛み出すだろうと思えた。
「いや……その。俺は……」
此処で断るのも勇気がいるが、此処にずっといる方が勇気がいる。
丁重にお断りしようと俺が口を開いたタイミングで俺のお腹は、ぐうぅっ、と盛大な音を鳴らした。




