別れ6
季夜の気に障る事を言ってしまったんだろうか……と俺は考えた。
謝ろうか、と俺が口を開きかけたのと同時に季夜が話し出す。
「うーん、どうだろう。あんまりショックとかは無かったな。ほら、ただの占いだしさ」
そう言って季夜は爽やかに笑った。
俺は、ほっと息をついた。
「それなら、いいけどさ」
「ははっ」
俺達は、占いの館の狭い階段を二人並んで降りた。
階段は俺の晴れない気持ちとは裏腹にカンッカンッと軽快なリズムを鳴らした。
季夜の言う通り、ただの占いだ。
けど、あんな事を言われて穏やかな気持ちにはなれない。
いや、考えるな。
俺は自分にそう言い聞かせる。
階段を下り切ると、季夜が俺の顔は見ずに、「なぁ」と話し掛けて来た。
俺も季夜の顔は見ずに「何だよ」と言う。
「俺がもし死んだら、ポチの事、よろしく頼むわ」
「はぁ?」
突然、何言ってんだ、こいつ。
「お前、ただの占いだって言ったじゃん」
「言ったけど、一応さ。なぁ、ポチの事、お願いな。な、住原」
季夜が俺の方を向く。
季夜の顔はどこかいつもの季夜とは違って見えて。
ポチって何だ?
犬か何か、か?
季夜が動物を飼っているという話は聞いた事が無かった。
季夜の言っている事が分らずに戸惑ったが、俺は「分かったよ。ポチの事は俺が面倒見てやるよ」と答えた。
多分そんな事にはなるまいが。
季夜が死ぬ何て事ある訳ない。
「ありがとう、住原。約束な」
季夜が小指を差し出した。
「何だよそれ」
俺が訊くと、季夜は「約束。破ったら針千本な」と言った。
俺は仕方なく季夜と小指を絡ませる。
「指切った」
そう言うと季夜は俺から指を離し笑った。
風が吹く。
「寒いな」と季夜。
「ビーサンなんかでいるからだよ」と俺。
「そりゃそうだ。何処か入ろうぜ、住原」
「ああ。飯でも食おうぜ」と言って、俺は走り出す。
「急に何だよ!」と季夜が俺に向かって叫ぶ。
「ビリの方が飯を奢る!」
俺の発言に季夜が慌てて走り出した。
季夜は、あっという間に追い付いて俺を抜かしていく。
それから俺達は、占いの話は一切せずに飯を食ってゲームセンターに行って、ぐだぐだと夜まで笑って遊んで過ごして別れた。
帰り道、一人暮らしのアパートへ向かう途中、スマートフォンからチャットで季夜からの連絡があった。
また明日、大学でな。
そうメッセージがあった。
俺は、おう! とメッセージの返信を送った。
また明日。
明日はどんな一日になるんだろう。
季夜と二人、どんな風に過ごすんだろう。
まあ、どうせ下らない話をして過ごすんだろう。