三角形な奇妙な日常26
「天国はきっとあるよ。そこから、季夜が来てくれる可能性はあるよな」とそんな一言を言うだけで精一杯だった。
「お前が天国を信じている何て思わななかったよ」と仲間達が笑う。
「そりゃ、がっこの課題でいつも地獄を見てるんだから天国があって当たり前だろ」
そう俺が冗談を言うと、みんなが笑う。
それから話題は再び下らない話に移り、俺達は馬鹿騒ぎをする迷惑な客としてハンバーガーショップにい続けた。
仲間と別れ、俺はアルバイト先へ走った。
遅刻ぎりぎりまでみんなと話してしまったのだ。
今日の俺は走る日らしい。
呼吸をするのもしんどくなった頃にアルバイト先に着いた。
これから夜の八時まで働くのだ。
遅刻ぎりぎりの俺に店長の厳しい目が光る。
俺は素早くタイムカードを切ると、こりゃ、今日は失敗できないぞ、と心に刻んで、ロッカールームで着替えを済まして気合の入った顔をして店に出た。
俺は必死に働いた。
今日は客が多い。
何もかも早くしないといけなかった。
額に汗を流しながら働く。
こんなに体から水分が出て、干からびたりしないのか? 何て心配が頭を過るほどに動きまくった。
そんな訳で、アルバイトが終わる頃には、くたくたになっていた。
こんなに働いて最低賃金しか貰えないなんて詐欺だ。
接客で疲れた声で、「お疲れ様でした」と店長含め、店のメンバーに言いながら、俺の方がお疲れ様なんだが、と思う。
「お疲れ様。今日は大変だったね。次、遅刻しない様に気を付けて来てね」
優しい様な厳しい様な店長のお言葉を聞き流し、俺はアルバイト先を後にした。
帰り道は寒かった。
まだまだコートが必要だよなと、パーカーの俺は思う。
疲れた体をどうにか動かして、ようやくmyアパートに辿り着いた。
外から自分の明りの消えた部屋を見てほっとする。
いそいそと部屋に入れば、早速ヒーターを付けて温まる。
部屋は静かだった。
その静けさを妙に感じる。
俺は、この感覚は何だろう、と首を傾げた。
そして、ああっ、と思う。
「ポチ!」
大学にアルバイトとせわしない一日を過ごし、すっかりポチの事を忘れていた。
「ポチ!」
名前を呼んでも返事は返って来ない。
狭いアパートの部屋の中を彼女の姿を探してさ迷う事数秒。
ポチが部屋にいない事は明白となった。
ポチは俺の口寄せを待ってるはずだ。
俺は部屋のデジタル時計を睨む。
夜の九時半。
脱いだばかりのパーカーを羽織り、俺は外に出た。
ポチを探さないと。
ポチが何処にいるのか。
心当たりはあそこしかない。
乙女川。
おれはまた走り出した。
本当に今日と言う日は走る日だ。
街灯の頼りない光に照らされながら乙女川を目指して風を切る。
夜風が目に染みる。
乙女橋まで辿り着くと、河川敷の方から賑やかな声が此処まで届いた。




