三角形な奇妙な日常24
「じゃあ、行くからな。あ、そうだ。此処の合鍵、部屋の本棚の上にあるお菓子の缶の中にあるから。出掛けるなら鍵かけて出ろよ」
合鍵の入った小さなクッキーの缶を頭に思い描きながら俺は言う。
ポチが、「ああ」と頷く。
「じゃあな!」
俺は疾風の如く玄関扉から外へと出た。
間に合え!
と繰り返しながら大学へ向かって走る、走る。
もう俺の頭は大学の講義の事でいっぱいで、他の事を考える事は止めていた。
唯一、今日が晴れであることに感謝した。
傘なんか持って走るのはしんどい。
リュックの恐るべき重さを感じながら俺は走り続けた。
すれ違う人、全てが必死の形相の俺に注目する。
そんな視線なんぞ気にしていられない。
俺の心は大学生活へと向かってまっしぐらだった。
何とか講義が始まる前に教室へと辿り着いた。
教室の中に入ると仲間が目線で「遅いぞ」と俺に訴えて来る。
席なんか選んでいる時間は無いから空いている適当な席を見つけてそこに滑り込む。
隣に座っている眼鏡の女の子が少し嫌そうな顔をした事が心に痛い。
俺が席に着くと同時に教授が教室の中に入って来た。
教授が出席を取る頃には弾んでいた息も治まって、名前を呼ばれると、「はい」と普通に返事が出来た。
この教授は遅刻をとかく嫌がる。
遅刻してきた学生の評価を低くする、何て噂があるくらいだ。
噂だろうとそんな事をされたらたまらない。
間に合って良かった。
「では、講義を始めます」
出席を取り終えた教授の高らかな声が教室に響き、講義は始まった。
講義を終えた俺は、仲間と共に下らない話しをしていた。
次の講義が始まる前のつかの間の時間だった。
散々馬鹿な話をした後。
「そう言えば」と仲間の一人が言う。
何だ? とみんながそいつに注目する。
「住原、もう少しで誕生日だよな」とそいつは言った。
「ああ……」と仲間達から声が上がる。
誕生日。
そんなの忘れていた。
何せ色々とあったから。
「住原もこれで二十歳になるな」と仲間に言われて、ああ、そうか、と思う。
俺の十代がもう直ぐ終ろうとしている。
そう思うと、何かやり残した事は無いか、と少し焦る。
季夜が死んで、俺の人生終わったみたいに思っていたから、最後の十代をどう生きようか何て問題の答えは今直ぐには出て来ない。
「多田野が死んで、俺達も勿論そうだけど、お前も落ち込んでただろ。でも、最近、少し元気が出て来たみたいだから……」
そう言って、そう言えば、と話を始めた仲間は一反言葉を切る。
俺の元気が出て来たのはこいつら、仲間のお陰と、口寄せによってまた季夜と話せる様になったからだ。




