三角形な奇妙な日常19
上機嫌でポチが浴室から出て来たのはポチが浴室に入ってから十分も立たない時間だった。
「ふぅ。気持ち良かった」
非常に、さっぱりとした顔を俺に向けながら言うポチ。
「随分早いな」と思わず突っ込んでしまった。
「うん。お風呂はいつも大体十五分くらいで出るんだ。銭湯は、何か、他人の目が気になって」
なるほど、そう言う事情か。
「此処は銭湯じゃ無いんだから、ゆっくりしてても良いんだぞ」
「いや、水道代が勿体無いだろ。お前、貧乏だろう」
「うっ……」
その通りです。
しかし、俺より金を持ってい無さそうなやつに気遣われるまで切羽詰まってはいない……はずだ。
「水道代くらい大丈夫だから。遠慮せずに使えよ」と俺は言う。
「何言ってるんだ。水はただじゃ無いんだぞ。公園とかから水を二リットルのペットボトルに入れて小屋まで運ぶのだって一苦労なんだ。水は大切にしないと」とポチは返す。
水を手に入れるのにお金は掛かっても苦労が付き纏うだなんて考えもしていなかった。
「わ、分った。でも、必要ならちゃんと使ってくれ。季夜の彼女に水で苦労を掛けるのは俺としては望まない所だ」
「……分った」
ポチが頷く。
「え、えーっと……」
話す事の無くなった俺はポチから視線を逸らして無駄にデジタル時計を見たりした。
まだ、夜の八時半を回ったばかり。
これからどうする?
このまま会話が続かなければ気まずい。
天気の話でもしようかな、と俺が考え付いた時、カプリーヌが、にゃあ、と鳴いてポチにすり寄って来た。
ポチはカプリーヌの背を撫でながら、「そうだ。カプリーヌ、まだご飯食べてない。何か食べさせないと。急に預かったからキャットフードも持って来て無いし。どうしよう」と独り言のように言った。
困った顔をしてポチがカプリーヌを見ればカプリーヌの方も鼻に皺を寄せて困り顔をする。
猫も困るのか。
猫に食べさせる物なんか家には全く無い。
化学調味料を駆使している俺には煮干しの持ち合わせも無い。
どうしようかと思案したあげく、俺は、「ちょっと待って」そう言ってポチをその場に残すと廊下に出た。
そして廊下の床にあるビニール袋を漁る。
「お、あった!」
俺が手にしたのは鰹節のパックだ。
これは鰹節が小分けになっていて一人暮らしには実に都合がいい。
次に俺は炊飯器を開いた。
そこには丁度一人分の冷や飯が残っている。
俺はそれを適当な皿によそうと、鰹節を豪快に冷や飯の上に振りかけた。
そして鰹節とご飯をスプーンで、さくさくとかき混ぜる。
そうして……。
「出来た」
鰹節ご飯の完成だ。
俺はたまに、ほかほかのご飯の上に鰹節を載せて、その上に醤油をたらして食べていた。
熱々ご飯の上で踊る鰹節を見るのが何だか好きだった。
俺は醤油抜きの鰹節ご飯を持って部屋まで戻る。
部屋に入るとポチがカプリーヌを膝の上に乗せて座っていた。




