三角形な奇妙な日常17
「だから信用出来るんだ」
ふんっ、とポチが鼻を鳴らす。
「季夜は次の日、河川敷に来たよ。小屋にいたら仲間が来てさ。アタシに会いにきたやつがいるって。凄く変なやつだって聞いて、あ、あいつだ、と思った。それで小屋を出て外に出たら、みんなと、わいわいやってる季夜がいたんだ。人見知りするみんなが他人とあんな風に楽しそうに話してるの、初めて見た。みんな、季夜の写真を見て、凄い凄いって騒いでて。それでアタシも交じってみんなで見たんだ。季夜の、空の写真を」
「空の写真?」
「その時は知らなかったけど季夜は、よく空の写真を撮ってたんだ。スマホで。いつかお気に入りのカメラが現れたらそれを買うんだって。それまではスマホで良いんだって言ってた」
「ふぅーん」
そう言えば季夜は写真機能がやけにいいスマートフォンを使っていた。
それが写真好きの季夜のこだわりだったのかも知れない。
「季夜は写真の仕事をするのが夢だったんだ」
ポチの台詞に、はっとなる。
季夜にそんな夢があった何て……。
俺は今まで季夜の何を見て来たのだろう。
季夜の何を知っていたというのだろう。
将来の夢も知らずに俺は親友面をしていた訳か。
俺は何だか酷く寂しい気持ちになった。
ポチに羨ましさを感じる。
俺は季夜が撮った写真を見せて貰った事が無い。
なのにポチは季夜の写真の事を知っている。
季夜はきっと、本当にこの子の事が大事だったんだ。
俺には語れない夢を話すくらいに。
「どうしたんだ? ぼうっとして」
怪訝な顔をしたポチに「別に」と俺は答えた。
「そうか?」
「そうだよ」
「でも、何か気に食わないって顔してる」
「ほっとけ。で、それで? 話しの続きは?」
多少声を荒げてしまった。
ポチは疑い深そうな目で俺を見ていたが、やがて話を続けた。
「季夜の写真は沢山で。とてもその日のうちに見きれ無くて。アタシ達は写真をもっと見たいって季夜にせがんだ。そしたら季夜は、また此処に来て写真を見せるからって約束してくれた。写真は毎日撮ってるから新しいのも見せるって。みんな喜んでたな」
「ふぅーん」
何とも面白くなさそうな声を漏らしてしまう。
「それから季夜はたまに乙女川に来てくれる様になったんだ」
ポチはラーメン丼ぶりに唇を当ててスープを飲み込んでいった。
ポチの丼ぶりが空になり、ポチから、「くはぁっ」と言う呑気な声が出る。
「アタシと季夜の出会いは、まぁ、こんな感じ」
「なるほど」
俺と違い、何ともドラマチックな出会いを聞かされて、何だかな、という感じである。
「……ラーメン、ごちそう様。片付けはアタシがやるから」
そう言ってポチは二人分のラーメン丼ぶりを持って廊下の方へ消えた。
「はぁっ……」
何だか分からないため息が俺の口から出る。
こんな時、俺が二十歳だったら煙草でも吸うんだろうな、と思った。
俺は変な所が真面目で、飲酒喫煙は二十歳になってからと決めていた。
俺はまだ十九だ。
季夜は早々と一月に二十歳になっていた。




