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五分と三角の時間に虹  作者: 円間
三角形な奇妙な日常
50/60

三角形な奇妙な日常17

「だから信用出来るんだ」

 ふんっ、とポチが鼻を鳴らす。

「季夜は次の日、河川敷に来たよ。小屋にいたら仲間が来てさ。アタシに会いにきたやつがいるって。凄く変なやつだって聞いて、あ、あいつだ、と思った。それで小屋を出て外に出たら、みんなと、わいわいやってる季夜がいたんだ。人見知りするみんなが他人とあんな風に楽しそうに話してるの、初めて見た。みんな、季夜の写真を見て、凄い凄いって騒いでて。それでアタシも交じってみんなで見たんだ。季夜の、空の写真を」

「空の写真?」

「その時は知らなかったけど季夜は、よく空の写真を撮ってたんだ。スマホで。いつかお気に入りのカメラが現れたらそれを買うんだって。それまではスマホで良いんだって言ってた」

「ふぅーん」

 そう言えば季夜は写真機能がやけにいいスマートフォンを使っていた。

 それが写真好きの季夜のこだわりだったのかも知れない。

「季夜は写真の仕事をするのが夢だったんだ」

 ポチの台詞に、はっとなる。

 季夜にそんな夢があった何て……。

 俺は今まで季夜の何を見て来たのだろう。

 季夜の何を知っていたというのだろう。

 将来の夢も知らずに俺は親友面をしていた訳か。

 俺は何だか酷く寂しい気持ちになった。

 ポチに羨ましさを感じる。

 俺は季夜が撮った写真を見せて貰った事が無い。

 なのにポチは季夜の写真の事を知っている。

 季夜はきっと、本当にこの子の事が大事だったんだ。

 俺には語れない夢を話すくらいに。

「どうしたんだ? ぼうっとして」

 怪訝な顔をしたポチに「別に」と俺は答えた。

「そうか?」

「そうだよ」

「でも、何か気に食わないって顔してる」

「ほっとけ。で、それで? 話しの続きは?」

 多少声を荒げてしまった。

 ポチは疑い深そうな目で俺を見ていたが、やがて話を続けた。

「季夜の写真は沢山で。とてもその日のうちに見きれ無くて。アタシ達は写真をもっと見たいって季夜にせがんだ。そしたら季夜は、また此処に来て写真を見せるからって約束してくれた。写真は毎日撮ってるから新しいのも見せるって。みんな喜んでたな」

「ふぅーん」

 何とも面白くなさそうな声を漏らしてしまう。

「それから季夜はたまに乙女川に来てくれる様になったんだ」

 ポチはラーメン丼ぶりに唇を当ててスープを飲み込んでいった。

 ポチの丼ぶりが空になり、ポチから、「くはぁっ」と言う呑気な声が出る。

「アタシと季夜の出会いは、まぁ、こんな感じ」

「なるほど」

 俺と違い、何ともドラマチックな出会いを聞かされて、何だかな、という感じである。

「……ラーメン、ごちそう様。片付けはアタシがやるから」

 そう言ってポチは二人分のラーメン丼ぶりを持って廊下の方へ消えた。

「はぁっ……」

 何だか分からないため息が俺の口から出る。

 こんな時、俺が二十歳だったら煙草でも吸うんだろうな、と思った。

 俺は変な所が真面目で、飲酒喫煙は二十歳になってからと決めていた。

 俺はまだ十九だ。

 季夜は早々と一月に二十歳になっていた。

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