三角形な奇妙な日常16
よくってお人好しのする事だ。
季夜はお人好しではあった。
しかし、馬鹿ではないはずだ。
俺みたいに見てみぬ振りを決め込むのが妥当だと知っていたと思う。
それなのに……季夜は争いに関わる。
「まあまあ」と言って争いの渦の中へ突入するのだ。
そして何故か季夜が関わると争いは丸く治った。
さっきまで揉めてたやつらが季夜と笑い合う姿は奇跡を見ている様だった。
そういうのを見て「凄いな」と言う俺に季夜は、たまたまだよといつも言った。
たまたまに守られてるんだ。
そう言い、季夜は笑った。
ああ、何て懐かしいんだろう。
そんなに昔の出来事じゃないはずなのに。
季夜がこの世にいないというだけで何で全ては過去の事みたいになってしまうんだろう。
「季夜の写真があんまり綺麗だったから、スマホで消すのはやめて欲しかったけど自分が写真に写ってるのが何か恥ずかしくて結局、消してもらった。でも、あの時見た写真はアタシの頭に焼き付いてる。自分の写真を見て感動する何て思ってもみなかった」
「そうか……」
その時の写真がどんな物だったのか見てみたい。
季夜がそんな写真を撮る何て。
写真の事、何で季夜は俺達に黙っていたんだろうか。
「アタシの写真は消してもらったけど、季夜が撮った他の写真が気になって。見せてくれってお願いしたら、季夜が、何だが恥ずかしそうにしてスマホに保存してた写真を見せてくれて。それらが本当に綺麗な写真で。時間を忘れて季夜の写真を見てた。そしたらじきに辺りが暗くなって来て。季夜が家まで送ってくれるって。この辺は女の子一人じゃ危ないからって。アタシの帰る所は、直ぐそこだって乙女川の河川敷を指さしたら、季夜は一瞬だまった」
ホームレスの溜まり場、乙女川の河川敷が帰る場所。
そんな事を言われたら俺だったらどうするだろうか。
考えたら嫌な考えに行きつき、俺は頭を振った。
「どうした?」
不審そうにポチが俺を見る。
「何でもない」
そう言うのが精一杯だった。
「黙った後、季夜は言ったんだ。今日はもう遅い。俺は帰る。けど、また会いに来てもいいですか? って」
まるでナンパ野郎みたいな台詞だ。
しかし、そんな台詞も季夜なら似合うだろう。
そう言った時、季夜は笑顔だったに違いない。
だって、そういうやつだ。
「アタシは写真をまだ見たかったから。うんって。季夜は、じゃあ、明日会いましょうって。小指をアタシに差し出して。嘘ついたら……」
針千本。
「針千本って」
俺は笑い出した。
季夜は誰の前でも季夜だ。
「何だよ。急に笑い出して!」
頬を膨らまして俺を睨むポチ。
「いや、悪い。何かさ、あいつの癖なんだよな。嘘ついたら針千本って。実際には食べ物奢らせるだけなんだけどさ。季夜はさ、嘘が嫌いだよな」




