三角形な奇妙な日常13
ポチは気にした様子は見せなかった
その事に小さく安堵する。
「……カンさんに教えてもらったんだけど」
ポチがラーメンを啜りながら言う。
カンさん……。
伝説の漢直伝の袋麺の作り方とは、如何に?
気になる所だが、突っ込んで訊く勇気が出ない。
女の子とこんな時、何を話せばいいのか、全く不明である。
ポチは話の続きはせずに黙ってラーメンを啜る。
俺もラーメンを啜る。
ラーメンを啜る音と猫の鳴き声だけが活きていた。
とても静かな時間だ。
「……お前は、どうやって季夜と仲良くなったんだ?」
ぽつりと言ったポチの台詞に、「えっ?」と顔を上げた。
「……季夜は……アタシによくお前の話をして聞かせてくれた。お前は……住原は、面白いやつだ、って」
彼女が俺に話し掛けているんだと理解するのに数秒掛かった。
「……そうか」
俺にとっては季夜の方こそ面白いやつだった。
「季夜とお前はどうやって知り合ったんだ?」
ラーメン丼ぶりを見つめながら喋るポチ。
季夜との出会い。
思い出すのも懐かしい気がする。
俺は躊躇う事無く話し出した。
「向こうはどうか知らないけど、俺は季夜の事は大学に入ってから知ってたんだ。あいつは人気者だったから、目立ってたし。俺はそんな人間とは別世界の存在だって思ってたから大学で顔を合わせる事はあっても俺の方から話し掛ける事は無かった」
「……うん」
「でさ、ある日、講義が始まる前に俺が机で漫画を読んでたら季夜が俺の隣に座ったんだ」
「…………」
大学の人気者がどうして俺の隣に座る気になったんだろう、と不思議だった。
なぁ。
季夜が俺に呼び掛けた。
騒がしい教室の中で季夜の声だけが耳に残った。
「でさ、季夜が俺に向かって何読んでるの? って」
俺はほとんど麺の残っていないラーメン丼ぶりの中を箸で突いた。
千切れた麺がゆらりとラーメン丼ぶりの中のスープの海を泳ぐ。
俺は箸で逃げていく麺を追いかけた。
そうしながら、また話し出す。
「俺は、いきなり大学の人気者に話し掛けられて、慌てて。手に持ってた漫画を床に落としたんだ。そうしたら季夜が漫画を拾ってくれて。で、笑って、もう一度、何読んでるんだっ、て」
今となっては、その時、何の漫画を読んでいたのか思い出せない。
でも、俺は確かに答えたはずだ。
漫画のタイトルを、小さな声で。
途切れ途切れに。
「俺が読んでた漫画を自分も見たいって季夜が……それで、その場で漫画を季夜に貸したんだ。季夜は、サンキューって」
その時、にっ、と笑った季夜の歯の白さが脳裏に蘇る。
「講義が始まると季夜はこっそり俺が貸した漫画を読み始めてさ。講義中にスマホいじってるやつなら見かけたけど漫画を読んでるやつは初めて見て。おかしなやつだなって。季夜は結局、講義の間、ずっと漫画を読んでた。それでさ、講義が終わったら、季夜が、あっ、て声を出したんだ」




