三角形な奇妙な日常11
「サンキュー」と俺。
ポチと数秒無言の時間が続く。
「ラーメン作るから」
俺が慌ててそう言うと、「アタシがやる」とポチ。
あの大胆な箸使いで主役のラーメンを任せて良いのだろうか? と一瞬躊躇ったが、ここは乗るのが大切、とラーメン作りをポチに任せる事にした。
鍋は小さなのが一つしか無いから二人分のラーメンを二回に分けて作らなければならない事になるが幸運な事に我が家にはラーメン丼ぶりが二つあった。
茶碗は一つしかないし、皿も二人分なんて用意していない。
ラーメンならば分けて作って二人で食べる事が出来る。
ポチは俺が手にした袋麺を大きな目をさらに大きくして見た。
「袋麺、それならしょっちゅう作ってるから。自信ある!」
意地を張るみたいにポチが言う。
「……なら、安心して頼めるよ」取り敢えず言うと俺は袋麺を二人分、ポチに手渡した。
本当は自分の分は自分で作りたいのを俺は堪える。
ポチはコンロに振り返り、コンロの上に置いてある小さな鍋を手に持つ。
「鍋、これ?」とポチが俺を振り返る。
「ああ。鍋、小さいから一人分ずつしか出来ないんだ」
俺が言うとポチは頷いた。
ポチは意外にも慣れた手つきでコンロの隣に並ぶ小さなシンクで鍋に水道水を入れコンロに置き、コンロの火をつけた。
鍋の中の水が沸騰するとポチは麺とスープの素とかやくを一気に入れた。
「あっ!」
俺の口から思わず声が出た。
袋麺には作り方として、麺とかやくのみを鍋に入れて麺を茹で、その後、器に入れた粉末スープにお湯を三百五十ミリリットル注ぎ、麺を器に入れて完成となっているがポチはそんなの無視だ。
袋の説明通りに作っていた俺は、「ああっ……」と哀しい声を漏らす。
俺の声は無視してポチはラーメン作りに勤しんだ。
恐らくポチは時間何て計っていない。
数分後、鍋からはぐつぐつと音が鳴り響く、地獄の様に煮えたぎるラーメンが完成した。
俺がしぶしぶとラーメン丼ぶりをポチに手渡すとポチは鍋の中のラーメンを、どばっとラーメン丼ぶりに注いだ。
跳ねたラーメンのスープが何故か俺の頬に直撃する。
熱い。
叫びたくなるのを何とか堪えた。
ポチは野菜炒めをフライパンからごっそりと菜箸で掴み、これまたどかりとラーメンの上に置いた。
ポチの真横にいた俺に、またしてもラーメンの汁が何かの呪いの如く飛び跳ねて今度はおでこを直撃した。
熱い。
「これ、食べてて」とポチ。
「さ……先に、いいのか?」
地獄の如くなビジュアルのラーメンへの恐怖によって沸いた唾を飲み込み訊ねると「伸びる前に食べろ」と返事が返って来た。
いや、これ、時すでに伸びてるだろ。
「そ、そういう事なら遠慮なく。あ、お前の丼ぶりはここで、箸は……」
廊下に転がるコンビニのビニール袋を漁る俺。
ビニール袋の中に割り箸を見つけると、それを取ってポチに渡した。
「綺麗な割り箸」とポチが一言。
綺麗なって何だ?
まぁ、良いか。




