三角形な奇妙な日常8
そうカンさんが言うとポチは猫を受け取り抱きしめた。
「あの。俺のアパート、ペット禁止なんですけど」と遠慮がちに俺は言う。
「硬い事言うな。それくらいばれない様にしろ!」とカンさん。
「そ、そんな……」
俺は言葉を紡ごうとしたが、止めた。
カンさんの睨みにびびってしまったのだ。
「カプリーヌ。一緒に来てくれるなんて……ありがとう」
嬉しそうにポチが猫に頬ずりしている。
カプリーヌ……この猫の名前か。
カプリーヌって、そんなお上品な面かよ。
けっ。
「お前もカプリーヌに挨拶しろよ」
そう言ってポチが俺に向かって猫を両手で持って、ぐいっ、と差し出した。
俺は思わず猫を受け取ろうと猫に手を伸ばした。
すると。
がぶっ、と猫が俺の手を噛んだ。
「痛てぇ!」
思わず叫ぶ。
そして、慌てて猫の口を手から引き離すと後ずさりをした。
それを面白そうにカンさんが見ている。
カンさんは全くの他人事だ。
この猫、何なんだ。
鋭い目で俺を睨んでいる姿と言い、強烈な噛みつきと言い、これじゃ、カプリーヌじゃ無くてガブリーヌじゃ無いか。
怪獣の様な猫に噛まれて腫れた手を俺は撫でる。
「ははっ。カプリーヌは俺達以外のやつには噛みつくんだよ。カプリーヌはそう簡単に他人になびかんのさ。唯一、きぃちゃんには懐いていたけどな。全く、不思議な男だったよ。きぃちゃんは……」
季夜には懐いていたのか。
俺はじっと猫を見つめる。
「ポチに妙な事しやがったらカプリーヌに噛み殺されると思えよ」
笑いながら言ったカンさんのこの台詞に戦慄が走った。
「カンさん。本当にありがとう。みんなにも、そう伝えて」
微笑みを浮かべて言うポチ。
「ああ。元気でな。いつでも此処に遊びに来いよ」
優しい微笑みを浮かべてカンさんが言った。
「うん。じゃあ、行くから」とポチ。
「またな」とカンさん。
ポチが明後日の方向へと歩き出す。
「そっちじゃない。こっちだ!」と慌てて言う俺。
これから俺の身に何が起こるのだろうか。
不安しかない心の中の問い掛けに答える者は、やはりいない。
俺は、やれやれとアパートに向かって歩き出した。
ポチとカプリーヌを連れて。
日が落ちかけた乙女川の黄昏色の景色がやけに心に染みた。
アパートに辿り着いたのは丁度日が墜ちた頃だった。
「おじゃまします」とロボットの様な片言の言葉でポチが玄関ドアから中に入って来た。
カプリーヌはポチの腕をすり抜けて部屋の中に玄関でまごついている俺よりも早く入っていった。
猫に部屋をめちゃくちゃにされたら敵わないと、俺は急いでカプリーヌの後を追う。
カプリーヌは廊下兼、台所を抜けると開いた戸の隙間から戸の中の部屋へ消えた。
「こら!」
俺は部屋に飛び込んだ。




