三角形な奇妙な日常7
「おい、どうした?」
誰かがそう言うと、ヤマさんが、「ポチのやつ、この兄ちゃんと暮らすつもりらしい」と唾を飛ばしながら言う。
その台詞に男達の表情は見る見ると険しくなる。
何だかとても嫌な感じだ。
「何? こんなうだつの上がらなそうなやつとポチが?」
「許せねー!」
「お前みたいな不吉極まりないやつにポチを任せられるか!」
「恥を知れ! 恥を!」
数えきれない暴言が俺へと注がれる。
そこまで言われたら俺がポチと一緒に暮す理由は無い。
これを機に俺は一人でこの場を立ち去ろうと駆け出そうとした。
それで全て丸く収まるのだ。
「まあ、待て」
そう落ち着いた声で言ったのはカンさんだった。
カンさんはポチの目を見つめて話し出した。
「なぁ、ポチ。こいつと一緒にいる事が、お前にとって大切な事なのか?」
そう言われたポチは、カンさんを真っすぐに見つめて、「うん」と頷いた。
「凄く、凄く大事なんだ」
そう語るポチは堂々としていて大人びて見えた。
「分かった」
カンさんが深く頷く。
他の男達も同じ様に頷いていた。
「行ってこい、ポチ」
「体に気をつけるんだぞ」
「いつでも此処に来いよ」
温かい声援が沸き起こる。
そして……。
「ぼうず、ポチに何か淫らな事をしたらようしゃしねぇ」
「ポチを泣かす様な事しやがったらお前の体を引き裂いてやるぜぇ!」
「後ろには気をつけるんだな!」
などと俺にはとんでもない言葉が投げ掛けられた。
このまま此処にいては、俺は危ない。
「い、行くなら行くぞ!」
俺は素早く男達の囲みを抜けた。
「あっ、待て!」
ポチが俺の後について来る。
前に進みながら、これからの事を考える。
どうにかなる……のか?
その疑問に答える者はおらず、ただ寒い風が頬にぶつかるだけだった。
ポチを後ろに付けて河川敷の土手から上に登る。
河川敷から上の道に出ると自分の呼吸が早い事に気が付く。
俺は密かに興奮していたらしい。
あの騒ぎだ。
さもありなん、という感じだ。
するとカンさんが、「おーい!」と声を張り上げて河川敷に続く斜面を登って来た。
斜面は急で上るのに苦労するがカンさんはそんな苦労は微塵も見せずに斜面を駆け上がって来る。
流石は伝説に歌われる人物の内の一人だ。
カンさんは息も切らせずに俺達の前へとやって来た。
カンさんの腕の中には一匹の太った猫がいる。
長い毛に身を包んだ薄汚れた白い猫の、その顔は物凄く不細工だった。
人相……いや、にゃん相が悪すぎる。
カンさんはその猫をポチに差し出した。
「カプリーヌを連れていけ」
カンさんは言う。
「良いのか?」とポチ。
「お守り代わりだ。連れていけってみんなが、な」




