別れ4
「多田野さん。あなた、今、悩みは?」
占い師に訊かれて季夜は首を横に振る。
「特に無いですね」
「そうですか……では、何について占いましょうか?」
訊かれて季夜は首をかしげて見せてから、「じゃあ、運勢を占って下さい」と言った。
「何だよ、俺と同じじゃねーか!」
「あはは。そうだな。まぁ、良いじゃんか」
人の事を散々笑ったくせに何だよ、こいつ。
むくれる俺と笑顔の季夜を前に、占い師は凍り付いた顔をしてカードをかき混ぜた。
さっきの曇った目といい、この凍り付いた顔といい何なんだ。
占い師は黙ってカードを纏め、テーブルの上に一列に並べた。
「さあ、多田野さん、この中から三枚カードを選んで下さい」
「はい、分かりました」
季夜は迷わずに三枚のカードを選ぶ。
占い師がそれを表に返す。
「こ、これは!」
占い師が立ち上がる。
「な、何ですか?」
季夜がビックリした顔でカードを見ようとする。
すると、占い師がカードを素早く裏返して他のカードとかき混ぜてしまった。
「あんた、何やってるんだよ!」
思わず俺はそう言った。
「多田野さん、それと住原さん、お代は結構ですからもうお帰り下さい」
「はぁ?」
何だよそれ、訳が分からない。
「あの、どういう事ですか? 俺の占いの結果に何かあるんですか?」
季夜が落ち着いた口調で訊く。
「それは、答えられません。兎に角お帰り下さい!」
占い師が叫ぶ。
占い師は完全に取り乱していた。
「一体何なんだよ、あんた。季夜のプロフィール用紙を見てた時からずっと様子がおかしかったし」
呆れかえって俺は言う。
季夜は俺の横で、ため息をついた。
「そうですね。あなたの様子は俺から見てもおかしく思えました。あの、俺は何を言われても驚きませんから、何かあるなら言ってもらえませんか。そうでなきゃ、このままじゃ安心できないです」
季夜はとても落ち着いた声で、優しく占い師に話した。
占い師は季夜の目を、じっと見る。
占い師のその目は、まるで、季夜の全てを覗き込んでいるかの様だった。
やがて、占い師はため息一つつくと、椅子に着いた。
「多田野さん、分かりました。あなたには、覚悟があるのですね」
「何の話ですか。俺は、ただ、占いの結果が知りたいだけだ」
季夜は笑みを浮かべて言う。
「強い方ですね、多田野さん。では、お話しましょう。止めるなら今ですよ」
「止めません。どうぞお願いします」
占い師は苦笑いをしてから真面目な顔を作り、「お伝えする前に、念には念を入れて、水晶でも占ってみましょう」と言って水晶玉に手を当てた。
俺は水晶玉を見てみる。
しかし、何も見えない。
占い師には、何かしら見えているのだろうか。
「はぁ……やっぱり」
占い師が、水晶玉から手を離し、がくりと肩を落とす。
占い師の表情はとてつもなく暗い。
「あの、何なんですか?」
季夜が訊ねる。