三角形な奇妙な日常6
「へっ?」
俺から裏返った声が出る。
何だって?
こいつは何を言ってるんだ?
俺の側にいる?
どういう意味だ?
俺の訊き間違いだろうか?
混乱と戸惑いの渦の中の俺には構わずにポチは話し出した。
「だって、お前と一緒にいたら、いつでも季夜に会えるだろ! 名案だと思わないか!」
目をきらきらさせて言うポチ。
「ちょっと待ってくれ。それってどう言う事だ?」
言った後に、どう言う事かの想像がついて俺は、「えええーっ?」と声を張り上げていた。
そんな事、絶対に無理だ。
いきなり女の子と暮らすなんて意味が分からない。
それに俺のアパートは知る人ぞ知る裸足で逃げ出したくなる様なおんぼろアパート。
そんな所に、いくら何でも女の子を入れるなんて考えられない。
「いや、だめだ! それだけは絶対にだめだ!」
必死で拒否する俺。
「もしも、どうしてもだめって言うなら、此処で大声をだして泣いてやる! そうしたらお前、どうなるか分かってるだろ!」
「うっ……」
俺は言葉を詰まらせる。
ポチを泣かせたらどうなるか……あの屈強な男達に、俺は確実にぼこぼこにされる。
しんと静まった俺に、ポチは上機嫌で「支度するから外で待ってろ。直ぐに終わるから」と、そう言って俺を小屋の外へと押し出した。
嘘だろ?
こんな展開、夢に決まってる。
魂の抜けた俺は小屋の前に突っ立って、ぼうっとしていた。
河川敷に吹く風はやたらと冷たくて今すぐにでも此処を離れたいという気持ちにさせる。
俺の目の前を風で飛んだビニール袋が通り過ぎる。
お前は自由でいいよな、と思ってしまう。
小屋の扉が音をぎぃ、と鳴らして開いて俺は我に帰る。
「お待たせ」と陽気な様子でポチが小屋から出て来た。
ポチは二匹の鯉が背中に刺繍されたピンク色のスカジャンと白いフリルの付いたワンピース姿で現れた。
少し汚れていた顔が綺麗になっていて、ポチの肌の白さをより強調していた。
ポチの手には大きな黒いボストンバック。
完璧なお出掛け姿だ。
「さあ、早く行こう。お前の住んでいる所へ!」
片手を天へと突き出して元気良くポチは言った。
「マジか……」
一気に憂鬱のどん底に突き落とされる。
この子は本当に俺と一緒に住むつもりなのか。
念入りなジョークじゃあるまいか。
俺は地面に目を向けた。
乾いた土の様子がより、俺を憂鬱にさせる。
「何だ、ポチ、おしゃれしてやがるな。何かあるのか?」
男が一人、近づいて来て言った。
「ああ。アタシはこれからしばらく、こいつの住み家にやっかいになる事にした。そういう事だからヤマさん、留守を頼む」
ポチがそう言うと「何だってぇ?」と男、ヤマさんが叫ぶ。
すると、疾風の様な速さで男達がこっちに集まって来た。
その中にはカンさんの姿もあった。




