三角形な奇妙な日常5
俺は走り去る様に占いの館を出ると、そのまま走って駅に向かった。
早く、早くポチに会わないと。
何故だかそう思った。
俺の背中を押す様に強い風が吹く。
風に乗って俺は走る。
乙女川の河川敷を目指して。
息を切らせながら乙女川の河川敷に下りると当たり前の様に伝説の男達が相変わらずのぎらついた目で俺を見ている。
たじろぐ俺にポチにカンさんと呼ばれていた男が近付いて来た。
俺はこれから起こるであろう不吉な出来事による恐怖で身構えた。
「そう警戒するな。話はポチから聞いてる。口寄せとか言うのを信じた訳じゃ無いが、調べたら、きぃちゃんが亡くなったのは本当だと分った」とカンさんが言った。
きぃちゃんとは季夜の事か?
どうやって季夜が亡くなった事を調べたのか。
ホームレスの情報網というのは中々だ。
「ポチのやつはきぃちゃんが亡くなった事、まだ信じられないみたいだ。ポチのやつが待ってる。ほら、あの小屋だ」
カンさんは緑色のビニールシートに覆われた小さな小屋を指差す。
あの小屋の中にポチがいるのか。
「あの……ありがとうございます」
カンさんに向かってお辞儀をすると俺は小屋に向かった。
小屋の入り口の前で、「ポチ、住原だ」と呼び掛ける。
しばらくの間。
「入れ」とポチの声。
俺はトタンで出来た扉を開き小屋の中に入った。
小屋の中は見た目通り狭かったが綺麗に片付いていた。
大きなトランク一つと大小の鞄。
寝袋。
小さなちゃぶ台と木で出来た箱の上にガスコンロ。
壁際には水の入ったペットボトルが並ぶ。
そして大きなバケツが三つ。
バケツの一つは水で満たされていた。
何と言うか余計なものは一切ありません、という感じだった。
此処でポチは暮しているのだろうか。
ポチは俺の顔を見るなり「遅かったな」と口を尖らせた。
「悪い。占いの館が混んでて」
「ふぅん。で、ネックレスの事は訊いて来たのか?」
「ああ」
俺は占いの館で占い師から聞いた通りの事をポチに語って聞かせた。
俺の話を聞き終えたポチは、がくりと項垂れた。
「アタシじゃ、季夜を口寄せ出来ないのか」
物凄く残念そうに言うポチ。
「季夜は……季夜は本当に死んだのかな。何だか実感が湧かないんだ」
そう言ったままポチはブルーシートが引かれた地面を眺める。
ポチは魂が抜けたみたいに虚ろな目をしている。
何だか可哀想で見ていられない。
「あのさ、お前さえ良かったら、たまに来て季夜に合わせてやるよ。俺を介してだけどさ。季夜は必ず、俺達の側に来てくれるから」
気が付けば、そう言っていた。
ポチが顔を上げて俺を見る。
ぽかんとした顔でポチは俺を見ていたが、やがてその顔に輝きが現れた。
「じゃあ、アタシ、お前の側にいる!」
そうポチは言った。




