三角形な奇妙な日常4
俺は不器用に笑い返すと、「あの、俺、前に此処に来て……その時占ってもらった占い師さんに、また占ってもらいたいんですけど」と伝える。
「かしこまりました。お客様、お名前をお伺いしても?」
「あ、はい。住原大、です」
「少々お待ち下さいませ」
店員はカウンターの後ろにある大きな木製の棚から青いファイルを取り出すとページを捲る。
「ええっと、住原様……住原様……あ、ありました。前回の占い師ですが、マドモアゼル楊で間違い無いでしょうか?」
あの占い師、そんな名前だったのか。
俺は取り敢えず頷いた。
「マドモアゼル楊ですと、待ち時間が二時間になりますが」
俺の目が大きく見開かれる。
二時間待ち……マジか。
あの占い師、意外に人気らしい。
正直、結構ですと言いたいところだが、そうもいかず、俺は仕方なしに、「はい」と答えた。
二時間以上待たされて、やっとの事俺の名前が呼ばれる。
貧乏揺すりをしていた足を動かして案内されたブースへと入る。
目の前の占い師は口角を上げると、「こんにちは」と丁寧に俺に向かってお辞儀をした。
俺は占い師の前に座る。
「またいらっしゃるとは思いませんでした。今日は何の占いですか?」と占い師。
「占いに来たんじゃ無くって、あのネックレスの事で聞きたい事があって」
俺がそう言うと占い師は、「何かしら?」とすまして言った。
本当は何で俺が此処に来たのかも何もかも、分かった風の占い師に俺は話し始める。
「あのネックレス、本物だった。本当に季夜を俺の体に引き寄せられた」
「そうですか。きっと、あなたの多田野さんを思う思いも多田野さんのあなたを思う思いも強かったんです。そうでなきゃ、いくら石の力を使ったとしても口寄せは出来ないわ」
「……でも、俺なんかよりも、きっともっと季夜を思ってるやつが使ったら口寄せは出来なかった」
「それは当然の事よ。あの石は、それを与えられた者にしか作用しないの。そして、もし、あなたが石を誰かに譲って同じ魂をその誰かが口寄せ様としても決して口寄せは起こらない。あの石で多田野さんの魂を口寄せられるのはこの世であなた一人きりなんです」
「そうだったのか……」
俺だけが季夜の魂と繋がっていられるんだ。
「住原さん」
「はい」
「あの石は、あなたと多田野さんの役に立ちそうですか?」
「はい」
俺は迷わず答えた。
「良かった」と占い師は笑う。
「俺、もう行きます。待たせてる人がいるんで」と言って俺は席を立つ。
「住原さん」
去ろうとする俺に占い師が話し掛けた。
「何ですか?」
俺は占い師に振り返る。
「良い青春を」と言って占い師が俺に深く頭を下げた。
青春?
どういう事だ。
「ありがとうございます」
ちょこんと占い師に頭を下げて取り敢えずのお礼をするとブースの間仕切りのカーテンを抜ける。




