三角形な奇妙な日常1
夕闇が訪れようという時、雨が止んだ。
ずっと地面に坐ったままでいた俺は立ち上がり、服に付いた土や草を払い落とした。
そして躊躇いながらもポチの方を見る。
ポチは静かに蹲っていた。
枯れ果てた様にポチからもう涙は出ていなかった。
ただ元気の無い顔でぼうっと地面を見ている。
「だ……」
大丈夫か、と言い掛けて止めた。
今はもう俺がポチにしてやれる事は何も無い。
心配だが無力な俺なんかがいても仕方がないのだ。
ポチが側にいて欲しい相手は季夜なのだ。
その季夜ももういない。
これ以上俺の出る幕は無かった。
季夜にはたまにポチの様子を見て欲しいと言われたが、きっとそれは無理だ。
俺はポチに嫌われているみたいだからそんな事をしたらただの付け回しになってしまう。
ポチも俺なんかに様子を見に来られるのは嫌だろう。
季夜には後で事情を話して謝るしかない。
約束を守れなくて悪かった、と。
「……じゃあな」
俺は橋の下を出た。
直ぐ側の土手を上がればもう此処へ来る事は二度と無いだろう。
上へ向かって歩き出そうとすると「待って」と声が掛かった。
振り返ると立ち上がったポチがこっちを見ていた。
「お前は霊能者なのか?」
ポチにそう訊ねられて、「はぁ?」と俺は言う。
何故そうなる。
いや、そんな風に見えても仕方がないが。
ポチはちょっとむっとした顔をする。
「だって、季夜を呼んだだろ。死んだ……季夜を」とポチが言う。
「俺は霊能者なんかじゃない。口寄せの石の力を借りてるだけだ」
「口寄せの石?」
俺は首に下がったネックレスを摘み、「これだよ」とポチに見せた。
ポチが俺の方まで近付いて来てネックレスをしげしげと眺めた。
「このネックレスに付いた石の力で俺の体の中に季夜を呼ぶんだ」
「これで季夜を?」
「ああ」
ポチは少しの間ネックレスを不思議そうに眺めていたが、「あっ!」と声を上げて俺の顔に視線を移した。
「な、何だよ」
俺は身構える。
ポチから出た言葉は俺を攻撃するものでは無かった。
「そのネックレスを貸してくれ」とポチは言った。
「これをお前に?」
「うん。それを使えば季夜の事を、その……口寄せ? 出来るんだろ。アタシも季夜を口寄せしてみたい」
「なるほど」
確かに、もう俺は今日の分の口寄せはしてしまったので出来ないが、ポチなら出来る、と言う訳か。
自分以外の誰かが石を使う事何か考えていなかった俺はナイスアイディアだとネックレスを首から外してポチに渡した。
「それを身に着けて季夜の事を思うと季夜が体に下りて来て話しが出来るんだ」とポチに説明をした。
ポチは早速ネックレスを首に着けると目を閉じた。
ポチの眉間に皺が寄る。
きっと季夜の事を思っているんだろう。




