出会い、そして再開11
なぜここに至るまで疑問に思わなかったのかが摩訶不思議だ。
こんな子供と一緒に暮すなんて大変な事だし、彼女にするなんてどう考えても……。
「住原。黙ってて悪い。ポチとちゃんと付き合ってから住原にはポチを紹介するつもりだったんだ」
すまなそうに季夜が言う。
「そんな事、今言われたって、俺はどうしたら良いんだよ! もう、自分がどんな反応して良いのか分かんねーよ!」
「ごめん、住原」
「ごめんじゃねーよ!」
「ごめん」
ひたすらに季夜は、ごめんを繰り返す。
「お前、こんな子供と付き合うってどういう事だよ! 犯罪じゃねーか!」
「いや、ポチはもう十六歳だ」
「じゅうろくぅ? どう見てもガキにしか見えねえ」
「失礼だぞ、住原」
「失礼って……」
「お前、誰と喋ってるんだ?」
その台詞を聞いて俺はポチの存在を思い出す。
ポチはまだ俺の上に乗っかっていた。
割と重い。
「誰って、季夜とだよ」
「…………お前、本当に……本当に季夜と話してるのか?」
「だから、そうだって言ってるじゃねーか!」
「……季夜。季夜の匂いがする。本当に? 季夜……季夜!」
「ポチ、そうだ。俺は此処にいる」
「俺は此処にいる、だってよ」
「ううっ……季夜! 季夜!」
ポチが俺を思いっきり抱きしめた。
「ぐぇっ! 苦しい! おい! 季夜は確かに俺の中にいるが、俺は季夜じゃねーんだ!」
俺が言うとポチはすぐさま俺から飛ぶように離れた。
「季夜が死んだって……本当……何だな?」
俺の目をじっと見てポチは言う。
俺は深く頷いた。
「死んでごめん。ごめん、ポチ」
季夜の声は今にも泣き出しそうな感じだった。
涙を流せない季夜の代わりかの様にポチがううっと声を上げて泣き始めた。
溢れる涙を両手で拭いながらポチは、ぽろぽろと涙を流し続ける。
「季夜……本当に死んだんだ……うっ……ううっ」
その鳴き声に胸が痛みだす。
雨が降りだした。
いつの間にか俺の中の季夜の気配は消えていた。
「季夜、季夜ぉ!」
俺の方を向いてポチが季夜に呼び掛ける。
「季夜はもういない。でも、また会えるさ」
突然降り出した雨の中、橋の下にいる俺達は濡れる事は無かった。
でも、ポチの顔は涙で濡れていた。
俺は雨が止むまで此処で雨宿りを決める事にした。
雨の音に交じって小さな女の子の鳴き声が聞こえるこの場所に。
それしか俺には出来ないから。
俺はしばらく雨の降る河川敷を無心で眺めていた。
不意に、ふと思った。
この雨の後に、虹は出るだろうか、と。




