出会い、そして再開7
「ありがとう、住原。恩に着る」
「じゃあ、守護霊にでもなってくれよ」
「出来たらな」
季夜は笑った。
季夜と話すと沈んだ空気も直ぐに澄んでくる。
全く不思議なやつだ。
「それで、どうしたら良いと思う? 彼女に俺の言う事を信じてもらうにはどうしたら良い?」
俺の質問に季夜は、「うーん」と唸り声を漏らした後、「あっ!」と明るい声を出した。
「何か思いついたか?」
「ああ。ポチの前で、口寄せをやってみるんだよ」
「へ? でも、それって怪しく思われないか? 口寄せの事、どうやって説明するんだよ。俺の体に季夜が下りて来ます、何て言ったら変人扱いされるんじゃないか?」
そして、その後、俺は屈強なホームレス達に、ぼこぼこにされるのだ。
そんなのは嫌すぎる。
「口寄せの事を分って貰えるかどうかは一か八かだ。俺に任せてくれ。もし信じて貰えなくても話さえ聞いて貰えればそれでいい」
「…………分った。お前の言う通りにしてみるよ」
「兎に角、ポチに会って何とかポチの前で口寄せをするんだ。頼めるか? 住原」
「おう! 今日はもう口寄せしちまったから、実行に移すのは明日の土曜日……だよな」
「そうだな。頼む」
「ああ。大学が終ったら乙女川に行くよ」
明日は大学で補習があるのだ。
あんな事があった後でよりにもよって憂鬱な補習の後に乙女川行く気は蝋燭の炎の様に頼りないが季夜の為だ。
「ありがとう」
季夜の感謝の気持ちが心に染みわたって来る。
「上手く行くと良いな」と俺。
「だな」と季夜。
それから俺達は、どうでもいい様な話に花を咲かせた。
そうしているうちに五分間か過ぎて季夜は消えた。
静かな部屋の中、残された俺は取り敢えず、もう一眠りを決め込んだ。
日がさんさんと差す頃。
大学に行く時間ぎりぎりまで寝ていた俺は食パンを咥えてアパートを出た。
大学では久しぶりに授業に力を入れた。
仲間達と何気ない会話をして、笑って。
アルバイトも、まぁ頑張れた。
少しずつ、俺の日常が戻って来た、と言う気にさせた。
翌朝。
これから起こる事への不安と期待が入り混じり、大学の補習は前回の講義同様またもや上の空だった。
その事で同じ補習を受けていた仲間に大いに心配されてしまった。
俺は自分に言い聞かせる様に仲間に「大丈夫だよ」と言った。
仲間はみんな「何か悩んでたら言えよ」と温かい言葉を掛けてくれた。
仲間の優しさが緊張を少し解してくれた。
怠い補習が終わると、俺は愛すべき仲間達に、「じゃあな」と言って乙女川を目指した。
乙女川に辿り着いた瞬間、空模様が怪しくなった。
雲で太陽がまるっきり隠れている。
俺にはそれが不吉な事が起こる前兆の様に思えてならない。
乙女橋の端っこでしばらく河川敷の様子を見ていた。
河川敷には人が集まっていた。
目を凝らして見ると一人、女の子の姿が見える。
ポチだ。
俺は意を決すると非常に重い体を引きずって河川敷に続く急な斜面を危うげな足取りで下った。
河川敷まで辿り着くと俺をぎらついた目で見ている男達の姿が見えた。
体か勝手に震えだす。




