出会い、そして再開3
そして俺は今、乙女川の大きな橋の真ん中で朝っぱらから乙女チックに川を眺めていた。
乙女川は大きな川だ。
川には、川の主の大川鰻がいると言う噂が立っている。
乙女川に掛かる橋は乙女橋と言う。
背後に感じる通り過ぎる車の気配を感じながら俺はどうしたものか、と思案に明け暮れていた。
乙女川の河川敷はホームレスのたまり場になっていた。
河川敷には彼らが作ったビニールシートを被った小屋や何やかやが点々としてある。
橋の上からホームレス達がドラム缶に火を起こして暖を取っているのが見える。
河川敷は部外者を寄せ付けない独特の空気があって、それは橋の上まで流れて来る様にも思えた。
普段、俺が絶対に立ち寄らない場所の一つが不良のたまり場、そして乙女川付近であった。
乙女川に集まっているホームレス達には数々の伝説があった。
ホームレス狩りをしようとした若者達を乙女川のホームレス達が返り討ちにした話や、乙女川のホームレス達は川の主の大鰻のご加護を受けているとか、乙女川からの立ち退きを要求した団体のメンバーがことごとく謎の腹痛に苛まれる現象が起きて大鰻の祟りと恐れられ、その後、ホームレス達の立ち退き運動が一切起こらなくなったとか、そんなある様なない様な伝説がいくつも、いくつも。
そんな奇妙奇天烈で危なそうな場所に俺みたいな真っ当なチキン野郎が立ち寄ろうと思うわけが無かった。
こんな場所に女の子がいるとは面妖な。
河川敷を見下ろしながら俺は眉を顰める。
伝説になる様な屈強なホームレス達のいる河川敷にいるという女の子とはどんな子なのか。
季夜から聞いた彼女の特徴は、ラプンツェルみたいな長い茶髪に色の白い小さな女の子で片方の目の下に小さなほくろがある、との事だったが。
本当に此処にいるのだろうか。
考えるだけで血圧が上がりそうだ。
「もし、そこの若いの」
背後から声がして俺は振り返る。
杖を突いたご老人がそこにはいた。
茶色のスーツに赤いネクタイと洒落た格好をしていらっしゃる。
一体俺に何用か、とご老人の顔を見つめる。
ご老人は俺に言った。
「まだお若いんじゃ。これからいくらでもやり直せる。死んだらいかんよ」
「え」
俺は固まる。
そして慌てた。
「ち、違います! 自殺何か考えてません! 誤解です!」
「なら、良いが……あんた、思いつめた様子に見えたからの」
「いや、思いつめてはいましたが大丈夫です」
俺ときたらそんな死にそうな顔でいたのか。
「そうか。ここは寒い。早く行きなさい」
そう言うとご老人は優しい微笑みを俺に見せて、行ってしまった。
自殺と間違われるとは。
「はぁ……」
俺は項垂れた。
「おい」
下を向いていた俺にまたもや声が掛かる。
俺はすぐさま顔を上げ「違います! 自殺じゃありません!」と言った。
「自殺?」
目の前の人物は首を傾げた。
子供の様に見える小さな女の子だった。
長い茶髪の、色白の子で、左目の下には小さな黒いほくろがあった。
この特徴……何処かで……。




