奇跡8
「本当に季夜なのか?」
「ああ。自分でも嘘みたいだけど本当だ。一体どうしてこうなったんだ?」
これは夢じゃなかろうか。
季夜を感じている。
季夜の声を聞いている。
季夜は死んだのに。
確かに此処に、俺の中に季夜がいる。
俺は自分の頬っぺたを、力を込めてつねる。
「痛っ!」
「何やってんだ!」と季夜。
痛い。
夢じゃない。
「どうして、こんな……あっ!」
俺は胸元のアクセサリーを首を下に曲げて見た。
「これだ! 口寄せが成功したんだ! マジかよ!」
一人興奮していると季夜が「口寄せって何だ?」と訊いて来た。
俺は季夜にネックレスの事を話した。
季夜は、「なるほど、不思議な事もあるもんだな」とため息交じりに言った。
「また季夜と話せる何て……お前、何で死んだりしたんだよ! お前がいなくなって俺は死んだみたいな気分になって……それで、それで……」
「まあ、俺も死にたくて死んだわけじゃないんだが」
そう聞いて、それはそうだな、と思う。
「悪い。死んだのはお前のせいじゃないのに……」
「ははっ。いいよ、謝らなくても」
「いや、無神経だった。本当にごめん。事故なんかで死んで……一番辛いのはお前なのに」
「……まあ、運命だったんだよ。俺は誰も恨んで無いよ。事故を起こした人も大変だと思うんだ。辛いだろうな……うん」
季夜らしい台詞だ。
俺だったら事故で死んだりして相手に責任があったりしたら絶対に恨むだろう。
化けて出てやるくらいに思うに違いない。
季夜には心底感心する。
良いやつほど早く死ぬ、と聞いた事があるが、季夜が正にそうなんだろう、と思ってしまう。
「俺って、やっぱり死んだんだよな。死んだら天国に行ける自信あったんだけど、まだこの世から離れられないみたいで。俺の為にみんなが悲しんでるっていうのに成仏出来てないとか……ははっ。せっかく葬式もしてくれたっていうのにさ。きっと親父は必死で葬儀代を作ったんだ。俺を大学にやるだけで手一杯だったってのに……。葬式って故人に成仏してもらう為にやるんだよな……親には無駄に葬式代払わせたかな」
冗談っぽく言う季夜だったが声には悲しさが滲んでいた。
「そんなに急いで成仏しなくて良いよ」
良くない事なのかも知れないが本気でそう思う。
成仏とはどういう事なのか分からないが季夜が成仏してしまったらこうして話す事も出来なくなるかも知れない。
なら、本当に申し訳ない願いだが、もう少しだけ、この世にとどまっていて欲しい。
エゴイストと言われようがきっと誰もが季夜が側にいてくれるならそれを望むと思う。
まだ行かないでくれ、と。
「ありがとう」
残酷な事を願う俺に季夜は言う。
ありがたいのはこっちだ。
「何か、本当……まだ成仏しないでくれよ……」
出した声はかすれていた。
「どうやって成仏したらいいか分からないんだから出来ないよ。困ったよな。でも住原にまた会えたから良いかぁ」
実に呑気に言う季夜。
「こんな……奇跡みたいな事ってあるんだな」と俺。




