別れ2
占いの館の中は狭く、薄暗く、怪しい音楽が掛かっており、おまけに立ち込めるお香のスパイシーな香りで満ちていた。
「遅いぞ」
先に店に入っていた季夜が俺に向かって言う。
その顔は不満そうでは無く微笑んでいた。
「おう」
悪びれた顔を見せて俺は言った。
俺達二人は受付を済ませると、壁際に並べられたパイプ椅子に座り、雑談をしながら順番を待った。
占いの館は意外に繁盛している様で、待ち時間は三十分。
席は全部埋まっていた。
俺達以外、客は全員女だった。
彼女達は、ちらちらと季夜の顔を盗み見ている。
季夜を見ながら何か囁き合っている連中までいる。
あいつらの考えている事は分かっている。
どうせ、季夜を見てイケメンだとか色めき立っているんだろう。
けっ。
「何を不貞腐れてるんだ、住原」
「別に」
けっ。
三十分どころか一時間待って貧乏ゆすりが止まらなくなった頃、ようやく俺と季夜の名前が呼ばれた。
待たされて機嫌の悪い俺はむすっとした顔で季夜と共に占いブースの赤色のさらりとした手ざわりのカーテンを捲る。
カーテンの中には黒いワンピースを着た黒髪の若い女の占い師が紫色の布を被せた細長いテーブルの前に静かに着いていた。
「お待たせいたしました。そちらの席にお掛け下さい」
占い師は微笑み、そう言って彼女の目の前にある二つの空いたパイプ椅子を手で示す。
俺も季夜も顔を見合せてから黙って勧められた椅子に座る。
テーブルの上には水晶玉やら占いのカードやらが載っていた。
それを見て俺は改めて、ああ、占いに来たんだな、と実感した。
休日に男二人で占いに行くとか、どうなってるんだ?
とか自己責任ながらに思ってしまう。
「どちらから占いましょうか」
言われて俺は手を上げた。
こういうのは先に済ませるに限る。
占い師は俺に向かって微笑むと、「じゃあ、あなたから。あなた、お名前は?」と訊いて来た。
「住原大です」
俺は、やや緊張した声で答える。
「住原大さんね。えーっと……」
占い師は、手に俺が受付で書く様にと手渡されて書いたプロフィールの用紙を持って、それを真剣な眼差しで眺める。
その様子を見ていたら緊張からなのか俺の顔が突っ張って来た。
俺は背筋を伸ばす。
占い師は顔を上げ、「あなたの運命は良く分かりました。住原さん、今、悩み事はありますか」と言う。
「あー、はい。あの、最近、何だかツイて無くって。どうしたもんかなと悩んでますね」
ぼそりとそう言うと、隣で訊いていた季夜が、「そんな悩みかよ」とくすりと笑った。
くそ、ほっとけ。
笑っている季夜とは対照的に占い師は真面目な目つきで俺を見ている。
流石はプロだ。
「運の悩みですね。では、カードで占ってみましょう」
そう言うと占い師はテーブルの上に裏返しになっているカードを両手でバラバラにかき混ぜた。