奇跡3
「あっ……」
そう、確か二人で占いの館に行った日。
あの時、約束したんだ。
「くそ、何だっけ。思い出せねー!」
俺は、イライラしたまま、うろうろと辺りを歩き回り、苛立ち紛れに床に落ちている雑誌を蹴飛ばした。
蹴飛ばした雑誌は壁に当たり、俺の足下へと戻って来た。
雑誌のページが捲れて海をバックに水着姿のグラビアアイドルが子犬を抱えて微笑んでいるのが目に映る。
俺の目はグラビアアイドルより彼女が抱えている子犬の方に釘付けになる。
プードルだ。
犬。
犬?
プードルの潤んだ瞳が俺に何かを訴えかけている。
そうだ。
「ポチだ!」
勢いよく雑誌を掴んでプードルを見つめる。
季夜は俺にポチの事をよろしく頼むと言った。
確かに、そう言ったんだ。
「ポチ、ポチ、ポチって何だよ」
座卓の前に座り俺は数分間考えていた。
考えても犬の事しか頭に思い浮かばない。
季夜のやつ、犬なんか飼っていたか。
季夜は俺と同じくアパートに一人暮らしだった。
季夜のアパートへは何度も遊びに行った。
一人で行って季夜と、だらだらとだべったっけ。
仲間達とお邪魔して騒いで隣人に壁ドンされたりした事もあった。
ついこの間まで季夜の部屋は俺のパラダイスであった。
家主以上に俺は季夜の部屋でくつろいでいた。
その季夜の部屋に犬なんていたか?
犬どころかそもそも動物がいただろうか?
猫か鳥か。
ハムスターか。
「うーむ」
記憶にない。
季夜からも動物を飼っているという話は聞いていない気がする。
いや、密かに飼っていたのだろうか。
しかし、季夜にペットがいたとして、そのペットをどうする。
季夜に頼まれたと言って季夜の家族から譲って貰うのか。
季夜の家族がそれを許すだろうか。
いやいや、そもそも季夜にペットがいたかどうかも分からない。
どうにか確認する術は無いだろうか。
考える時間だけ増えて答えは見つからない。
今、何時だ?
俺は時間を確認するために座卓の上に転がるスマートフォンを見た。
「…………」
ごくりと唾を飲み込む。
スマートフォンを手に取った。
やるしかないと思った。
俺は片っ端から仲間に電話を掛けた。
季夜からポチの話を聞いていないか聞くためだった。
俺が知らなくても誰かが知っているかも知れない。
そう期待したのだ。
必死に話す俺に対して皆、快くポチについて考え、答えてくれた。




