国王にかけられた呪いの解呪
オレと師匠はナイジェ王国の王都スターゲートに転移した。すると、街の中が騒ぎになっていた。
「師匠。何かあったんですかね?」
「聞いてみるか?」
オレは通りを歩いている人に聞いてみた。
「すみません。何かあったんですか?」
「何を惚けたことを言っているんだ! アリスタ公爵を始めとした貴族達の屋敷が襲撃されて燃えているんだよ。恐らく、どこかの国が攻めて来るに違いない。お前達も早く逃げたほうがいいぞ!」
オレは師匠とどうしようかと考えていると、目の前にセフィーロさんが現れた。
「魔王様。お騒がせしています。」
「どうしたの? 何か騒ぎになっているみたいだけど。」
「この国の貴族達が、エルフの女性や人族の女性を奴隷としてオークションにかけていましたので処分しました。」
「貴族達はどうしたの?」
「全員捕えております。現在は魔王城の牢に入れております。」
「奴隷達は?」
「魔王城で保護しております。」
「ありがとう。ハヤトは?」
「はい。現在、王城の様子を探りに行っています。」
すると、タイミングよくハヤトが目の前に現れた。カゲロウも一緒だ。
「ハヤトさん。王族達の様子は?」
「魔王様。王族達は白です。奴隷のオークションには関わっていません。ただ、元国王スロベル=ナイジェが病弱でして、すでに王の役割を果たしておりません。そのため、弟で宰相のアリスタ公爵が権力を握っています。」
「王の病気はどんな様子なの?」
「はい。毒を盛られている可能性があります。」
「わかったよ。オレと師匠が城に行くよ。みんなも一緒に来てくれるかな。」
「はい。承知しました。」
オレ達は、全員で城に向かった。城の前に行くと、大勢の警備兵がいた。どうやら、大貴族達が行方不明になっていることから、警戒が厳重になっているようだ。
「お前達。城に何か用か?」
「ああ、この国のスロベル国王に会いに来た。」
師匠が兵士の問いかけにぶっきら棒に答えた。
「は~! お前達は何者だ! 怪しい奴らだ。おい、他の兵を集めろ!」
上官らしき兵士が部下に命令した。近くにいた兵士達が、シン達を取り囲むように次々と集まってきた。
「オレ達が何者か教えてもいいけど、聞いたらお前達震えが止まらなくなるぞ!」
「おい、こいつらを取り押さえろ! 逆らった時は殺しても構わん。」
上官に命令された兵士達が、オレ達に近づいて来る。
「どうするの? シン。」
「セフィーロさん。全員眠らせてくれるかな。」
「承知しました。魔王様。」
「魔王?!」
上官は“魔王”と口にしながら地面に崩れ落ちた。セフィーロが全員を眠らせたのだ。
「じゃぁ、行こうか。」
オレ達は城の中に入って行った。最初は堂々と歩くオレ達を不審に思う兵士もいたが、門兵達が中に入れたと信じているらしく、敵対行動もなくすれ違って行った。だが、暫くして外の異変に気付いた兵士達がオレ達に向かってきた。
「外の兵士達を眠らせたのはお前達か?」
「そうだけど。国王の病気を治しに来たんだけど。」
「何を言うか! こいつらを取り押さえろ!」
兵士達に怪我をさせたくなかったので、少し闘気を開放して背中から白い翼を出した。
「オレは神の使者だ! この国の王スロベル=ナイジェが病気と聞いて、その治療に来た。
逆らうものには容赦はしない。」
オレの姿を見て、オレの言葉を聞いて兵士達の顔は青ざめていく。
「大変失礼いたしました! 使徒様! 国王陛下の部屋にご案内します。こちらにどうぞ!」
兵士達はオレ達に向かって全員が臣下の礼を取っている。そのリーダーと思われる人物に王の部屋まで案内された。
「こちらでございます。」
王の部屋に入ると、王は大きなベッドに横たわっていた。部屋の中には王妃や王子、王女達が心配そうに王の顔を覗き込んでいた。オレ達に気付いた王子が腰の剣に手をかけ、問いかけてきた。
「そなた達は何者だ! 国王の部屋に侵入してくるとは無礼であろう。」
オレ達を部屋まで案内してくれた兵士が慌てて王子の前に飛び出た。
「ハインツ王子! この方は神の使者様です。国王陛下の病気を治しに来てくれたのです。」
兵士の言葉を聞いて、王子は剣から手を放し、オレに向かって片膝をついて挨拶をしてきた。
「使徒様とは知らずに大変ご無礼をしました。私はこの国の第1王子のハインツ=ナイジェと言います。」
「いいですよ。それより、国王の病気の様子を確認したいんだけど。」
「畏まりました。どうぞこちらに。」
オレ達はベッドに横たわっている国王の近くに行き、様子を見た。国王の顔色は紫色に変色し、頬が痩せこけていた。
「シン。これは毒というより呪いのようだ。」
「師匠は呪いの解呪とかできますか?」
「ああ、容易いことだ。やってみよう。」
師匠が国王に近寄り、国王の身体に向けて手をかざし何やら呪文のようなものを唱えた。
『この世を照らす善なる光よ。この者の肉体にかけられた穢れし呪いを解き払い給え。』
すると、師匠の手からオレンジ色の光が現れ、国王の身体全体を包み込んでいく。国王がもがき苦しみ始め、国王の身体から黒い霧状の物体が現れた。それを見たセフィーロがすかさず、その物体に口から光の息を吹きかける。黒い霧状の物体は、その光に当たり解けるように消えてなくなった。
「シン。もう大丈夫だ。」
「あの黒い霧状の物体は何だったんですか?」
「魔王様。あれは低級の悪魔です。誰かが、国王陛下の身体に低級の悪魔を憑依させたんでしょう。」
“魔王様”というセフィーロの言葉を聞いて、王家の人々の顔色が変わった。恐怖におののくような表情となってこっちを見ている。
「ああ、心配しないで。オレは魔王だけど善良な魔王だから。」
駄目だ。オレが安心させようと説明しても納得してもらえそうにない。
「シン。仕方ない。正体を明かすしかないだろう。」
「わかりました。」
オレ達はカゲロウを除いて全員が本来の姿に戻った。セフィーロはバンパイアロードに、ハヤトは竜人族の姿に、オレは真っ赤な髪に黄金の瞳、そして背中から白い翼を出した。師匠も天使のような純白の翼を背中から出した。
「私は魔族四天王の一人、セフィーロと申します。」
「俺は魔族四天王の一人、ハヤトだ。」
「私は魔族四天王筆頭であり、神の使徒のナツ=カザリーヌだ。」
「オレは魔王であり、精霊王であり、神の使徒のシン=カザリーヌ。」
ベッドに横たわっている国王とオレ達以外の全員が、平伏した。
「オレ達はこの世界の管理神であり、最高神であるエリーヌ様に言われて、この世界を平和にするために世界中を回っているんだ。だから、安心していいよ。」
王妃が代表してお礼を言ってきた。
「ありがとうございます。何とお礼を言っていいのかわかりません。」
オレの身体から溢れ出る暖かい光が部屋の中を包み込む。そして、ベッドに寝ていた国王が目を覚ました。
「何事だ!」
王家の人々が立ち上がって、国王の近くに駆け寄った。
「あなた!」
「父上!」
「お父様~!」
何も知らない国王は不思議そうに家族の顔を眺めている。
「お前達! みんな集まってどうしたのだ!」
その後、王妃が国王にこれまでのことを説明した。黙って話を聞いていた国王の顔は蒼くなったり、赤くなったりして、最後には目から涙が零れていた。そして、ベッドから立ち上がって、オレ達に片膝をついてお礼を言ってきた。
「この度は、本当にありがとうございます。まさか、神の使徒様達に救われるとは。」
「オレ達より最高神エリーヌ様に感謝してください。それに、まだ終わっていませんよ。国王陛下の病気はよくなりましたが、この国の病気はまだ治っていませんから。」
オレの言葉を聞いて国王陛下は首を傾げた。そこで、セフィーロがこの国の闇の組織のこと、腐った貴族のこと、闇のオークションのことを説明した。
「なんと。私が眠っている間にこの国でそのようなことが。民になんと詫びたらいいのであろう。」
「とにかく着替えて、広間に行きましょう。そこで、国王陛下にお渡ししたいものがありますので。兵士達を集めておいてください。」
「わかりました。」
オレ達は一旦部屋を後にして、1日後に王城の謁見の間に集まることにした。そこには、王都にいるすべての貴族を集めるようにお願いした。
「シン。この後どうすんだ?」
「せっかくだから、今日はみんなで王都で夕食を食べて亜空間の家に泊ればいいよ。」
「いいのですか? 魔王様?」
「なら、お言葉に甘えて、俺も魔王様とナツ殿の愛の巣にお邪魔するかな。」
「ハヤト!! まだ、愛の巣ではない! 誤解するな!」
「ナツ殿。遅かれ早かれ愛の巣になるんだから、いいじゃないか!」
ハヤトが師匠をからかい、師匠が真っ赤な顔をして抵抗している。その横では、セフィーロさんがニコニコと2人の様子を眺めている。オレは、この雰囲気が好きだ。なんか、一人で部屋の中でうじうじと考え込んでいた時から、想像もつかない光景だ。すごく幸せを感じる。
“エリーヌ様! ありがとうごあいます。”
オレは心の中で感謝した。