誘拐事件を解決
マーメイはセイレーンなので、時々水の中に入らないといけない。そこで、オレと師匠はたまに転移でマーメイを海まで連れて行くのだが、マーメイがその都度たくさんの魚介類を取ってきてくれる。それを、師匠とマーメイが調理してくれるのだ。そのあまりの美味しさに声が漏れそうになる。
「シン様もナツ様も優しいんですね。」
「そうだな。特に、シンは美人には優しんだと思うぞ。」
「師匠! 違いますよ。オレはみんなに優しいですから。」
オレ達3人は、徒歩だったため8日ほどかかったが、ようやくナイジェ王国の王都スターゲートに差し掛かった。もしかしたら、すでにゲーター伯爵の一行が王都にいるかもしれない。王都に入ると、街並みは比較的古いが、平和そのもので大勢の人が街に繰り出していた。どうやら祭りのようだ。オレ達は祭りの様子を横目に見ながら、情報収集のため、狩人ギルドに行った。
狩人ギルドに行く祭りの影響かみんなが酒を飲んで盛り上がっている。オレ達は受付に行ってゲーター伯爵のことを聞いた。
「美人のお姉さん。聞きたいんだけど。」
オレが受付の女性に声をかけると、女性は顔を赤らめて返事をしてきた。
「何かしら。私に何か用事?」
「ゲーター伯爵は王都に来ていますか?」
「昨日から滞在しているわよ。恐らく貴族街の屋敷じゃないかな。」
「ありがとう。」
オレ達は狩人ギルドを後にしてゲーター伯爵の屋敷に向かおうとしたが、すでにハマツの街でオレ達が暴れたことが知られているようで、街中にスコーピオンのメンバーらしき男達がいた。
「シン。どうやら私達のことが知られているようだ。お前、また子どもに変身しろ。」
「はい。」
オレは7歳ぐらいの子どもの姿になった。これでばれることもない。オレ達が、屋敷に向かおうとすると、上空からカゲロウが帰ってきた。
「シン様。古代遺跡を発見しました。このユーフラ大陸の北東の海の中にあります。」
すると、いきなりカゲロウが話しかけてきたことにマーメイは驚いている。
「シン様。この鳥は?」
「ああ、オレの仲間さ。」
「今、古代遺跡とか言いましたか?」
「オレ達は世界中の古代遺跡を探しているんだよ。この世界には不要な古代兵器がたくさんあるからね。見つけて、それを消滅させているんだよ。」
「私に、心当たりがあります。」
「本当?」
「はい。」
「なら、妹を取り戻したら案内してくれる?」
「ええ、喜んで案内します。」
「シン。先に妹を取り戻しに行くぞ!」
「はい。」
オレは師匠とマーメイと一緒にゲーター伯爵の屋敷まで向かった。屋敷に近づくにつれて、兵士達の姿が増えていく。そして、もう少しで屋敷というところで、兵士達に呼び止められた。
「おい! お前達、どこに行くつもりだ!」
「ゲーター伯爵様に用事があるんです。」
「用事?! どんな用事だ!」
「妹が攫われたんです。どうにか探して欲しくて!」
「妹が攫われた~? ちょっとそこで待っていろ!」
兵士は屋敷に向かって走り出した。
「シン! どうするつもりだ?」
「このままわざと捕まろうかなって思ってる。」
「なるほどな。そうすれば、屋敷の中にも簡単に潜り込めるな。」
「うまくいけばマーメイさんの妹のところに案内してもらえるかもしれないからね。」
「だが、いざという時は戦うぞ!」
「わかってますよ。」
オレ達が相談していると、兵士が仲間を連れて帰ってきた。
「おい! お前達! 聞きたいことがある。屋敷まで来てもらうぞ!」
オレ達の周りを剣や槍を持った兵士達が取り囲んでいる。オレ達は反抗もせずに言われるまま連行された。スコーピオンのメンバーと思われる男や兵士が街の方に走って行くのが見えた。恐らく、仲間を呼び戻すつもりなんだろう。
オレ達が屋敷の入口まで連れてこられると、中から髭を生やした悪人面の貴族が姿を現した。間違いなくゲーター伯爵だ。
「お前達か? 魔族の少女を探しているというのは。」
「そうだ!」
「ダニエルをどこにやった?」
「遠いところさ。」
「ふざけるな! 小僧! わしは子どもとて容赦はせんぞ!」
ゲーター伯爵がオレの顔を殴りつける。オレ唇が切れて血が出た。だが、唇の傷が見る見るうちに治っていく。
「まさか、お前達は魔族か?」
「だったらどうするのさ。」
「お前もあのガキと同じようにオークションに出すさ。そっちの美女も魔族なんだろう? そっちの美女たちはわしが味見してからオークションに出そう。」
「妹を! マームを帰して!」
「そうか! お前はあいつの姉か! さすがセイレーンだ! 姉妹揃って美形だな。これなら高値が付くな。」
オレの我慢が限界だ。オレの身体から抑えていた魔力と闘気が溢れ出し、眩しく輝き始める。背が伸び、赤い髪は逆立ち、背中には純白の翼が現れた。
「貴様は何者だ?」
「それを知ったらお前ら絶望するぞ!」
「何者なんだ!」
「オレは魔王シン=カザリーヌ。精霊王でもある。そして神の使徒だ!」
周りいた兵士達もスコーピオンのメンバー達も、そして、ゲーター伯爵も真っ青な顔をして怯えている。
「まさか!」
「魔族の少女はどこだ?」
「わしは信じぬ。わしは信じぬぞ! 皆の者、こやつらは曲芸師だ! 騙されるな!」
伯爵の言葉を聞いて怯えながらも兵士達もスコーピオンのメンバー達も剣を抜いて構えた。
「師匠。マーメイさんとマームちゃんを探してきてください。」
「承知した。」
師匠も魔力と闘気を開放する。すると、眩しい光の中に純白の翼を付けた天使のような美女が現れた。男達が見とれている間に、師匠とマーメイさんは屋敷の中に急いだ。
「悪事に関係していない者は立ち去るがいい。残る者には容赦しない。」
「ふざけるな~!」
スコーピオンのメンバーらしき男がナイフのようなものを投げつけてきた。オレはそれを指2本で受けとめて、投げてきた者に投げ返す。すると、ナイフが男の眉間に刺さった。
「ヒッ――――――」
周りいる兵士達もスコーピオンのメンバー達も後ずさりする。
「どうやら時間のようだ。あの世で自分達の行いを後悔するがいい。」
オレは男達に魔法を発動する。
「ファイアーアロー」
上空に無数の炎の矢が出現した。男達は一斉に逃げようとするが、空から矢が雨のように降り注ぐ。
「ギャ――」
「ウワァ――――」
立ち上る煙がおさまるとそこにはゲーター伯爵だけが立っていた。だが、地獄絵図とかした周りの光景を見て、伯爵は尻もちをついて悲鳴を上げながら漏らしている。
「助けてくれ――! お願いだ!」
「お前には自分の犯した罪の深さを思い知ってもらおう。『シャドウリグレット』」
オレが魔法を発動すると、ゲーター伯爵は暗闇の中に落ちていく。今まで自分がスコーピオンという闇組織で犯した罪が、目の前に現れた。泣き叫ぶ女性を犯したり、旅人を殺して金品を奪ったり、悪行の数々が蘇る。そして、その犠牲となった者達が全員武器を持ってゲーター伯爵に襲い掛かった。ゲーター伯爵は何度も何度も殺された。だが、その都度生き返る。
「シン。マームを見つけたぞ!」
師匠とマーメイがマームを連れて帰ってきた。オレはそれを見て魔法を解除した。みんなの目の前には、髪が真っ白となり廃人のようになったゲーター伯爵がいた。
オレは容赦なくゲーター伯爵の首を刎ねた。
「終わったな。シン。」
「はい。ですが、気がかりなことがあります。」
「なんだ?」
「この国の王都で行われているオークションです。今回の件で、どんなものが取引されているのか確認したくなりました。」
「そうだな。マームのこともあるからな。」
「お兄ちゃんが助けてくれたの?」
寝ていたマームは目が覚めたようだ。マームはまだ5歳ぐらいの少女だ。実に可愛らしい。
「そうよ。ここにいるシン様とナツ様が助けてくれたのよ。」
「ありがとうございました。でも、シン様が精霊王様、いいえ、神の使徒様とは知りませんでした。」
「師匠もエリーヌ様の使徒なんだよ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
オレ達4人はマーメイさんと初めて会った浜辺まで転移した。
「マーメイさん。古代遺跡の案内だけど、オークションの様子を見てからお願いしたいんだけど。」
「わかりました。大丈夫です。いつでも案内できますから。」
オレと師匠は王都まで戻った。