闇組織スコーピオン
オレ達3人は歓楽街近くまで行った。街には娼婦と思われる女性が何人も立っている。恐らく客を取っているのだろう。師匠とマーメイには歓楽街の入り口で待っていてもらい、オレだけで向かうことにした。
「シン。いいか。ダニエルを見つけてくるだけだぞ! 遊んでくるなよ。」
「わかっていますよ。オレ、まだ14歳ですよ。」
「えっ?! シンさん、私より年下ですか? 」
「マーメイは何歳なんだ?」
「私は17歳ですよ。」
「・・・・・・」
師匠が黙ってしまった。オレは、気まずさから何も言わずすぐに歓楽街に入って行った。
オレを見つけると女性達が声をかけてきた。
「坊や。可愛いわね。お金はいらないわ。遊んでいかない?」
「奇麗なお姉さんに聞きたいことがあるんですけど。」
「奇麗なお姉さん?」
声をかけてきた女性はシンに“きれいなお姉さん”と言われたことに顔を赤らめている。
「何かしら?」
「ダニエルさんってどこにいるか知っていますか? 伝言を頼まれたんですけど。」
「ダニエルならこの建物の2階一番右の部屋にいるわよ。」
「ありがとうございます。」
「帰りにお姉さんといいことしない?」
「僕、まだ14歳なんです。」
残念そうな女性をよそ目にオレは急いでダニエルのもとに向かった。お姉さんが言った通り2階の右端の部屋に行くと、そこにはダニエルがいた。
オレは寝ているダニエルを起こすと、それに気づいたらしく、隣でダニエルと一緒に寝ていた女性が急いで布団で体を隠した。どうやら裸だったようだ。
「お前は誰だ?」
「ダニエルさんに聞きたいことがあるんだけど。ちょっと付き合ってくれるかな?」
ダニエルは近くに置いてあった剣を取ろうとしたが、オレはダニエルの手を掴んで身動きが取れないようにした。
「痛てて。放しやがれ。」
「騒ぐともっと痛いことになるよ。」
オレがダニエルを掴む手に力を入れると嫌な音がした。
「ゴキッ」
「ウワッ! わかった! わかったから力を緩めてくれ!」
ダニエルと一緒に居た女性はオレを恐怖の目で見ているが、オレはそれを無視して、ダニエルを歓楽街から連れ出し、師匠達の元に戻った。
「シン。遅かったな。まさか、・・・・」
「違いますよ。何もしていませんから。」
オレ達はダニエルを連れて、マーメイと出会った浜辺まで転移した。すると、ダニエルは転移が初めてだったとこともあり、いきなり景色が変わったことに驚いている。
「お前達は何者だ?」
「オレか? オレは魔王シン=カザリーヌだ。」
「私は魔王軍四天王筆頭のナツ=カザリーヌよ。」
魔族の姿に戻ったオレと師匠の姿を見て、ダニエルの顔を真っ青だ。ぶるぶる震えている。師匠の隣にいるマーメイさんの顔つきまで変わった。
「お、お、俺をどうする気だ?」
「お前達はオレの大切な仲間を誘拐したんだよね。ただですむと思っているのか? スコーピオンのアジトはどこだ? 素直に言えばよし、さもなければ・・・」
「言います、言います。領主の敷地内にある建物です。」
「領主が関係しているのか?」
「スコーピオンの首領は領主のゲーター伯爵だ。・・いや、です。」
「なら、魔族の女の子もそこにいるんだな?」
「・・・・・」
「いるのか? いないのか? どっちなんだ!」
「いると思います。ただ、王都のオークションに出すとか言っていましたから。もしかするとすでに連れ出されたかもしれないです。」
オレはダニエルを裸にして、別大陸にある魔の森に連れて行った。
「もしかして、俺をこのまま放置するのか? 頼むよ! なんでもするから。お願いだから、置いて行かないでくれ~! 助けてくれ~!」
「自分が犯した罪をしっかりと後悔しろよ。神が許してくれたら生きられるさ。」
オレは再び師匠とセイレーンのもとへと戻った。
「シン様。ナツ様。知らぬこととはいえ、ご無礼をしました。」
「ああ、魔王のことね。でも、オレも師匠も東の大陸の魔王だから。気にしないで。」
「東の大陸ですか? 伝説の大陸と聞いたことがありますが。」
「実在しますよ。」
「なら、あの海の裂け目を超えてやってきたんですか?」
「そうだよ。オレも師匠も飛翔できるからね。」
「でも、結界があって上空も通れないと聞いていますが。」
「えっ?! 結界?」
オレと師匠はお互いに顔を見合わせた。
「そんなものなかったですよ。」
「もしかすると、私達とカゲロウだから通れたのかもしれんな。」
「なるほどです。」
オレが納得していると、師匠が真剣な顔で言ってきた。
「シン。領主の館に急ぐぞ。王都に連れていかれたら面倒だ。」
「はい。」
3人は転移で街まで戻った。街ではガラの悪い男達が走り回っている。どうやらダニエルとダニエルを攫ったオレを探しているようだった。
「シン。お前、見つかると面倒なことになるぞ! 子どもの姿になれ!」
オレが建物の陰で、7歳ぐらいの子どもの姿になるとマーメイさんが抱き上げて頬づりしてきた。
「シン様。可愛いです。」
「マーメイさん。降ろして。急がないと。」
「そうでした。」
オレ達は領主の館まで急いだ。領主の館付近にはガラの悪い男達だけでなく、兵士達の姿まで見える。
「どうしますか?」
マーメイが心配そうに聞いてきた。
「シン。正面から突入するぞ!」
「はい。」
オレは、元の姿に戻り刀を抜いた。師匠も剣を抜いている。3人が正面の入口に向かうと、屋敷の外で待機していた兵士達がオレ達を取り囲んできた。
「オレ達はスコーピオンを討伐しに来た。関係のないものは立ち去るがいい。」
するとスコーピオンのメンバーだろうか、ガラの悪い男達が街の方から走って戻ってくる。そして、全員が一斉に剣を抜いて襲い掛かってきた。オレが刀に風魔法を付与して、横一文字に振りぬくと、ガラの悪い男の胴体が2つに分かれ、その場に倒れた。
「ヒィ――――」
オレの刀裁きを見ていた兵士達は、恐怖の視線でオレを見ている。
「貴様達は何者だ?」
「魔族の少女を返してもらおうか。」
兵士達は後ずさりしながら敷地内に逃げ込んでいく。そして、スコーピオンのメンバーも敷地内のアジトに向かった。恐らく仲間を呼ぶのだろう。オレ達はゆっくりと敷地内に入った。すると、いきなり前方から雨のように矢が飛んできた。数多く、避けるのも面倒だったので、魔法で対処する。
「グラトニー」
オレの手から放たれた光の渦が、飛んでくる矢をすべて吸い込んでいく。それはまるで夢のような出来事だ。目の前で起こった現象に兵士達は驚き、そして腰を抜かして怯えはじめた。
「な、な、何が起こったんだ―――!」
「バケモンだ――――!」
一番後ろから体格のいい男が前に出てきた。
「お前達、何をビビってるんだ! 相手は女と子どもだ! 行け―――!」
兵士達はびくびくしながらも、リーダーらしき男の掛け声で一斉に切りかかってきた。それを見て、師匠が魔法を発動する。
「シャドウアロー」
師匠が両手を空に掲げると、上空に漆黒の矢が無数に現れる。そして雨霰のごとく地上に降り注いだ。魔法がおさまった後、リーダーらしき男も兵士達も全員が死んでいた。
敵がいなくなったことを確認して、オレ達3人は領主邸の隣にあるスコーピオンのアジトに乗り込んだ。アジトには様々な罠が施されていたが、オレの神眼がそれを見破っていく。落とし穴もあれば、天井から槍が落ちてくる場所もあった。
ところどころに男達が隠れていたが、オレと師匠でその都度切り倒して進んだ。そして最奥の部屋にたどり着くと、そこには上等な服を着た男とその側近らしき女が椅子に座っていた。
「貴様らか? 魔族の少女を取り返しに来たというやつらは。」
「そうだ。魔族の少女を返してもらおうか?」
「お頭がすでに王都に連れて向かっているわよ。」
「ならばお前達には用はないな。」
上等な服を着た男は席を立つと、剣を抜いて切りかかってきた。隣に立っている女性も手刀のようなものを投げて来る。
男は縮地を使い、一気にオレとの間合いを詰めてきた。そして上段から切りかかってくるが、オレはそれを刀で受けとめた。一方、女の投げた手刀は師匠がすべて剣で叩き落とした。
「小僧とただの女だと思ったが、なかなかやるではないか?」
「これからが本番さ。」
「舐めるなよ。」
男が動こうとした瞬間、オレは瞬間移動で女性の前に行き、腹に拳をめり込ませ、続いて男の後ろに回って刀を首にあてた。
「グホッ」
女は痛みで腹を抱えてうずくまっている。男は冷や汗をかきながら言ってきた。
「オレと取引しないか?」
「どんな取引だ?」
「俺はスコーピオンの幹部だ。俺なら首領に怪しまれずに魔族の子どもを逃がすことができるぞ!」
「それなら必要ないさ。」
オレは闘気を開放した。すると全身から漆黒のオーラが溢れ、背中からは真っ黒の翼が出た。
「お前達は魔族なのか?」
「ああ、そうだ。オレは魔王シン=カザリーヌだ。」
「魔王?!」
魔王と聞いて、女が慌てて部屋から逃げ出そうとしたが、それを師匠が逃がさない。
「お前達には罪を償ってもらう。」
オレは男を裸にし、女は下着だけにして、ダニエルと同じように、別大陸の魔の森の奥深い場所に置き去りにして戻ってきた。そして、オレ達3人は王都に向かった。




