ハマツの街少女誘拐事件
オレと師匠は翼を出しユーフラまで飛翔した。たまに海鳥と遭遇する。飛翔を覚えたばかりの頃は、空気の抵抗で息をすることも辛かったが、今では結界を周りに張り巡らせて快適になっている。
「シン。お前わずか数年の間で、本当に成長したな。」
「師匠のお陰ですよ。」
オレ達はユーフラ大陸の最南端の浜辺に舞い降りた。すると、待っていましたとばかりにオレの肩にカゲロウが飛んできた。
「シン様。ナツ様。やっと来ましたね。」
「もう来ていたの? オレと師匠が、リフカ大陸より先にここに来ることがよくわかったね。」
「当然です。私は神獣ですよ。全てお見通しです。それより、報告です。」
「もう調べてあるの?」
「はい。最初に、この大陸には2つの人族の国があります。1つはアルゼン共和国、もう一つはナイジェ王国です。古代遺跡があるかどうかは不明です。」
「古代遺跡がまだ発見されていないってこと?」
「その通りです。それよりも気になる事があります。」
「何?」
「なにやら、ナイジェ王国の森からエルフの魔力が感じられました。もしかしたら、この大陸のどこかにエルフ族がいるかもしれません。」
「大精霊さんに聞けばわかるから大丈夫だよ。」
何やらカゲロウのご機嫌が斜めになった。
「そうですね。シン様は精霊王ですもんね。私よりも大精霊の方が・・・・」
「そんなことないさ。オレはカゲロウのことをいつもありがたいと思って、感謝しているんだよ。」
「なら、今度私が人の姿になりますので、一度デートをしてくださいね。」
「師匠がいいっていたらいいよ。」
カゲロウは恐る恐る師匠を見た。師匠はカゲロウを睨んでいる。
「冗談ですよ。シン様のことは主人だと思っていますから。」
「それより、古代遺跡のことを調べてくれるかな。」
「わかりました。」
カゲロウはオレ達の前から姿を消した。
「さて、シン。どっちに行くか決めろ!」
「はい。じゃぁ、とりあえずこの海岸を右に向かって進みましょう。」
オレと師匠は何のあてもなく、海岸を東に向かって歩き始めた。砂浜には小さなカニのようなものが飛び回っている。それを大きなカニが捕まえて食べていた。さらにその大きなカニを上空の鳥が狙っている。
「自然とは残酷なものだな。」
「そんなこと考えたこともないです。」
「そうか。シンがこの世界に来る前は、魔族も弱肉強食だったんだぞ。弱いものは虐げられ、強いものが王となる。それが嫌でな。」
「師匠があの山奥に一人でいたのはそれが理由だったんですね。」
「ああ、そうだ。人族の国に行ってみれば同じだった。金や権力のあるものが貧しいもの達や弱い者達を虐げていた。私は、そんな人間も大嫌いだった。」
「でも、今は違いますよね。」
「そうだ。シン。お前にあってから、私も変わったような気がする。私だけではないぞ! 魔族四天王の連中も、人族の王達も、お前の影響だろうな。」
「オレもこの世界に来て変わりましたよ。以前話しましたけど、オレは家に閉じこもっていて、毎日毎日ゲームばかりしていました。他人の幸せなんて考えたこともありませんでした。でも、今は人が笑っている姿を見ると、自分も幸せな気持ちになれます。困っている人がいたら、何とかしてあげたいと思えます。」
「シンも成長したんだな。」
「師匠との出会いが無かったら、こうはならなかったと思います。師匠のお陰ですよ。」
オレは師匠の目を見た。師匠の目からは涙が流れていた。もう、オレは師匠と背丈は変わらない。年齢はやっと成人間近の15歳だけど。オレは師匠の肩をそっと抱き寄せた。
しばらくして、再び師匠と手を繋いで浜辺を歩き始めた。すると、海の方から不思議な魔力が感じられた。
「師匠。海の方から魔力を感じるんですが。」
「私も感じるぞ。」
海の方を見ると、そこには青い髪をした美女がいた。オレと師匠の方をじっと眺めている。まるで2人を観察しているようだった。オレはこちらから声をかけてみた。
「海の中で何をしているんですか?」
するとその美女は手招きしてオレ達を呼んだ。オレ達は警戒しながら、海の方に近づいていくと、美女が姿を見せた。それは豊満な胸を貝殻だけで隠し、下半身が魚の人魚のような存在だった。
俺が驚いていると、後ろから師匠が来て教えてくれた。
「あれはセイレーンだ。魔族だぞ。」
「アラクネさんに負けず劣らずの美女ですね。」
オレがうっかり口を滑らせると、師匠の目つきが鋭くなった。
「師匠ほどではないですけどね。」
「当たり前だ。私の“バニー”は最高だからな。」
なんか俺は師匠に誤解されている気がする。
するとセイレーンの方から話しかけてきた。
「あなた方2人から人族とは違う強い魔力を感じましたので、声をかけさせていただきました。」
「オレ達に何か用ですか?」
本来、セイレーンは警戒心が強い。特に人間に対して警戒心の強いセイレーンを安心させるため、オレと師匠は魔族の姿に戻った。
「やはり、魔族の方でしたか。良かったです。実は、私の妹が人族に捕まっているのです。助けていただけないでしょうか?」
「別に構いませんが、詳しく事情を聞かせてくれませんか?」
「わかりました。」
すると、セイレーンの身体が光だし、人間の美女に変身し始めた。オレがワクワクしながらその様子を眺めていると、彼女は服を着ていた。
「シン。どうしたんだ?」
「言え、別になんでもないですよ。」
まかり間違ってもオレが美女の裸を期待していたなんて、師匠に感づかれたらまずい。すると、セイレーンが話し出した。
 
「私の名前はマーメイと言います。」
「オレはシンです。」
「私はナツだ。」
「普段私達は大勢の仲間と一緒に人に見つからないように暮らしているのですが、その日は私の妹のマームだけ一人でいたのです。まだ、幼いので人間に対し警戒心もなく、漁師に見つかって陸に連れていかれたんです。」
「妹さんは人化できるの?」
「はい。我々セイレーン族は自分で言うのもおかしいのですが、上級魔族なんです。ですから子どもでも人化できます。シンさんとナツさんも上級魔族ですよね?」
「そうだ。私もシンも堕天使族だ。」
「堕天使族の方でしたか。どうりで魔力が強いわけですね。」
「事情は分かりました。一緒に妹さんを救出しましょう。」
「ありがとうございます。」
3人は漁師が向かった方向に歩いて行った。しばらく進んでいると街があり、入り口には“ハマツの街へようこそ”と看板があった。3人が街の中に入ると街の雰囲気が少し暗い。オレ達は情報収集のため、狩人ギルドに向かった。狩人ギルドの中は昼にもかかわらず酒を飲んでいるものが多く、酔っ払い達がイヤらしい目つきでオレ達を見ている。
マーメイさんも師匠もどう見ても美少女だ。なんか嫌な予感がした。すると、思った通り声をかけられた。
「なぁ、ちょっとこっちで一緒に飲まないか?」
「・・・・・」
「無視しないで飲もうぜ。」
「・・・・・」
「無視してんじゃねぇぞ!」
男の口調がだんだん強くなってきた。オレもかなりムカついてきた。
「失せろ!」
「なんだと~! 小僧! もう一回言ってみろ!」
「失せろ!」
オレの言葉に切れた男が殴りかかってきた。オレは酔っ払いの遅い動きを軽く避けて、腹に拳をお見舞いすると、男はその場にうずくまった。それを見ていた酔っ払いの仲間達が立ちあがってオレに向かってきたが、面倒だったので闘気を解放すると、オレの身体から放たれた闘気に男達は大きく後ろに吹き飛ばされた。
「お前達、オレ達にケンカ売ったんだよな? ただで済むと思うなよ!」
「俺達が悪かったよ。許してくれよ。何でもするからよ~。」
「なら、オレが聞くことに正直に答えろよ。」
「ああ、わかったよ。」
「噂で聞いたんだが、この街に魔族の女の子がいるって。お前達知らないか?」
すると一人の男が言って来た。
「その魔族の女の子は『スコーピオン』の連中がオークションに出すって話を聞いたぜ。」
「『スコーピオン』ってなんだ?」
「この国の闇組織だ。」
「そいつらはどこにいる。」
「そこまでは知らない。だが、メンバーのダニエルは歓楽街にいつもいるぜ。」




