レッドオーガの討伐
オレと師匠がミラージュの街に入り、狩人ギルドに向かうと先ほどの集団がいた。なにやら、受付の女性と話をしているようだ。子どもの姿のオレは師匠に手を引かれ、掲示板に向かった。掲示板には様々な討伐依頼があった。特に目を引いたのが、オーガの討伐依頼だ。どうやら、オーガが集団で生活して、人々を襲っているらしい。
オレと師匠は一旦ギルドの外に出て、食事をすることにした。レストランに入ると、メニューの野菜料理が売り切れになっている。
「野菜が少ないようですが、どうしたんですか?」
「郊外に最近オーガが現れて、農家の人達が収穫に行けないんですよ。他の街から狩人が大勢来ているようですが、いつになったら解決するのやら。」
「そうなんですね。」
オレと師匠はステーキを頼んだ。シンプルに肉だけだ。食事を食べ終わった後、街を散策していると武器屋があった。中をのぞいたが、剣やナイフのようなものはすべて売り切れだ。武器屋の主人に聞いてみると、街の外から来た狩人の人達が買い占めているようだった。
再び狩人ギルドに戻ると、オーガの集落へ退治に行く説明をしているようだった。オレと師匠が後ろで聞いていると、横からガタイのいい獅子獣人族の男に声をかけられた。
「お嬢ちゃん。その子は弟かい? 子どもを連れてこのクエストは無理だぞ!」
「大丈夫ですよ。この子、強いですから。」
「この子がか? ハッハッハッ」
ちょっとムカついたが、オレ達のことを心配してくれたんだと納得した。
「可愛いわね。君も明日の討伐に参加するの? 偉いわね! 危なくなったらお姉さんが守ってあげようか?」
前にいた狐獣人の女性に声をかけられた。後ろ向きだったその女性がオレの方に向き直り視線を合わせるためかがんだ。その瞬間、オレは目が点になった。両手に収まりきらないほど大きかった。しかもかがんでいるために、丸見え状態だ。オレがドギマギしていると、隣にいる師匠が目を細めてオレを睨んでいた。後が怖い。
「シン。行くぞ!」
「はい。」
出発は翌日の早朝と説明があった。オレと師匠はその日、建物の陰に入り亜空間の家に帰った。
「シン。お前は、ああいうタイプの女が好みなのか?」
師匠が自分の胸を見て悲しそうな顔をしている。
「オレは師匠が一番ですから。ただ、あまりに大きかったので驚いただけです。」
オレの言葉で師匠は嬉しそうにしていた。
翌朝、オレと師匠はみんなに混ざってオーガの討伐に向かった。ここのオーガは赤色をしているレッドオーガと呼ばれる魔物だ。通常のオーガよりも一回り体が大きく強いようだ。
ギルマスがみんなに声をかけている。
「いいか。相手はレッドオーガだ。2~3人で1体を倒すようにしろ。危なくなったらすぐに引け。絶対に勝つぞ!」
「オオ―――――!」
郊外の畑を過ぎて森の中を進んで行く。オレの魔力感知にかなりの数の魔力の反応があった。
「師匠。かなりの数いますよ。」
「ああ、100体はいるな。」
狩人達は全員合わせても200人ほどしかいない。勝てるのだろうか?
「いいか。2人一組で戦うぞ。お前達は右横から行け、お前達は左からだ。合図をしたら一斉にかかるからそのつもりでな。」
ギルマスがみんなに指示を出す。オレと師匠は正面組だ。
「かかれ―――――!」
一斉にレッドオーガに向かった。レッドオーガはこん棒のようなものを振り回している。狩人達は2人一組でレッドオーガの足を狙い、足を切られたレッド―オーガがかがんだところを、もう一人が頭や首を切りつける。なかなかに息の合った攻撃だ。だが、レッドオーガもただやられているのではない。レッドオーガが振り回した棍棒にあたり、大怪我をする狩人達もいた。
洞穴から一際大きなレッドオーガが2体現れた。さらにその後ろには5m近いレッドオーガがいる。恐らく、この集落のレッドオーガジェネラルとレッドオーガキングだろう。レッドオーガキングが周りを見渡し、大声を上げ地面を踏んだ。
「グォ―――――――――」
その声は森中に響き渡り地面が揺れる。それを見て、ギルマスが全員に声をかけた。
「一旦森の中に引け―――――!」
狩人達は一斉に森の中に逃げ込んだ。急いでこちらの被害の確認が行われた。死者4名、怪我人が20人もいる。戦闘可能な人数は170名ほどだ。対するレッドオーガはまだ80体ほどいた。しかも、レッドオーガジェネラル2体とレッドオーガキングが1体いる。
ここでギルマスがみんなに言った。
「こちらの方が数では勝っているが、相手にはジェネラルとキングがいる。油断するな。とにかく相手の数を減らしてから、ジェネラルとキングに向かうぞ!」
「オオ――――」
再び3方向からの攻撃だ。狩人達は一斉に飛び出した。
「師匠どうしますか? これ以上犠牲者を出したくないんですが。」
「仕方ない。私達も参戦するか。」
「はい。」
オレは刀を抜いた。師匠も剣を手にした。
「行くぞ!」
「はい。」
オレと師匠の狙いはレッドオーガジェネラルとレッドオーガキングだ。師匠がジェネラル2体の相手をする。オレはキングに向かった。確かにレッドオーガキングは大きい。だが、オレにしてみればただ大きいだけの木偶の坊だ。サイクロプスやコカトリスほど強くない。
師匠を横目に見ると既にジェネラルを1体倒している。オレもキングに上段から切りかかった。キングはオレを子どもと見ているのか、余裕の表情でオレの刀を棍棒で受けとめようとしたが、棍棒ごと肩から袈裟懸けに切られた。
「グギャ―――――!」
キングの悲鳴が森全体に響き渡った。狩人達もレッドオーガ達もこちらを見た。そこには肩から血を吹き出すキングがいた。オレは一気にキングに駆け寄り、ジャンプして横一文字に刀を振った。すると、レッドオーガキングの大きな頭が地面に落ちた。
「あの小僧がキングを倒したぞ! 俺達も負けていられねぇ!」
キングとジェネラルがいなくなった後、レッドオーガ達は急激に弱体化した。そして、すべてのレッドオーガの討伐が終わった。
ギルマスがオレと師匠のところにやってきた。
「君達はいったい何者なんだ?」
「修行の旅をしているものです。」
「それにしても強いな。まさか、その小さな体でレッドオーガキングを倒すとは思ってもいなかったぞ!」
「運がよかっただけです。」
「何を言っている。運だけで勝てる相手ではないぞ! まあいい。みんなギルドに戻るぞ――――!」
「おお――――――!」
森の中を歩き始めて、オレはギルマスに声をかけた。
「すみません。忘れ物しました。直ぐにギルドに行きますので。」
師匠とオレは戦闘のあった場所に急いだ。そこにはレッドオーガやジェネラル、キングの死体が転がっている。
「シン。どうしたんだ。」
「魔物の死体をこのままにしておけないし、魔石もあるだろうから空間収納にしまいます。」
「そうだな。」
オレは、レッドオーガ達の死体を空間収納にしまって、ギルマスたちの後を追いかけた。
狩人ギルドに着いてからは、みんなに酒や料理が振舞われた。師匠はエールを、オレは果実水を飲んでいる。するとギルマスが声をかけてきた。
「お前達は、ランクはどうなっている? 今回の活躍でランクが上がるぞ! 期待していろよ。」
オレと師匠は報酬だけ受け取って、その場からすぐに立ち去った。いつものようにランク上げでもめたり、目立つのが嫌だったからだ。
オレと師匠はその日のうちにミラージュの街を出た。
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