メガロドン討伐
オレと師匠はミーアとペルと一緒に屋敷まで戻った。屋敷内では、オスカ伯爵を中心とした討伐隊がぞくぞくと集まっていた。魔法も古代兵器も普及していないこの大陸では、銛や槍で戦うしかない。だが、相手は20mもある巨大な魚型の魔物だ。勝てるかどうかわからない。オレと師匠は状況を見守ることにした。
3時間ほどで準備の整った討伐隊が海に向かい始めた。先頭はオスカ伯爵だ。浜辺には漁船の船の他に、少し大型の船が用意されていた。総勢20隻ほどの大船団だ。
「では、皆の者! これよりメガロドンの討伐に向かう。勝って帰ろうぞ!」
「オオ―――――――!!!」
ミーアとペルは、海が見える少し小高い丘の上から、オレと師匠と一緒にその様子を見ている。
「お父様大丈夫?」
ペルが今にも泣きそうな顔をしてミーアに聞いている。ミーアは心配そうな顔をして、“大丈夫よ”と答えることしかできない。
「師匠。みんなが危なくなったらオレが討伐に向かいます。」
「そうだな。」
大船団が沖合に向かった。船には銛を持った男達が乗り込んでいる。だが、メガロドンはなかなか現れない。
「メガロドンがこの沖合に現れたなんて聞いたこともないぞ! 何かの見間違いじゃないのか?」
徐々に兵士達の緊張が薄らいでいく。その時、1隻の船から声が上がった。
「出たぞ―――! メガロドンだ――!」
「銛を構えろ!」
船に乗った兵士達が銛を放とうと身構えるが、海上に姿を見せたメガロドンの大きさは予想以上だった。大きな口に漁船が飲み込まれるほどの大きさだったのだ。
「ダメだ! 逃げろ―――――!」
海の上では青ざめた兵士達の怒声が聞こえる。
「早くしろ! 何をもたもたしている!」
船は一斉に浜辺に引き返そうとしている。その中で少し大きめの船だけがメガロドンに立ち向かっていく。船上で銛を持って構えているのはオスカ伯爵だ。
「シン。」
「はい。」
オレと師匠は魔力と闘気を解放した。すると、2人の姿が光に飲み込まれていく。師匠の姿が人間に戻り、背中には純白の翼が出た。俺の姿も犬獣人から人間に戻り、赤髪が逆立ち、背中には純白の翼が出た。そして少しずつ光が収まっていく。
「シンさん。ナツさん。あなた方は?!」
「後で話します。」
オレと師匠は翼を広げて海上に向かった。海上に向かう光り輝く存在に、人々はあんぐりと口を開けて驚いている。
師匠がメガロドンに向けて魔法を放つ。
「ウォータートルネード」
すると、メガロドンの周りの海水が渦巻き状になり、勢いよく上空に巻き上げられる。メガロドンも上空に巻き上げられていく。そこにオスカ伯爵が銛を投げつけた。銛は浅かったがメガロドンの頭に突き刺さった。その様子を見てオレは魔法を発動した。
「ビッグサンダー」
すると、上空から巨大な稲妻が眩しい光を放ちながら、メガロドンの頭に刺さった銛に落ちた。
「ズドドドド―――――――ン」
メガロドンは真っ黒に焼けて海上に浮かんでいた。
「ヤッタ――――――!」
「メガロドンを倒したぞ―――――!」
オレと師匠は、ミーアとペルのいる小高い丘に転移した。
すると、突然2人が消えたことに再び住民達は驚いた。
「なんだったんだ?」
「俺は夢でも見たのかな?」
「馬鹿か? みんなが同じ夢を見るわけがないだろう。」
「それもそうだな。」
心に余裕ができた人々に笑顔が戻った。その後、漁船を出して丸焼けになったメガロドンを回収していた。
「シンさん。ナツさん。どういうことか教えていただけるんですよね。屋敷に戻りましょうか。」
「そうですね。」
オレ達は屋敷に戻った。そこにはオスカ伯爵の姿がった。オレと師匠を見ると片膝をついて挨拶してきた。
「天使様とは知らず、申し訳ございませんでした。」
「オレ達はそんなんじゃないですから。」
「シン兄様は犬獣人族じゃなかったんですね。それに子どもじゃなかったんだ。」
ペルが寂しそうに言った。
「騙していてごめんね。ペルちゃん。オレ達は魔族なんだ。」
「魔族ですか?! でも、二人とも翼が黒くなかったですよね。」
ミーアが驚いた。
「はい。エリーヌ様の使徒ですから。」
「使徒様でしたか?!」
「シンはそれだけではないぞ! シンは精霊王でもあるからな。」
「えっ?! ええ―――――――!!!」
3人は腰を抜かすほどに驚いた。
「なぜ、使徒様がここにいるんですか?」
「オレと師匠はこの世界を平和にすることが役目なんです。既に2つの大陸に渡りました。今回はこの大陸を旅するつもりで来たんです。」
「なるほど、それでどこから来たのかおっしゃらなかったんですね。」
「ああ、そうだ。シンも私もすべてを秘密にしたかったからな。」
「ですが、お二人のことを大勢の人々が見ていましたから、恐らく国王にも噂が聞こえると思いますよ。」
「オスカ伯爵にお聞きしたいんですが、ジャング国王について教えていただけませんか?」
「私が知っていることでしたらお答えしますが。」
ここで、ペルがオレの近くに来た。不安そうに見上げている。オレがペルの頭をなでると、ペルがオレの膝の上にのってきた。
「こら! ペル!」
オスカ伯爵が慌てて止めるが、オレは笑って了承した。なんか妹のような娘のような感じだ。
「シン兄様が獣人でなくても大好き。」
ペルがオレの頬にキスをしてきた。師匠も微笑ましく見ている。
「オスカさん。変な噂を聞いたんですが、この国に古代遺跡が発掘されたというのは本当ですか?」
「はい。何やら見たこともない武器も発見されたという話は聞いております。」
やはり本当だった。
「その遺跡はどこにありますか?」
「この大陸の最南端にありますよ。ただ、寒くて雪が降り積もる地ですから、一般人はほとんど行くこともありませんが。」
「そうですか?」
「ジャング国王が、人族の大陸を攻撃しようとしているという話は知りませんか?」
「それは本当ですか?!」
「先々代の国王陛下の時代からこの大陸は鎖国体制を取りました。ですが、他の大陸を攻撃しようとしているとは知りませんでした。」
「どうやら、まだ中央政府の役人達にしか知られていないようですね。」
「とても信じられません。現在のジャング国王は開国派でして、他の大陸と友好関係を築くべきだと言っていましたので。」
オレと師匠はナザルを疑った。恐らくナザルが絡んでいるのだろう。
「師匠。古代遺跡に向かいましょうか?」
「そうだな。」
「シン兄様。どこかに行っちゃうんですか?」
「ごめんね。これがオレと師匠の“仕事”なんだよ。」
オレと師匠の出発に際して、オスカ伯爵がメガロドン討伐の報酬として大白金貨3枚をくれた。このお金があれば当分の生活費と宿代は安心だ。オレと師匠は次の街に向けて旅立った。
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