古代兵器は善?それとも悪?
師匠と二人で魔の森の上空を飛んでいると山が見えてきた。この辺りから一段と魔力感知の反応が強くなっている。恐らくこの近くだろう。ドラゴンの言っていた谷が見えた。オレと師匠が地上へと降りると、そこは、外からは入りにくくなるようなすり鉢状になっていた。
「使徒様。来ていただいたんですね。」
「はい。オレのことはシンでいいですから。」
「私はナツでいいぞ!」
「シン様とナツ様ですね。私はレッドドラゴンのリンと言います。」
「他の仲間はどこにいるんですか?」
「実は、仲間達とこの大陸に用事があって来たんですが。途中で産気づきまして、私だけ残ったんです。本来私達は、ここから西のドラゴ島に住んでいるんですよ。そこには様々なドラゴンが住んでいるんですよ。」
「そうですか? 機会があれば是非に行ってみたいですね。」
「シン様とナツ様ならみんな大歓迎だと思います。」
「卵が盗まれたということは人族がここまで来たということですよね?」
「恐らくそうだと思います。人族の中には極稀に能力の高いものが生まれます。いわゆるハイヒューマンですね。彼らは魔法も使います。シン様達もお気を付けください。」
「ありがとう。卵はまだまだ孵化しないんですか?」
「もうそろそろですよ。ドラゴンは生まれてすぐに飛べますから、生まれたら私達もドラゴ島に帰ります。」
「楽しみですね。」
「はい。」
オレと師匠は転移で街まで戻った。すでにオレ達の正体が知れ渡っているので、師匠とオレはフードを被って戻ろうとした。すると師匠がニコニコしながら言ってきた。
「シン。フードを被っても怪しまれるだけだ。お前、子どもの姿になれ。」
仕方ないので、7歳ぐらいの子どもの姿に変身してさらにフードを被った。師匠がなぜか嬉しそうだ。腕を組めないので手を繋いでいる。完全に母と子に見える。
街に入ると“神の使徒”が現れて、領主を成敗したと大騒ぎになっていた。恐らく、この国全体にも広がるだろう。もし魔族のナザルがいれば、警戒されることは覚悟しなければならない。
一通り街の中を確認して、オレと師匠は次の街へと向かった。次はいよいよ帝都バルサだ。
「シン。帝国を出るまでは、その子どもの姿でいたほうがいいな。恐らく、帝国中に私達の噂が、広がっているだろうからな。」
「そうですね。でもこの姿は歩幅が小さいから疲れるんです。」
「いいではないか。疲れるようなら、私が夜に足をマッサージでもしてやろう。」
師匠はオレがこの姿の時は、何かにつけてオレの頬をプニプニしてくる。恥ずかしいんだけど。
帝都バルサまでの道のりは平和そのものだった。ただ、帝都バルサに近づくにつれて荷馬車が多くなってきた。いったい何を運んでいるのだろうか。荷馬車は兵士達に守られていて、厳重な警備態勢がとられていた。
オレと師匠は取り調べの厳しい検問を通過して街に入った。街の中は思った以上に活気がある。広い道路や広場には様々な屋台が出ていた。通りを歩く人々も笑顔だ。皇帝が軍備増強に走る悪者というイメージは間違えているかもしれない。
オレと師匠はいつもの通り、狩人ギルドに向かった。ギルドの中はさすが帝都だけあって広い。それに受付に女性が5人もいる。酒場が併設されているが、昼から酒を飲んでいるものは誰もいなかった。掲示板を確認しに行くと、やはり魔物討伐の依頼が多い。どうやら、魔の森の影響がこの王都まで及んでいるようだ。発見されている古代遺跡は街を挟んでちょうど反対側にある。
「僕、可愛いわね。僕は何歳なの?」
「7歳です。」
「お姉さんと一緒に見学に来たのかしら?」
師匠はオレの姉と言われたことが嬉しかったようで、終始ニコニコしていた。
「この街は魔物の討伐依頼が多いんですね。」
「そうね。ほとんど森に囲まれているからね。魔物が多いのよ。僕も気を付けたほういいわよ。」
「はい。ところで、この街はみんな幸せそうなんですが、どうしてですか?」」
「皇帝が優しくて、人々の生活のことを考えてくれているからよ。だから、この魔物の多い街でも安心して暮らせるのよね。」
オレは師匠と顔を見合った。やはり、この国の皇帝は悪人ではなさそうだ。だが、古代遺跡の流出は何としても防ぎたい。
「シン。どうするんだ?」
「皇帝がいい人か悪い人か今の時点では判断で決ません。」
「なら、会いに行こうか?」
「えっ?!」
「皇帝に会いに行くぞ! お前の神眼で直接確認すればいいだろう1」
「それもそうですね。」
オレは建物の陰に入り、7歳の姿から14歳の姿に戻った。
「ああ、やっぱりこっちの方がいいですよ。」
師匠が横目でにらんでいる。なんで?!
オレと師匠は皇帝ニコラスのいる城に来た。城の前には剣を腰に差し、銃を持った兵士達がいる。
「城に何か用か?」
「はい。ニコラス皇帝に会いたいんですが。」
「お前達は馬鹿か?」
「会えるわけがないだろう。帰れ!」
「オレ達、使徒なんだけど。」
「お前達が使徒だと~!」
すると、後ろにいた兵士が何か言っている。
「あいつ、報告にあった赤髪で、しかも金色の瞳をしているぞ!」
「まさかな。」
「おい。お前! お前達が使徒というなら証拠を見せろ!」
ここは観光なんかで人が多い。こんな場所で姿を変えたら目立ちすぎるし、騒ぎになる可能性がある。どうしたもんかと悩んでいると、目の前の兵士達が跪いた。周りの観光客も同じだ。よく見ると、師匠の体が光り、背中から純白の翼が出ていた。
「シン。行くぞ!」
「はい。」
オレと師匠はそのまま城の中に入って行った。魔力感知で、皇帝ニコラスが謁見の間にいることはわかっている。オレと師匠はそのまま謁見の間に向かった。目の前に現れる兵士達もメイド達も最初は止めようとするが、師匠の姿を見てみんな跪いた。
オレが扉を開けて謁見の間に入ると、皇帝ニコラスが玉座に座っていたが、すぐに玉座から降りオレと師匠に跪いた。
「エリーヌ様の使徒様とお見受けしました。お初にお目にかかります。私はヒッタイ帝国の皇帝ニコライと言います。」
「丁寧なあいさつですね。オレはシンです。」
「私はナツだ。」
「使徒様が来られるとはどんなご用件でしょうか?」
ニコライ皇帝は、マング王国の件もチギト王国の件も、そしてドラゴンの件も全てを知っているのだろう。
「オレと師匠はすべての国を、この世界を平和にするようにエリーヌ様に言われています。世界中に存在する古代遺跡からは、古代兵器が発掘されていますよね。」
「よくご存じで。」
「オレ達は、この世界に不要な古代兵器を処分しているんですよ。」
ニコライ皇帝はしばらく考え込んだ。そして、オレ達に言った。
「お言葉を返すようですが、本当に不要なのでしょうか? 我が国は森が多く、たくさんの魔物がいます。中には強力な魔物もいます。古代兵器が利用されるようになってからは犠牲者が減りました。」
「ですが古代兵器が戦争で使われれば、大勢の犠牲者が出ます。」
「それは、戦争に使えばということですよね。我が国では、戦争や争いで利用することはしません。あくまで、魔物達からの自衛のためです。」
オレは地球にいた頃を思い出した。確か日本でも同じような議論があった気がする。オレは何も考えずに生活していたから気にもしなかったが、魔物のいるこの世界では現実的な問題だ。
師匠はオレがどうするのか見ている。だが、結論が出ない。オレが必死で考えていると、兵士が慌てて部屋に入ってきた。
「皇帝陛下にご報告です!」
「どうした?!」
「はい。魔物の大軍が森からやってきます。その数、ざっと10,000匹はいます。」
「わかった。兵士達に銃を持って城壁のところで待機させよ。狩人ギルドに行って討伐に参加できる狩人も集めて、銃を渡せ。」
「承知いたしました。」
「シン様。ナツ様。魔物の討伐に協力していただけますか?」
「はい。参加しましょう。」
読んでいただいてありがとうございます。
是非、評価とブックマークをよろしくお願いします。