新大陸の魔王候補アーロン
オレと師匠はギルドを出た後すぐに街を出た。次の街に向かうのだ。街道を歩いているとオレと師匠の前に、突然男が現れた。恐らく、ギルドで感じた強力な魔力を持った男だろう。
「お前は何者だ? なぜオレ達の前に現れた。」
「俺はアーロンだ! 強き者を探している。俺は強き者と勝負してもっともっと強くなるのだ。」
「お前は人ではないな。」
「そうさ。俺は魔族だ。やがて魔王になる男だ。」
「なるほどやはりな。だが、その願いはかなわぬだろうな。」
「話はもういい。ここでは目立ちすぎる。俺についてこい。」
オレと師匠はアーロンについて行った。そこは街道から離れ、人が寄り付かないような場所だった。
「さぁ、始めようか。」
「シン。私は見ているぞ! 殺すなよ!」
「ガキが相手か! 舐めたことを言っていると死ぬぞ!」
アーロンは闘気と魔力を解放した。魔王になるというだけあり膨大な魔力だ。アーロンを中心に強い風が吹いた。
「お前も本気を見せてみろ。」
「君にその価値があったら見せてあげるよ。掛かってきな。」
「舐めるな!」
アーロンは空間から剣を取り出し、切りかかってきた。オレは刀を抜いてそれを受け止める。アーロンが剣に魔法を付与する。すると、剣が漆黒のオーラを放ち始めた。オレは刀に光魔法を付与した。すると、刀はアーロンの剣と真逆の明るい光を放ち始める。
「やはりな。ギルドで会った時から、お前達からは強い魔力を感じていたんだ。だんだん楽しくなってきたぜ。」
アーロンは剣を横一文字に振った。すると漆黒の斬撃がオレに襲い掛かった。オレは刀でそれを払いのけたが、斬撃の破片がオレの頬をかすめた。頬から血が流れる。だが、直ぐに血が止まり傷は修復されていく。
「お前は人間ではないな。魔族か?」
「君も少しはできるようだね。でも、まだまださ。うちの四天王の足元にも及ばないよ。」
「四天王? なんだそれは?」
「いいさ。早くかかってきな。君の本気を見せてごらん。」
アーロンの背中に漆黒の翼が生えた。そして、口元には鋭い牙が生え、全身からは先ほどと桁違いの魔力と闘気が爆散する。
「君はバンパイア族か?」
「ああ、そうだ。オレはバンパイアロードのアーロンだ!」
「それが君の本気か? なら、オレも少しだけ本気を見せてあげるよ。その代わり死ぬなよ。」
オレは魔力と闘気を解放する。真っ赤な髪は逆立ち、黄金の瞳は輝き始める。背中には漆黒の翼が出た。そしてその翼は純白へと変化する。
「お前は何者だ?」
「オレに勝てたら教えてやるよ。」
アーロンは姿を霧に変えて姿を消した。次の瞬間、オレの後ろから長い爪で攻撃してきた。オレは瞬間移動でそれを避ける。さらに、アーロンは上から攻撃を仕掛けてきた。オレは頭上に手を上げ『バリア』を展開する。アーロンの攻撃はバリアに弾かれた。
アーロンは姿を現してオレに言った。
「やはり、お前は強いな。思った通りだ。だが、避けてばかりでは勝てんぞ!」
アーロンが手を前に突き出した。手から出た霧が漆黒の竜へと形を変え、オレに襲い掛かってきた。
「グラトニー」
オレの手から放たれた光が、漆黒の竜を吸い込む。
「なんだと~!」
自分の必殺技が軽く防がれてしまったことにアーロンは困惑している。
「君はバンパイアロードだけあって、セフィーロさんに似ているな。」
「セフィーロ?!」
「ああ、オレの知り合いさ。」
「セフィーロとは、もしやバンパイア族の始祖のセフィーロ様のことか?」
「そうなのか? 師匠! セフィーロさんてバンパイア族の始祖なの?」
「ああ、そうだ。因みに私も堕天使族の始祖だぞ!」
「えっ?! なら、ハヤトさんは竜人族の始祖なの?」
「ああ、そうだ!」
「オレ、知らなかったよ。」
ここで、アーロンの顔が青ざめる。
「本当にお前は何者なんだ?」
「オレは別の大陸で『魔王』をやっているシン=カザリーヌだ。」
「別の大陸とは、もしかすると、あの失われたという伝説の大陸のことか?」
「なんかオレ達の大陸が、伝説になっているんだよね。」
こうなると、もはや四天王を連れてきた方が速そうだ。
「師匠。セフィーロさん達を連れてきてくれるかな。」
「高くつくぞ!」
師匠は転移で魔王城に行って、四天王を連れて帰ってきた。
「お久しぶりです。魔王様。」
「おひさ~!」
「魔王様。倒す相手はどこですか?」
「みんな。久しぶり。ここにいるバンパイアロードのアーロンがみんなに会いたがっていたから来てもらったんだ。」
アーロンは始祖のセフィーロを前にして完全に固まってしまった。
セフィーロさんがアーロンを見て言った。
「バンパイアロードですか? まだまだ若いですね。それで、魔王様と何してたんですか?」
「アーロンさんがね。なんかこの大陸の魔王になるためにオレに戦いを・・・」
すると、アーロンさんがオレの言葉を遮って、セフィーロさんに説明を始めた。
「私はまだまだ未熟ですので、伝説の大陸の魔王様に修行を付けていただいていたんです。」
なんか、話が変わったような気がする。ここで、師匠がさらにアーロンに追い打ちをかける。
「ここにいるシンは確かに魔王だ。だが、精霊王でもある。しかも私とシンはエリーヌ様の使徒だ。」
アーロンの口から魂が抜け出て行きそうだ。
「ご無礼を許し下さい。何も知らずに、申し訳ありませんでした。」
「気にしないで。それより、アーロンさんがいるってことはこの大陸にも魔族がいるってことだよね。」
「はい。ただ、この大陸のではありません。この大陸の周りには他にいくつか大陸があります。そのうちの一つが我々魔族の国が中心の大陸になります。」
「すると、今いるこの大陸は人族が中心で、獣人族が中心の大陸やエルフ族が中心の大陸もあるのかな。」
「いいえ、エルフ族は人族から隠れるように暮らしていますので、エルフ族の大陸というものはありません。獣人族が中心の大陸はあります。」
「ありがとう。アーロンさんは強くなりたいんだよね。」
「はい。強くなって、群雄割拠する魔族の大陸を統一したいんです。」
「どうして?」
「魔族の大陸では常に戦いが起こっています。魔王の地位を争っているのです。私が強くなって魔王になれば、平和になると思ったのです。」
「わかったよ。なら、協力するね。セフィーロさん、ハヤトさん。魔王城に連れて行って鍛えてあげてくれるかな?」
「私はいいんですか?協力しなくても。」
「だって、ミアさんは服のデザインで忙しいでしょ。」
「さすが魔王様。わかってるじゃないですか。」
ミアがオレに抱き着いてきた。師匠がそれを見て怒った。
「こら! ミア!」
「ごめんチャイ!」
ミアさんがおどけてベロを出した。緊張した雰囲気が一気に和んだ。
その後、セフィーロさん達はアーロンを連れて魔王城へと帰った。オレと師匠は元いた街道まで転移して先に進んだ。
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