新大陸のドワーフ国(2)
ロックサウルスが岩のような尾をガヤルド王に叩きつける。周りの兵士達は矢に火をつけてロックサウルスに攻撃を加えた。ロックサウルスが暴れているため、辺り一面に土埃が舞い上がった。前が何も見えない。しばらくして、土煙が収まると、ガヤルド王は口から血を吐き倒れていた。
「師匠。ガヤルド王の手当てをお願いします。」
「わかった。」
オレは刀を取り出し魔力を解放した。オレの身体が神々しい光に包まれていく。背中にあった漆黒の翼は純白の翼へと変化し、刀からは眩しい光が溢れ出ていた。周りに控えていたドワーフ族の兵士達は何事かと驚いている。
オレは刀を片手にロックサウルスの尾に近づき、横一文字に刀を振った。すると硬くて傷一つ付けられなかった尾が地面に落ちた。
「ギャ――――――」
ロックサウルスの悲鳴が洞窟内に響き渡る。ロックサウルスは地面を掘って逃げようとするが、オレが片手をあげると地面から無数の石の槍が飛び出た。その衝撃でロックサウルスは地面に弾き飛ばされ横たわった。オレはロックサウルスの腹の上に転移して、刀を突き刺し、魔法を唱えた。
「サンダー」
すると、刀に巨大な雷が落ちた。激しく暴れていたロックサウルスは身動き一つしない。ロックサウルスは既に絶命していた。静まり返っていた洞窟内に一斉に歓声が上がった。
「やったぞー!」
「ロックサウルスを倒したぞー!」
「バンザ―――――イ! バンザ―――――――イ!」
師匠の治癒魔法で、すでに回復していたガヤルド王はみんなの前でオレにお礼を言った。
「お陰でこの国も救われた。感謝する。」
「オレも師匠も自分達で出来ることをしたまでです。」
オレ達の目の前に光の玉が現れる。そして光の玉は人の形となった。
「ありがとうございます。精霊王様。おかげで我が子達が救われました。」
「ノームさんにはいつも世話になっているから、気にしないでください。」
「精霊王?! ノーム?!」
周りのドワーフ達が震え出した。ガヤルド王さえも顔を青くしている。
「俺は大地の大精霊ノームだ! ここにいるシン様は精霊王だ! 我が子達よ! 失礼のないようにせよ。」
「ハハッ―――――――」
全員がその場で平伏し、オレとノームさんを拝み始めた。
「みなさん立ってください。オレのことはシンでいいですから。ノームさん、わざわざ来てくれたんだよね。ありがとう。」
ノームは挨拶をして帰って行った。その場に残ったオレと師匠は、ガヤルドの城に再び案内された。今、3人は応接室にいる。
「まさか。シン様が精霊王様とは存じ上げずにご無礼しました。お許しください。」
ここで、師匠が正直に話した。
「シンは魔王であり、精霊王であり、エリーヌ様の使徒だ。そして、私は魔族四天王であり、同じくエリーヌ様の使徒だ。」
「なんと?! 最高神エリーヌ様の使徒でしたか。やはりお二人からは何やら神聖なものを感じましたが、そういうことだったんですね。」
「オレ達の住んでいた大陸にもドワーフ族がいたよ。恐らく、ガヤルドさん達と同じ血が流れていると思うよ。」
「そうでしたか。会ってみたいもんですな。」
転移を使えばいつでも会えるが、時期尚早だろうと思いオレは言葉にしなかった。
その後、城で食事をご馳走になり、その日の夜は一旦師匠の家に戻った。
「シン。この前の子どもの姿になってくれるか?」
「どうしてですか?」
「懐かしいんだ。あの時が。」
オレが子どもの姿になると、やはり師匠はオレを抱っこしてオレの顔に頬づりしてきた。
「今日は朝までこの姿でいてくれ!」
「え~!」
「なんだ! 嫌なのか? この前、バニーガールの姿になってやっただろう! 私だって恥ずかしかったんだぞ!」
「わかりました。」
その日はいつものように一緒に風呂に入ったが、子どもの時のように全身を洗われた。なんか本当に恥ずかしい。夜は久しぶりに師匠の抱き枕になって寝た。翌朝起きると、すでに師匠が起きていた。
「ありがとうな。シン。懐かしかったぞ!」
「師匠が喜んでくれるなら、たまに子どもの姿になってもいいですよ。」
「本当か? では、今度は初めて会った時のようになってくれ。あの時の私は今と違って、ぎすぎすしていたと思う。シンと一緒にいて、私も変わったからな。」
「そんなことないです。師匠はいつでも奇麗で、優しかったですから。」
「まっ、そういうことにしておこう。」
オレと師匠は、ドワーフ国に戻った。今日はドワーフの街を散策する予定だ。街の人達がオレ達を見ると挨拶をしてくる。オレと師匠がエリーヌ様の使徒だということが、全員に伝わっていたからだ。
「やはり、内緒にしておいた方がよかったかもしれんな。」
「仕方ないですよ。それより、鉱石を扱う店が多いですね。他の種族が来ないのに不思議ですね。」
すると、ドワーフの男性が教えてくれた。基本的にこのドワーフの国にはドワーフ以外は入れない。だが、ガヤルド王が許可した者だけは種族に関係なく入ることができるそうだ。
オレ達はガヤルド王を訪ねた。
「ガヤルドさん。聞きたいことがあるんですが。」
「どのようなことですかな。」
「この大陸にはドワーフ族と人族以外にはいないんですか?」
「昔は獣人族もいたようですが、今はいないと思います。エルフ族はどこかにいるという噂は耳にしたことがありますが。」
「どうして人族が中心なんですか? ガヤルドさん達も地上に出ればいいのに。」
「地上では人族達が常に争っています。我々ドワーフ族は武器類の製作にたけていますから、戦争に利用されるんですよ。我々の作る武器は、人々が互いを傷つけるためのものではありません。魔物を討伐するためのものです。」
「なるほど納得しました。やはり、精霊の子孫ですね。」
精霊の子孫と言われてよほど嬉しかったのか、ガヤルドさんは顔をクシャクシャにして喜んだ。
「シン様とナツ様はこの後どうされるんですか?」
「ヒッタイ帝国に行く予定です。」
「そうですか? ならばお気を付けください。ここに来る人族の商人から聞きましたが、帝国は現在軍備の増強をしているようです。我々にも同じものを作って欲しいと、金属の玉が出る筒の見本を持ってきましたが、お断りしました。」
「それは銃と言って、平和を乱す道具です。断ってくれてよかったです。」
「やはりそうでしたか。」
「あれが大量に出回れば、我々が作る剣など不要になるでしょうな。」
「そうなったら、農機具や工具を製作したらいいですよね。それに遊び道具なんかも夢があっていいと思いますよ。」
「遊び道具ですか?」
「はい。」
オレはリバーシやチェスなんかを説明した。それと、井戸水をくみ上げるポンプなんかも説明した。
「シン様はいろいろなものをご存じなんですね?」
「旅をしていますから。」
オレが見本を作ることをガヤルド王に伝えると、腕のいい職人を紹介してくれた。名前はフェリオだ。
「シン様、おらは何をすればいいんだ。」
「フェリオさんには、オレが今からいう物を一緒に作って欲しいんだけど。」
「おら、頑張るだよ。」
最初にリバーシを作り始めた。オレは転移で森に行き、木材を用意した。リバーシの盤を作るためだ。その間に、フェリオさんには石を丸い形に切りそろえてもらった。その石を師匠が魔法で色付けしていく。
最初の一つが仕上がった。
「シン。これでどうやって遊ぶのだ?」
「フェリオさんと一緒にやってみましょう。」
ルールを説明して実際にやってみた。当然だが、家に引きこもってネットゲームにハマっていたオレは強い。負けず嫌いな師匠が何度も挑んでくる。
「何故勝てないのだ!」
「師匠。もうやめましょう。他にも作りたいものがあるんですよ。」
「ダメだ。勝ち逃げは許さん。」
「なら、今夜“バニー”いいですか?」
師匠は最初何のことか分からなかったようだが、“バニーガール”のことだと分かると、真っ赤な顔をして恥ずかしそうに頷いた。
次はチェスだ。チェスの盤は難しくなかったが、さすがに駒の作成には時間がかかった。気づくと徹夜していた。できはよくないが、一応形にはなったので一旦解散した。
師匠の家に帰って寝ようとすると、師匠が寝室に入ってきた。見事なバニーガールの姿だ。可愛い。何度見てもかわいい。
「師匠は本当によく似合いますよ。ずっとその恰好でいればいいのに。」
「馬鹿! お前以外にこんな姿を見せられるわけがないだろう。」
師匠のバニーガール姿を見ることができるのはオレだけだ。オレはなんて幸せな奴なんだろう。それから数時間後にやっとオレは寝ることが許された。
目が覚めると、すでに夕方近い時間だった。とりあえずドワーフ国に戻ってみると、昨夜作ったチェスの駒がきれいに加工されていた。
「これフェリオさんが仕上げたんですか?」
「んだ。眠れなかったんで、磨いてみただどもどうだろうかのう。」
「フェリオさん。さすがですよ。」
フェリオは褒められて照れくさそうにしていた。
「シン。ところでこれはどうやって遊ぶんだ。」
師匠はリバーシで勝てなかったので、次こそはと目を輝かせていた。オレはルールを2人に教えたが、少し難しいようだった。実際にやりながら説明することにした。何度かやっているとルールが理解できたようで、急に師匠が強くなった。
「どうだ! シン。もう1回やってやろうか?」
何度やっても師匠に勝てない。ベテランのオレにとって初心者の師匠に勝てないことが屈辱だった。
「今夜子どもの姿になればやってやるぞ!」
“やっぱり師匠は・・・・”
何のことかわからないフェリオさんは不思議そうな顔をしていた。その日は、オレも師匠も何の仕事もせず、遊ぶだけ遊んで家に戻った。その後、オレがどうなったかは言うまでもないだろう。もう着せ替え人形みたいにされるのはこりごりだ。
翌日はポンプを作るつもりだったが、ポンプの仕組みが分からない。何度も試行錯誤をしたが無理のようだ。そこで、ポンプの形はそのままにして、ロックサウルスの魔石を小さく砕いて、ポンプもどきに組み込んでみた。すると、フェリオさんが手を乗せただけでポンプが水を吸い上げた。
「シン。できたではないか。」
「魔石がなければ、動きませんけど。」
「シン様。それなら心配ないですだ。この地下には魔鉱がありますから、そこから採掘すればいいだよ。」
やっとすべて整った。オレ達3人は急いでガヤルド王にできたものを見せに行った。ガヤルド王は想像していたものと違ったらしく、最初はあまり嬉しそうでなかったが、実際にリバーシやチェスで遊んでみて、思いっきりハマってしまった。
「シン様。これは面白い。これらは絶対に流行りますぞ!」
「みんなが楽しく遊んで、笑顔になってくれればいいんですけどね。」
すると、いつものように天の声が聞こえた。だが、今回はいつもの声と違った。
『神界にもリバーシとチェスを寄こすのだ!』
「シン。どうした?」
「多分、タケルさんだと思うんですけど、リバーシとチェスを神界に寄こすように言われたんです。」
「なら、作って教会に持っていくしかないな。」
「後でアグネスさんにでも頼みに行きます。」
オレと師匠の会話を聞いていたガヤルド王は“神界”という言葉が気になったようだ。
「シン様。先ほど神界と聞こえたんですが、タケルさんとは誰ですか?」
「ああ、タケルさんは武神だよ。」
「えっ?!」
「武神様を“さん”でお呼びになっているのですか?」
「武神のタケルさんと魔法神のマジクさんはオレの師匠だからね。」
「ええっ――――――!」
リバーシに熱中していたガヤルドさんの意識が違う場所に飛んで行ってしまった。オレはヒールをかけて、正常に戻した。
「申し訳ありません。驚きすぎてしまいました。」
「ガヤルドさん。今後、この遊び道具やポンプを広めるようにしてください。」
「わかりました。」
オレは、リバーシ、チェス、ポンプを複製して空間収納に仕舞った。
翌日、ガヤルド王とフェリオさんに挨拶をして、ドワーフの国を後にした。
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