新大陸のドワーフ国(1)
師匠とも話し合い、孤児院ができるまではこの国にとどまりたかったが、すでに古代遺跡を発見した国があるため、再び旅に出ることにした。
「アグネスさん。オレと師匠は違う街に行かないといけないんだ。この国に何かあればすぐにわかるようになっているから、安心していいよ。」
「シン様とナツ様がいなくなると寂しいです。子ども達も寂しがります。」
「オレも師匠も寂しいさ。でも、他の場所にもたくさん問題があるからね。」
「そうですね。使徒様ですものね。」
「じゃぁ、アグネスさんも頑張りすぎないようにね。」
「はい。」
オレと師匠はこの国の北にあるヒッタイ帝国に向かうことにした。王都がマング王国の北側に位置するため、ヒッタイ帝国までの距離はさほど遠くない。だが、険しい山脈を越えていかなければならない。
「どうしますか? 飛んでいきますか?」
「たまには山越えもいいだろう。面白いことがあるかもしれないし。」
オレと師匠が森の中に入っていく。やはり魔物が出てこない。オレの魔力が強くなりすぎているせいか、魔物がオレから逃げているように感じる。自分でも意識しないと、魔力が外に出て身体から光が溢れてしまうことがある。
そんなオレの様子を見て師匠が言った。
「シン。お前姿を変えられるだろう。」
「やったことがないのでわからないです。」
「一度試しに子どもの時の姿を想像して魔法を発動して見ろ。」
「はい。じゃぁ、やってみますね。」
オレお体が光り始めてどんどん小さくなる。丁度7歳ぐらいだろうか。すると、溢れ出していた魔力も治まっていた。
「やっぱりな。体の成長とともに魔力量が増えたんだ。元々魔力量が多かったのに、いろいろな経験をしたから余計に魔力が増えたんだと思うぞ! 当分そのままでいろ!」
師匠はオレを抱き上げて、顔に自分の顔を付けて来る。いわゆる頬づりだ。気持ちいいが恥ずかしい。
“まさか、師匠は・・・・・・なのか?”
オレは師匠を一瞬疑ってしまった。
「パチン!」
「痛てぇ!」
「シン。お前、今、変なことを考えただろう。私は常識の範囲だ!」
小さい体で山登りはきつかったので、山を下り終わったら子どもバージョンになることを約束して(させられて)、13歳バージョンに戻った。
山の頂上まで到着し、いよいよくだりに差し掛かる。すると、下の方から『カンコンカンコン』と音が聞こえてきた。何か採掘しているような音だ。オレと師匠は音のする方に行ってみた。
「師匠。もしかしてあれはドワーフ族じゃないですか?」
「そのようだ。この大陸にもいたんだな。」
ドワーフ族はオレ達の姿を見ると慌てて、走って逃げてしまった。オレと師匠は後を追った。すると、山の中腹辺りに洞穴のようなものがある。オレと師匠はその洞窟の中に入って行った。洞窟内は真っ暗だった。仕方がないので、『ライト』で照らしながら奥へと進む。
穴は下へ下へと続いているので、オレ達もどんどん下に進んだ。
「師匠。明かりが見えます。」
オレと師匠は明かりのある場所に急いだ。すると、オレ達の眼前にはまるで洞窟の外に出たのかと思うほどの空間が広がり、そこには村があった。村というよりも規模的には街だ。オレと師匠が街に入ろうとすると、小さな髭を生やした兵士達がやってきた。
「お前達は何者だ?」
「普通の人間ですが。」
「普通の人間であるはずがないだろう。」
「どうしてですか?」
「普通の人間には穴の場所もわからん。それにここまでたどり着けん。」
「でも、来ましたよ。」
「怪しい奴らだ。こっちに来い。」
ドワーフ達に取り囲まれ、後ろから槍を突き付けられながら、オレと師匠は街の中心まで連行された。
街の中心の広場までくるとドワーフの隊長らしい人がいた。
「ガヤルド様のところに連れていくぞ!」
「はい。」
どうやらオレと師匠は街の責任者のところまで連れて行かれるようだ。周りを見ると、オレ達の知っているドワーフの街とほとんど同じつくりだった。もしかすると、昔は大陸が繋がっていたのかもしれない。
オレと師匠は城に連れてこられた。“街”だと思っていたが、ドワーフの“国”なのかもしれない。城の中に入ると、様々な装飾がなされている。そして置物は全て鉱石で作られていた。恐らく貴重な鉱石なのだろう。
謁見の間のような部屋の前まで来ると、挨拶の作法を教えられ、くれぐれも失礼が無いようにと注意を受けた。
「連れてまいりました。ガヤルド王。」
「ご苦労であった。そなたらは後ろに下がっているがよい。」
ガヤルド王はオレと師匠の顔をまじまじと眺めている。もしかすると、オレの神眼のように何かしらを見極める眼を持っているかもしれない。
「お主らからは悪意は感じぬ。だが、人間ではないな。正直に言うがよい。」
オレと師匠はお互いを見た。こうなったらしょうがない。師匠の目はそう言っていた。
「オレはシン。他の大陸から来た魔王です。」
「私はナツ。魔族四天王の筆頭だ。」
「魔王だと?!」
ガヤルド王が再度オレと師匠を見る。
「嘘ではなさそうだ。だが、魔王にしては“気”に悪を感じぬ。」
「別にすべての魔王が悪とは限りませんから。」
すると、ドワーフの兵士達に怒られた。
「これ! 王の御前だ! 言葉遣いに気を付けよ!」
「他の大陸とはどこから来たのだ? ユーラスか? オセアンか? それともリカフか?」
「名前はわかりません。この大陸のずっと東にある大陸です。」
「この大陸の東だと?!」
「それはないだろう。伝説では聞いたことがあるが。我々の祖先と言われる精霊達が住んでいて、世界樹があると言われている大陸だ。しかし、それはあくまでも伝説上の話だ。」
「でも、本当ですから。」
ここで、ガヤルド王は少し考えこんでしまった。
すると、慌ただしく廊下を走る音が聞こえてきた。息を切らせて兵士が部屋の中に入って来て報告した。
「鉱山にロックサウルスが現れました。現在、討伐に当たっていますが、苦戦しているようです。怪我人も多数出ています。」
「よし。わしが出向こう。」
オレと師匠を見てガヤルド王が一言言った。
「ここでしばらく待っていてくれ。」
「オレ達も討伐の協力をしますよ。」
ガヤルド王が鋭い眼光でオレ達を見た。
「そうか。ならば、共に参ろう。」
オレと師匠はガヤルド王の後について行く。ガヤルド王は、オオトカゲのような生き物にまたがり乗っていく。オオトカゲは意外に早い。オレと師匠はすでに魔族であること言ったので、背中に漆黒の翼を出して飛んだ。
戦闘の行われている場所まで着くと、兵士達が一斉にガヤルド王に跪く。
「ご苦労であった。後はわしが相手をしよう。」
ガヤルド王は剣を腰に下げ、長い槍を持ってロックサウルスに立ち向かう。槍で突こうとするが、肌が固くて跳ね返されてしまう。とうとう槍が折れてしまった。ロックサウルスが尾を上げてガヤルド王に突進していく。ガヤルド王は剣を横にしてそれを受けとめた。
「シン。いざという時はでるぞ!」
「はい。」
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