子ども達の未来のために
翌日、教会に行くと国王と大司教がいた。
「シン様。この国の教会の本部はもともと王都にあったのですが、バインド公爵が強引に移転させたのです。今回、教会の本部を王都に戻すことにしました。つきましては、聖女アグネス様と子ども達を連れて、王都まで来ていただけないでしょうか?」
「いいですよ。その間に貴族達を城に集めるんですよね。」
「その通りです。王都の孤児院の建設もすでに宰相に連絡してあります。それと、チャック辺境伯にも、他の貴族達よりも早めに城に来るように連絡をしました。」
「わかりました。ではオレ達は戻ってすぐに出発します。」
オレと師匠は森の小屋に戻って、アグネスに状況を説明した。子ども達は王都に行けることに大喜びだ。
「僕、今日はシン兄ちゃんと寝たい。」
「私はナツ姉ちゃんと寝るもん。」
「私もナツ姉ちゃんと寝たい。」
“何か小学校の修学旅行もこんなだったんだろうな。オレには苦い思い出だけど。”
その日のうちにオレ達は王都に向けて旅立った。さすがに子どもの足で王都まで行くのは厳しいので、馬車を4台用意してもらった。子ども達は初めて乗る馬車に大騒ぎだ。ペース的に考えて、恐らく3日はかかるだろう。
「アグネス姉ちゃん。おしっこ。」
「ナツ姉ちゃん。のどが渇いた。」
道中は大変だった。トイレがないので草むらに入って用を足さなければならない。だが、魔物がいる可能性があるため、オレと師匠で見張っていなければならない。それに、どこかに井戸があって飲み水があるわけではないので、常にオレと師匠が水筒の中に水を補充した。
そんなこんなでやっと王都まで到着した。王都に入ると国王が宿を手配してくれてあった。護衛の兵士達に守られて宿に入った。周りの人達からは不思議な目で見られている。
王都に着くと夕方だったので、その日は宿で休んだ。そして翌日は歩いて王都観光だ。王都には様々な店があった。屋台もあった。子ども達は屋台からいい匂いがするので、観光よりもそっちの方が気になるようだ。オレはみんなに肉串を買った。
すると、カゲロウが戻ってきた。鳥が突然空からオレの肩に降りてきたので、子ども達もびっくりしている。
「その鳥はシン兄ちゃんの鳥なの?」
「オレの鳥じゃなくてオレの友達さ。」
「鳥が友達なんて、シン兄ちゃんって変わってるね。」
オレはカゲロウに念話で話した。
『どうしたの? 何かあったの?』
『この国の北にあるヒッタイ帝国に古代遺跡がありました。』
『もう発見されてるの?』
『はい。すでに銃は軍事利用されています。戦車が軍事利用されるのも時間の問題です。』
『わかったよ。この国が片付いたら向かうよ。ありがとう。』
オレとカゲロウの念話は師匠にも聞こえている。
「シン。休む暇がないな。」
「仕方ないですよ。でも、師匠がいてくれるから頑張れます。」
師匠がオレの腕を取って体を密着してきた。目ざとい子ども達はそれを見てオレと師匠をからかい始めた。
「シン兄ちゃんとナツ姉ちゃんは本当に仲良しなんだね。」
「私もシン兄ちゃんに“くっつき虫”したい~!」
女の子がオレの手を掴んで師匠の真似を始めた。
「私も“くっつき虫”」
「ほら、シン様が歩きづらいでしょ! 駄目よ!」
アグネスの言葉に子ども達は仕方なくオレから離れた。すると、何を考えたかアグネスがオレにくっついてきた。
「アグネス姉ちゃん、ずる~い!」
女の子達が一斉にアグネスに文句を言った。アグネスはお茶目に舌を出して直ぐにオレから離れた。
4日後、王城から遣いが来た。貴族が昼過ぎに城に集まるという連絡だ。子ども達のことはカゲロウに任せてオレは師匠とアグネスと一緒に王城に向かった。王城の門番は話が通っているようで、丁寧に対応され応接室に通された。オレ達が応接室に入ると、グラン国王とウォルト宰相、チャック辺境伯がいた。
「シン様。お久しぶりですね。やはり、私の目に狂いはなかったようです。ただ者ではないと思っていましたが、まさか神の使徒様だったとは。」
「お久しぶりです。チャックさん。」
すると、ウォルト宰相が立ち上がって挨拶をしてきた。
「私はこの国の宰相を務めますウォルトと言います。侯爵を拝命しています。」
「オレはシン。」
「私は妻だ。」
ここでオレ達の前に四天王が現れた。何もないところから突然人が現れたことに、ウォルト宰相もチャック辺境伯も驚いている。さすがに国王とアグネスはもう驚かない。
「魔王様。ご報告に参りました。」
「ありがとう。セフィーロさん。ミアさん。ハヤトさん。」
ウォルト宰相が聞いてきた。
「この方達はいったい何者ですか?」
「魔王軍四天王のセフィーロさんとミアさんとハヤトさんだよ。」
「魔族ですか? おとぎ話のような話ですな。」
ウォルト宰相は完全に疑っている。すると、3人が背中から漆黒の翼を出した。
「私はバンパイアロードのセフィーロです。」
「私は堕天使族のミアよ。」
「俺は竜人族のハヤトだ。」
ウォルト宰相もチャックさんも怯えている。
「大丈夫ですよ。みんな誤解しているようだから言っておくけど、オレは魔王だからね!」
チャックさんが驚き過ぎて椅子からこけた。
「魔王ですか?!」
「そうだよ。魔王で精霊王で神の使徒だよ。別におかしくないさ。魔族も人族も神のもとでは皆同じなんだから。」
「そ、そ、そうですね。」
ウォルト宰相が冷や汗をかきながら答えた。
「そうだ! 報告だよね。」
「魔王様に言われた闇の組織はすべて討伐しました。人身売買組織も壊滅しましたので併せてご報告します。」
「ありがとう。みんなゆっくり休んでね。」
「魔王様。他にも討伐する相手がいたらいつでも言ってください。体動かすのは気持ちいいですから。」
「魔王様。ナツ姉様。今度グランデさんのところに来てね。私の新作発表会があるから。」
「あなた達、帰りますよ。では、失礼しました。」
セフィーロさん達は魔王城へ帰った。前を見ると、3人が目を開いたまま動かない。またかと思いながらもヒールをかけた。
「シン様。今の話からするとこの国の闇組織はすでになくなったんですね。」
「そうだね。もう人身売買もないよ。」
「ありがとうございます。」
隣で師匠がニコニコ笑っている。だが、チャック辺境伯だけは表情が硬い。
「どうしたの? チャックさん。」
「せっかく壊滅した組織ですが、悪に加担する貴族がいればまた組織が復活するやもしれません。」
ここでグラン国王がアグネスを見てきっぱりと言った。
「そのために貴族達を集めたのだ! 今日、謁見の間で貴族達をシン様に判別してもらう。悪意のあるものは全員捕縛して牢に入れるつもりだ。」
「貴族の一族から反発が出まずぞ!」
「その時はその時だ! このグランが兵を率いて討伐しよう。」
「グランさん。変わったね。それでこそ国王さ。」
「はい。私は目が覚めました。国民のため、この命を捧げます。」
「良かった。オレ達も協力するよ。」
グラン国王の後ろについて謁見の間に入ると、絨毯の両側に大勢の貴族たちが並んでいた。玉座までくるとグラン国王が貴族達に言った。
「今日、わざわざ来てもらったのは、我が弟のバインド公爵に天罰が下ったことはすでに知っておろう。さらに、闇の組織や人身売買組織にも天罰が下った。」
グラン国王の“天罰”という言葉を聞いて、顔が青ざめる貴族達が何人もいた。
「そこでだ。まさかとは思うが、闇の組織や人身売買組織に関わっていた貴族がいるかどうか一人一人調べることにする。異存はないな。」
「陛下。少しお待ちください。調べるとはどのようにするのでしょうか?」
「ここにいるシン殿は、虚偽を見破ることができるのだ。」
「まさかそのようなことができるとは思えません。」
「その通りです。国王陛下。どこの馬の骨ともわからぬ者に、判断出来ようはずがありません。」
グラン国王がオレを見た。こうなることは予想していたが、悪あがきもいい加減にして欲しい。
オレは魔力を開放する。オレの身体が突如として神々しい光に包まれる。そして背中に純白の翼を生やした神のごとき男がいた。
「オレは精霊王シン=カザリーヌ。神の使徒だ。」
貴族達は全員がオレに向かって平伏した。
「オレの目を見ろ。オレにウソは通じない。神の名においてこれからお前達を裁いていく。」
オレの言葉で体をぶるぶるふるわせているものもいる。中には近くの扉から逃げ出そうとするものまで現れた。だが、扉の近くには純白の翼を出した師匠がいる。
「知れ者が! 私は神の使徒、ナツ=カザリーヌだ。この裁きが終わるまで一歩たりとも部屋からは出さぬ。」
部屋の中に極度の緊張が走る。緊張のあまり気を失うものも出た。そうして、オレは一人ずつ見極めた。およそ10人の貴族が黒だった。
グラン国王が兵士に命じて、犯罪組織に関係した貴族達を牢に連れて行かせる。オレと師匠は人間の姿に戻って国王の席の横に立っている。残った貴族達には国王が今後の方針を伝えた。
「すべての街に教会と孤児院を設置する。よいな。」
「費用はどのようにするのでしょうか?」
「教会の寄付金の一部と国からの援助で賄うことにする。そなたら領主からの寄付も受け付けるぞ! ハッハッハッ」
ここでチャック辺境伯がわざと大声でみんなの前で話す。
「我が領地では教会がすでにありますゆえ、すぐにでも孤児院の建設に取り掛かりましょう。神の使徒である精霊王様からの願いを叶えるは、神の意志であろう。精霊達の加護を受けることができるやましませんな。」
その言葉に反応したかのように謁見の間には大きな光の玉が突如現れた。そして空中で人型に変化する。
「精霊王様。お久しぶりです。」
「やあ、みんなも来てくれたのか?」
「はい。どうやら私達の出番のようですので。」
森の大精霊ドリアードから7大精霊達が一人ずつ挨拶をしていく。
「みなさん。私達も応援しますから、この国の親のいない子ども達を、皆さんが親になったつもりで育ててください。お願いしますよ。」
7大精霊はそれだけ言ってすぐに帰って行った。
この場の全員が目を大きく見開き、口を開けて驚いていた。
アグネスが聖女として領主達に紹介された後、グラン国王から領地経営についての注意と、貴族は質素倹約に努め、民を重んじて生活するように戒めの言葉があった。そしてすべてが終了して、オレ達は宿屋まで戻った。
宿に戻ると子ども達がカゲロウと話をしていた。その状況にアグネスが声を上げる。
「えっ?! どうして?」
「アグネス姉ちゃん何を驚いているの。カゲロウちゃん、すごく面白いんだよ。」
黙っているのもかわいそうなので、カゲロウのことをアグネスに教えた。
「カゲロウ。元の姿になって。」
カゲロウが火の鳥モードでなく不死鳥モードの姿になった。アグネスは驚いているが、子ども達は大喜びだ。
「カゲロウは神獣のフェニックスなんだ。」
「えっ――――――! フェ、フェ、フェニックス~!!!」
しばらくしてアグネスが冷静になった後、今後の予定を話し合った。
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