シナヤマの街の子ども達
オレと師匠は再び草原の中の街道に転移した。
しばらく歩いていると、畑がちらほらと見えてきた。どうやら次の街が近いようだ。すれ違う人も多くなってきた。
オレと師匠が街に着くと、入り口に“ようこそシナヤマの街へ”と看板があった。街の中に入ると活気がない。それに建物が古い。
「師匠。この街、すごく寂れている気がします。」
「そうだな。この街の規模にしては店も少ないな。それに屋台もないぞ。」
「とりあえず狩人ギルドに行ってみましょうか?」
オレと師匠はギルドに向かった。ギルドに向かう途中、他の街では見られない光景を目にした。子ども達が路上で物乞いをしていたのだ。オレは子ども達に近づいて話を聞いてみた。
「君達の両親は?」
「いないよ。それよりお金をくれよ。」
「君達だけかい? 他にもいるのかい?」
「いたけどみんな捕まったよ。」
「誰に?」
すると遠くから兵士達が走ってきた。
「おい! おまえら~!」
「やばい! 逃げろ~!」
兵士の姿を見て子ども達は一目散に逃げて行った。オレと師匠は屋根伝いに子ども達を追った。子ども達は、街の外の森の中に入って行った。オレ達は『隠密』を発動して後を追う。すると、森の中にぼろぼろの小屋があった。もしかしたら自分達で直したのかもしれない。
オレと師匠は小屋のドアをノックした。
「誰?」
「話の途中だったからついてきたんだ。開けてくれないか?」
ドアが開いた。中を見渡すと10人ほどの子ども達がいる。
「君達だけで暮らしているのかい?」
「・・・・・」
「君達の両親はどうして死んだんだ?」
「俺の母ちゃんは借金の方に連れてかれた! それに父ちゃんは死んじゃったよ。」
「私の家は朝起きたら誰もいなかったの。」
師匠がオレに言った。
「多分、子どもを置いて夜逃げでもしたんだろうな。」
そこに12歳ぐらいの少女が両手の籠に大量のパンをつめてやってきた。
「あなた方は誰ですか? この子達を攫いにでも来たの!」
「いいや。この子達を街で見かけて、心配になって来てみたんだ。」
「そう。」
少女は子ども達にパンを配り始めた。
「みんなお待たせ。パンを持ってきたよ。ゆっくり食べてね。」
「アグネス姉ちゃん。ありがとう。」
オレ達はアグネスと呼ばれる少女に話を聞こうと挨拶をした。
「オレはシン。」
「私はナツだ。」
「私はアグネスです。」
「アグネスさんはいつもこの子たちにパンを持ってきてるの?」
「1日に1度しか持ってこられないんですけど。多分、全然足りないと思います。」
「この街の領主は何をしているんだ!」
師匠が切れた。
「今の領主はダメです。借金の方に女性を屋敷に呼び寄せ、飽きれば奴隷として売るような奴です。」
「どうして、みんな大人しくしているんですか?」
「領主はこの国の公爵なんですよ。国王の弟なんです。だから、やりたい放題なんです。」
「どうして、お前はこの子たちにパンを運んでいるんだ?」
「私は、もともとこの街の領主だったカインズ伯爵の娘です。今の領主のバインド公爵の罠に嵌められて、一家全員殺されました。私だけ何とか生き延びたんです。だから、せめて自分で働いたお金でこの子達に何か食べさせてあげたいって思ったんです。」
『未来ある子ども達を聖女とともに救え!』
「えっ?!」
天の声を聴いて考えこんでいると、師匠が話しかけてきた。
「どうかしたのか? シン。」
「はい。また聞こえたんです。」
「そうか。なんとおっしゃったのだ。」
「“未来ある子ども達を聖女とともに救え”と言われました。」
「聖女?」
「多分この街のどこかに聖女がいるんだと思います。」
オレは気になったのでアグネスさんに聞いてみた。
「この街に教会のようなところはないんですか?」
「ありますよ。」
「そこに孤児を保護するような場所はないんですか?」
「ありませんね。」
どうやらオレ達の大陸と状況が違うようだ。
「師匠。この子達に料理を作って食べさせてあげたいんですが。」
「ああ、いいだろう。」
オレは空間魔法が付与してある鞄から食料を大量に取り出した。それを見て、子ども達もアグネスさんも不思議そうな顔をしていた。
「シン兄ちゃんの鞄、すごいね!」
「他に何が出るの?」
「もう何もないよ。」
「なんだ。おもちゃとかないんだ~。」
オレが取り出した食材を使って、師匠が調理を始めようとしたが調理場がない。大地の精霊ノームの力を使えば簡単にできてしまうが、どうしようかと悩んでいた。
「シン。この際だ。調理場を作れ。」
「はい。」
オレは魔法で調理場を次々と作っていく。調理場の後は鍋やら包丁やらを次々と作り出していく。子ども達もアグネスさんもあんぐりと口を開けて眺めていた。
「シンさん。あなた一体何者なんですか?」
「オレ、子どもの頃からなんか特別な力があるみたいなんですよ。」
「シン兄ちゃん凄いね。まるで魔法使いみたいだよ。」
すると女の子が話しかけてきた。
「ねぇ、シン兄ちゃん。おもちゃも作れる?」
師匠とアグネスさんが料理をしている間、オレは女の子達に木と土でお人形を作った。男の子達には竹馬のようなものを作った。それと、土と魔石を利用してお風呂も作った。さすがに、お風呂は疲れたが子ども達には大好評だった。なんせ魔石の部分に手を添えるだけで、
勝手にお湯が出るのだから。子ども達にとってはよい遊び道具なんだろう。
アグネスと師匠が二人で料理をしながら話をしている。
「シンさんって、すごいですね。あれ全部、魔法なんですよね?」
「アグネスには嘘は付けないようだ。そうだ。シンも私も魔法が使える。」
「やっぱりですね。実は私も魔法が使えるんです。ただ、病気やけがを治すことしかできませんけど。」
「それは、聖魔法か?」
「よくわかりません。私一人ができたんで、小さい頃から自分がおかしいのかと思っていました。でもよかったです。私以外にも魔法が使える人がいて、安心しました。」
「アグネスは最高神様の夢を見ることがあるか?」
「はい。たまにですけど。」
「やっぱりな。だが、まさかこんな近くにいるとはな。」
どうやら料理ができたようだ。オレが魔法で作った木のテーブルにはたくさんの料理が並んでいた。子ども達には風呂場で手を洗うように言って、それぞれ席に着かせた。もうみんなの口元から涎がたれている。
「食事をする前に、みんなすることがあるでしょう。」
アグネスが子ども達に言った。すると子ども達は胸の前で手を組んで、祈りを捧げている。それが終わると、我先にと一斉に料理を食べ始めた。
「アグネスさん。子ども達がしていたのは何ですか?」
「神様に感謝の気持ちを伝えていたんです。」
「エリーヌ様も喜んでいるでしょうね。」
「シンさん。なんか最高神様に会ったことがあるような言い方ですね。」
「いいえ。ただ、そう思っただけです。」
隣では師匠がもくもくと食事をしている。
ご飯をお腹いっぱい食べた子ども達は、眠くなったようだ。オレと師匠は、アグネスさんが子ども達を風呂に入れている間に、アラクネ達がいる国境の街ハクスに転移して、布団を大量に仕入れてきた。
子ども達が床に寝ようとしていたので、少し待たせて布団を鞄から取り出した。子ども達は、ふかふかの布団に大喜びだ。いつの間にか子ども達の賑やかな声がしなくなり、子ども達は全員夢の中に入って行った。
「アグネスさん。オレと師匠も一旦、帰ります。」
オレと師匠は森の中の家を後にした。外はすでに真っ暗だ。
「シン。行くか。」
「はい。ここの領主は悪党です。」
オレと師匠は領主の館の前まで来た。
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