チギト王国の悪党退治
翌日、マナには宿で待っているように言って、オレと師匠は城に向かった。
今回は正々堂々と正面から乗り込む。
「お前達は何者だ! 王城に何か用か?」
オレは闘気を纏い、拳で城門を破壊して中に進む。オレ達の前には大勢の兵士達が向かってくるが、オレは刀で師匠は剣で相手を倒していく。王城の中に入っても、兵士達がどんどんやってくる。
オレと師匠は闘気と魔力を解放して背中から漆黒の翼を出した。オレ達の周りは光に包まれている。オレと師匠の姿を見たものは、みんな座り込んで怯えてしまう。今までと違って、立ち向かってくる兵士は誰もいない。
いよいよ謁見の間だ。扉を開くとそこには国王ビエラと貴族達がいた。国王ビエラは王座に座り、貴族達は赤い絨毯の両脇に控えている。オレ達の姿を見て、国王以外は顔色が変わった。
「お前が国王か?」
「貴様らは何者だ! 人間ではあるまい!」
「見ての通りだ。オレは魔王シン=カザリーヌだ。」
「私は魔族四天王ナツ=カザリーヌだ。」
「魔王だと?」
周りの貴族達は地面に座り込んでしまった。オレはさらに闘気を高める。オレの身体が変化する。赤色の髪は逆立ち、黄金の瞳は輝き始め、背中に出た黒色の翼が純白の翼へと変化する。師匠の漆黒の翼も純白の翼に変化した。
貴族達から声が漏れる。
「美しい。これが魔王なのか?」
「オレ達は最高神エリーヌ様の使いだ。そしてオレは精霊王だ!」
「なんと?! 精霊王様が本当にいたとは。」
だが、一人だけ別の反応をしている。
「そうか。お前達か。ナザル様が言っていたのは。ならば、この場で殺してやろう。」
国王ビエラは王座から立ち上がると、闘気を全身にみなぎらせた。身体から漆黒のオーラが溢れ、頭から角が出て、身体は3mほどの鬼のような姿へと変化した。
「そうか。お前はナザルの手先だったか。ならば遠慮はしないぞ!」
地べたに座り込んだ貴族達の中にはあまりの恐怖に漏らすもの、気絶するものがでた。
「師匠。お願いします。」
「わかっている。」
師匠が指を鳴らし、オレと国王ビエラの周りに結界を張った。
「行くぞ!」
ビエラが空間収納から巨大な剣を取り出した。どうやら魔剣のようだ。剣に魔法を付与して切りかかってくる。オレは刀でそれを受け止める。剣から漆黒のオーラが溢れている。オレは刀に光魔法を付与した。刀が眩しい光を放つ。
「小癪な奴だ。ひねりつぶしてくれるわ。」
国王ビエラが剣を前に出すと、剣から出た真っ黒な渦巻きがオレを襲う。オレが刀でそれを切ると、真っ黒な渦巻きは消滅した。次の瞬間、ビエラが一瞬でオレの目の前に現れ、パンチを繰り出してきた。オレはそれを指1本で受け止め、そして、腹に蹴りをくり出す。
「グハッ」
ビエラがよろけた瞬間、オレは一気にビエラのもとに行き刀を袈裟懸けに振った。ビエラの肩から胸にかけて血が噴き出す。だが、その傷がどんどん消えていく。自己再生だ。
「確かにお前は強い。だが、俺を倒すことはできん。」
すると、師匠が後ろから声をかけてきた。
「シン。あいつは悪魔族だ!」
悪魔族は精神体だ。いくら肉体を傷つけても意味がない。オレは魔王ブラゴにはなった時のように魔力を込めて魔法を放つ。
「ブラックホール」
オレの指から放たれた黒い渦がどんどん大きくなり、周りのものを次々と吸い込んでいく。そして、国王ビエラも飲み込んでいく。
「ナザル様―――――――!!!」
国王ビエラは完全にブラックホールに飲み込まれた。
オレは貴族達に向き直った。貴族達はオレに平伏している。そこで、オレは彼らに告げた。
「これより神の名においてお前達を裁く。一人ずつ前に出るがいい。」
オレの前に一人ずつ歩み出る。オレは神眼を使い、一人ずつ善・悪の判断をしていく。悪の判断がされたものはその場で師匠が拘束していく。50人近くいた貴族の中で、およそ半分の貴族は悪の判断がされた。悪と判断した貴族達は全員投獄し、逆に牢に閉じ込められているマナの両親や罪なき人々を解放させた。
マナの両親にはマナが泊まっている宿屋に向かうように伝言してもらった。
謁見の間が落ち着きを取り戻したころ、貴族を代表してデリー公爵が挨拶をしてきた。
「我々の力が足りず、国王の悪行を抑えることができませんでした。申し訳ありませんでした。精霊王様。」
「シンでいいですよ。それより、すぐにガレン伯爵に使いを出してください。ガレン伯爵やグリーン子爵はこの国を平和にしようと、命を懸けて国王に反旗を翻すようです。国王がすでに死んだことを知れば、内乱も治まるでしょう。」
「わかりました。すぐに手配いたしましょう。」
「それと、この王都の郊外にある古代遺跡ですが、オレ達の手で消滅させますので、承知してください。この世界には不要のものです。」
「わかりました。そちらについてもすぐに手配します。」
「できれば、内政に口を出したくないのですが、デリーさんが次の国王になって、ガレンさんが宰相になれば、この国も平和になると思うんだけど。」
「神命確かに伺いました。」
「みなのもの! 良いか! 精霊王様のお言葉だ! 異存はないな!」
その場にいる貴族達が返事をする。
「ハハッ――――」
オレと師匠は城を後にして街に出た。すると、城の地下牢から解放された罪のない人々が抱き合って喜んでいる。その中に、夫婦らしい男女がいた。
「マナちゃんのお父さんとお母さんですよね。マナちゃんが王都に来ています。ぜひ会いに行ってあげてください。」
オレ達はマナのいる宿屋の前まで案内してその場を立ち去った。
「いいのか? シン!」
「いいんですよ。この方が。会うと彼女の心が揺れるかもしれませんから。」
「そうだな。」
オレと師匠は古代遺跡に向かった。古代遺跡には思った通り古代兵器があった。オレはそれをすべて回収して、師匠が消滅させた。
「終わったな。これでこの国も平和になるだろう。」
その頃、王都では噂が広がっていた。国王の正体は悪魔で、それを神の使徒の男女が討伐したと。
宿屋で父親と母親と涙の再会を果たしたマナは、これまでの出来事をすべて両親に話した。
「シン兄様とナツ姉様はやはり普通の人間ではなかったんですね。ありがとうございます。」
マナの顔は微笑んでいたが、何故かその目からは自然と涙が溢れていた。
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