ガレン伯爵
街道を歩いているとすれ違う人もいる。森を抜けると、道が何本も交差するようになった。次の街が近いのだろう。
「マナちゃん。次の街について教えてくれる?」
「うん。街の名前はヤヂオっていうの。ガレン伯爵の領地よ。」
「ガレン伯爵っていうのはどんな人かわかる?」
「貴族様のことはよくわからないわ。でも、私の村の領主だったドレン子爵ほどひどくないと思うけど。」
すると、カゲロウがオレの肩に戻ってきた。オレ達は念話で会話をした。
『カゲロウ。あの子の前ではしゃべるなよ。』
『わかりました。でも、誰ですか?』
『この前の街で領主から助け出したんだ。そうだ。この子の村に両親がいたようだが、どこかに集団で移住したようなんだ。調べてくれないか。』
『はい。いいですよ。報告なんですが、シン様がこの国の軍隊を壊滅させたため、王都では無理な徴兵が行われています。』
『わかった。引き続き調べてくれるか。』
『はい。』
「シン兄様。その鳥はシン兄様の鳥なんですか? よくなついているようですが。」
「そうだよ。カゲロウっていうんだ。」
「カゲロウちゃんですか。可愛いですね。」
「シン。街だぞ! どうやら検問があるようだ。」
「マナちゃん。オレと師匠もマナちゃんと同じ村出身ということにしてくれるかい?」
「うん。いいよ。お兄ちゃん。」
マナちゃんがオレの腕を掴んで体を密着させてきた。師匠と違ってまだ小さいが、それでも腕には柔らかいものを感じた。自然とオレの鼻の下が伸びていく。
「シン。お前まさか?」
「違いますよ。マナちゃんはまだオレと同じで子どもじゃないですか? オレにそういう趣味はありませんから。」
マナはオレの言葉が不満なようで、隣りで頬を膨らませている。
城門の前の列にオレ達も並んだ。しばらく並ぶとオレ達の順番が来た。門番にマナが説明している。どうやら、マナと同じ村の人達が何人かこの街にいるようだ。オレ達は、その村人を探すことにした。
街の中では兵士達が動き回っている。何かあるのだろうか。街並みは流石伯爵領の領都だけあって、たくさんの店が並び賑わっている。だが、街を歩いているのは相変わらず人族だけだ。とりあえず、オレ達は狩人ギルドに向かった。
狩人ギルドに入ると、男女様々な狩人がいた。やはり酒を飲んでいる者はいなかった。受付には3人の美女がいた。誰も並んでいなかったので、オレ達は受付けに行って聞いてみた。どうやら、マナと同じ村の出身者は市場の裏で暮らしているらしい。
ギルドを出て村人達がいるという場所まで急いだ。市場の裏に行くと、今にも崩れそうな小さな家が並んでいた。どうやら、マナの知り合いがいたようだ。
「おじさん。」
「マナちゃんかい? 領主に何かされなかったかい?」
「はい。あそこにいる人達が助けてくれました。」
「そうかい。それは良かった。」
「村はどうしたんですか?」
「ああ、マナちゃんが連れていかれた後にブラックウルフの群れがやってきてな。大勢死んだよ。だから、皆で村を出たんだ。」
「お父さんとお母さんは?」
「ああ、ロゼッタとハルルなら王都に行くと言っていたな。なんか、領主の悪行を訴えるとか言っていたぞ!」
「ありがとう。おじさん。」
「マナちゃんも元気でな。」
オレ達の行き先が決まった。最初に王都だ。古代遺跡は後回しだ。表通りに出ると、兵士達が大勢集まり始めた。
「師匠。何かあるんですかね?」
「ああ、探ってみる必要がありそうだな。」
オレ達3人はその日は宿を取った。このヤヂオの街で1泊することにした。師匠には宿でマナと一緒にいてもらい、オレだけ単身で隠密を発動してガレン伯爵の屋敷にもぐりこんだ。
ガレンの屋敷の会議室には貴族風の男達が集まっていた。
「ガレン様。私はもう我慢が出来ません。このままではこの国の民は生きていけません。」
「私もスカイ男爵と同じ意見です。決断してください。」
「そうかグリーン子爵もスカイ男爵も私に国王を討伐せよということなんだな。他の者達はどうなんだ?」
「私も賛成です。」
「私もです。」
「そうか。ここにいるみんなが同じ意見なのか。ならば、私も決断しよう。このチギト王国の民のために決起しようではないか。」
「オオ―――――――!!!」
ここで信じられないことにガレン伯爵がオレの存在に感づいた。
「この部屋に誰かいるな。話を聞かれたらまずい。警備の兵達に警戒させよ。」
「ハハッ――」
男爵が部屋の外に出て兵士達に声をかける。兵士達は慌ただしく動き始めた。オレは仕方がないので、転移で宿まで戻った。自分の部屋に戻ると、オレのベッドに師匠とマナが座っていた。
「えっ?!」
オレとマナの目が合った。
「えっ?」
まずい。オレが転移してきたところを完全に見られた。
「シン兄様。いつからそこにいたんですか?」
「さっきからいたよ。2人が話に夢中だったから声をかけなかったけど。」
「なら、ナツ姉様との話を聞いていました?」
なんか、マナが真っ赤な顔をしている。
「何のこと?」
「マナがお前のことを好きだってことだよ。」
「ナツ姉様! なんで言っちゃうんですか?!」
「だって、好きなんだろ!」
「そうですけど・・・・・」
「オレには愛する人がいるんだ。この世界で一番愛しているんだ。それに、オレはまだ13歳だし、マナちゃんもまだ12歳だよね。でも、いいお兄ちゃんなら大歓迎だよ。オレは一人っ子だったから。」
「やっぱり、ナツ姉様のことを愛しているんですね。わかりました。私もナツ姉様のように女を磨きます。」
マナちゃんは自分の胸を触りながら、ナツの胸を見た。
「馬鹿! マナ! お前勘違いしているだろう! 女を磨くっていうのはそういうことじゃないぞ!」
「わかってます。ただ、私はまだ 成長段階だなって思っただけです。」
師匠も顔を赤くしている。その場に笑い声が響いた。
「さぁ、この街を散策してみようか?」
3人はヤヂオの街を散策しに外に出かけた。これから王都までの旅をするにあたって、服屋に言ってマナちゃんと師匠の服を買わなければならない。オレはマナちゃんに魔法の鞄の話をして、荷物はすべて鞄の中に仕舞った。
魔法の鞄と聞いてすごく驚いていたが、実際に使うところを見て納得していた。
宿に戻り夕食を食べた後、オレが一人でベッドに寝転んでいると師匠がやってきた。
「それで、ガレン伯爵はどうだった?」
「はい。どうやら、ガレン伯爵と仲間の貴族達が国王に反旗を翻すようです。」
「そうか。ガレン伯爵はどんな人物だ。」
「はい。民を大事にする人物のようです。」
「ならば、私達がその手助けをするか。」
「はい。そのつもりです。」
読んでいただいてありがとうございます。




